秘密の交流4
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迷子のような途方に暮れた顔のローレンスはそのまま話し続けた。
今まで誰にも言えなかった鬱憤を晴らすように不満そうな声色で。
「中央にいればもしかしたら剣で身を立てることも可能ではないかと思っていた。だが姫殿下はあの調子で近衛は俺以外頻繁に入れ替わるせいで他の王族の近衛や王宮の騎士団にも下に見られる始末だ。おかげで姫殿下の近衛は剣や魔法の腕ではなく顔と家柄さえあれば成れると陰で揶揄されている」
「それは…うん。お疲れ様」
ローレンスが悔しそうに吐き出した不満はこの前私が懸念したことでもあった。
やはりアスマリアは王族の中でも権威が低くみられているようだ。
これは年齢がどうとか性別がどうとかの問題ではない。
カリスマ性というのはそれらの垣根を超えて備わるものだ。
そして統治する側の者に欠片でもないと致命的にもなる。
幸いアスマリアには溢れんばかりのお姫様オーラがあるので、相手を思い遣った話し方や接し方さえ身に付ければすぐに味方は増えると私個人は思っている。
心の底から同情する私の反応に気を良くしたのか更に続々と不満を爆発させたローレンスは早口に捲し立てた。
「それだけじゃない。姫殿下は俺を引き抜く時にも公爵家では高々子供3人面倒も見られないとか辺境へ養子など信じられない、と言って父上を怒らせてしまうし。そのせいで未だに俺は家の敷地を跨げていない」
きっと自分の子を他所へやることに反対だったんだなぁ。
王族は基本婚姻以外で家を出ることないんだろうし。
「近衛隊に入った同期にもローレンスは自分がわざわざ引き抜いてきたからお前達は絶対敵わないだなんだと言うものだから、お前一人で充分だろうと言われて皆抜けてしまうし」
きっと自慢、したかったんだね。
ローレンスの置かれていた環境に思わず涙ぐみそうになった。
気分は動物ものの感動ドキュメンタリーを見ている視聴者だ。
だって私、関われない領域だし。
これだけイケメンで高貴な家柄できっと剣の才能だってあるだろうに、なんでコイツこんなに苦労してるの?
長男じゃなくて三男だから?そういう星の下に生まれたとか?
困惑と同情の気持ちで見つめる私の視線ももう気にならないらしく、不満は更に爆発へ向かい膨らんでいく一方だった。
「兄上達には散々止めておけと言われたが、俺に選択権などあるわけがない。相手はこの国の姫だぞ?父上とて俺に家を継がせないと言った手前、断れるわけもないのに」
そろそろアスマリアが帰って来ちゃうのでは?と心配になるくらいには話していたと思う。
私が時折扉を気にしていると、それに気が付いてハッと我に帰ったローレンスが気まずそうに言った。
「すまない。こんなことを言われても困らせるだけだな」
「私は貴族じゃないから話を聞くくらいしか出来ないけど、それでも良いならいつでも聞くよ」
「……ありがとう」
少し眉を下げてはにかむ様に笑う目の前の彼が、初めて年相応な少年に見えた気がした。
それからすぐに扉が開いて部屋の主人が帰ってきた。
大分席を外していたが、一体何の用があったんだろう?
「お待たせしましたわ。二人とも、お話は出来たかしら?」
「レヴェリアへ謝罪の機会を頂き、お心遣いに感謝致します。姫殿下」
「それは良かったわ!」
満足気に腰に手を当ててえっへん!と得意げに笑うアスマリア。
どうやら私たちがギクシャクしていたのを気にしていたらしい。
先程まで愚痴が爆発していたとはとても思えない、以前の様な涼やかな顔でローレンスはアスマリアに礼をとった。
どうやら事前に示し合わせていたことらしい。
「仲直りできて良かったわ!それで、お茶の方は用意してくれたのかしら?」
「ありがとうアスマリア。はいこれ」
「さすがレヴィね!お母様に頼まれたのは勿論だけど、やっぱりわたくしも貴女のお茶が飲みたいの。だから沢山用意してくれて嬉しいわ!」
本当に嬉しそうな顔でそう言ってもらえるとこちらとしても作った甲斐があるというものだ。
本来は彼女の為に作ったのだから、出来ればそちらにもと思い余分に作っておいたのが良かった。
早速籠を手渡して中身を検分してもらうことにした。
瓶自体はパピヨンにあった物を使っているので王妃のお茶会に相応しい物に新たに入れ替えてもらうとして、毒見も事前にしておいて欲しいところだ。
何せ他の貴族達の口にも入るのだから、万が一アスマリアや自分に火の粉が降り掛かる危険性がある。
よってこのお茶に毒性がないことを複数人から証明してもらう必要があるのだ。
「ちゃんと事前に何人かの人に確かめてもらってね」
「ええ!ちゃんと探しておいたわ!お父様とお兄様と、ローレンスよ!」
ああああああっそれは王族!!!
初見で一番飲ませちゃいけない人だからそれぇ!!
私が心で大きく叫ぶのと時を同じくして、ローレンスが右の手のひらで自身の目元を覆うと静かに天を仰いだ。
どうしてそうなるんだーー。
今、私たちの心は一つになった。
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