最悪の初対面1
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約束の時間の10分前になった。
手土産の布袋をカーディガンのポケットに入れ、服に汚れなどがないかを確認した。
今更ながらもう一度同じことが出来るのだろうか、と不安に思いつつ昨日と同じ様に手のひらを地面に向けて集中した。
昨日よりは早い段階で手のひらが暖かくなり、足元にもそれが落ちていく感じがした。
ふんわりと風を感じる様になったので昨日行ったあの部屋を思い出してイメージを固める。
瞼越しに光が強くなった後、ふわっと一瞬だけ体が浮いて一気に光が消失した。
暗くなったのを感じたので目をゆっくり開けてみると、昨日見た天蓋付きの大きなベッドが一番に見えた。
あ、お姫様の部屋だ。
成功したんだ。
そう確信したのでふぅ、と息を吐いた。
その瞬間、
背後からガッと強い力で左腕を後ろに捻り上げられ、体を床に引き倒される。
顔を強く床に打ちつけたのか目の前がチカチカした。
そして背中に何かを乗せられて上から胸を圧迫される。
うぐ、苦しい…!
息が出来ず苦しさから涙が出て来た。
抜け出そうにも腕を掴まれていて動けないし、上に乗られているせいで足に力を入れてもびくともしなかった。
「子供か?ここが何処か分かっているのか」
まだ高い子供の声だ。
今の私とそう変わらない、少年の声。
でも力は子供のものとは思えないくらいに強く重たい。
身体能力強化の魔法を使ってるのかもしれない。
頭の片隅で冷静にそう思う半面、酸欠でパニックになりかけているので魔法を使うという選択肢が出て来なかった。
やばい!死ぬっ!
そう思った直後、
「おやめなさい!ローレンス!!」
アスマリアが鋭く制止する声が聞こえた。
だが抑えつける力は全く緩まない。
むしろ少し強くなった気がする。
「…しかし、」
「その者はわたくしの客人です!」
「……かしこまりました」
全くかしこまってない声色で背中から重しが消え、突然入って来た空気に咽せ込んだ。
荒い息で痛む左腕を抑えて起き上がる。
少し遠くから泣きそうな顔でこちらを見るアスマリアとその前隣には私を抑え込んだであろう仏頂面の美少年が冷たい目でこちらを見下ろしていた。
なんなんだ一体。
息苦しさと腕の痛みが先行して状況を飲み込めずにいると、アスマリアが少年を押し退けてこちらへやって来た。
「だ、大丈夫ですの!?ごめんなさい、わたくしが席を外していたばかりに…!」
「姫殿下、一体どういうことかご説明頂けますか?」
「先ほども言いましたわ。彼女はわたくしの客人ですの」
「魔法で不法侵入する様な者を客人とは言いません」
た、確かに…
私への態度にはイラッと来たが言っていることは正論だった。
「レヴィは女神様が遣わせて下さったわたくしのお友達ですのよ!」
「……そうですか」
や、やめろ!!そんな残念なものを見るかの様な視線を向けてくれるな!
アスマリアが勝手にそう解釈してくれたので昨日は否定しなかったが、今思えばとてつもなく恥ずかしくないか?
でもあれを否定していたらどっち道こうなっていたし、選べる様な選択肢はなかった。
うん、そういうことにしとこう。
アスマリアがそうですわよね?と言わんばかりにこちらに視線を向けるので、命が惜しい私はぶんぶんと縦に首を振った。
もうなりふり構ってられるか!この場を乗り切る為なら恥ずかしいけど肯定してやる!
「ほら!ですから彼女は客人ですわ。異論は認めません」
「…承知しました」
「さすがローレンスですわ!ではレヴィ、そちらのソファへお掛けになって」
「はぁ、ありがとう…、ございます」
昨日の勢いでタメ口をきこうとしたらギン!と少年に凄い剣幕で睨み付けられた。
さっきの出来事が記憶に新しいので反射的に敬語を付け足してしまった。
それに不満なアスマリアはローレンスに再度注意をすると、今度こそ彼は壁際に控えてこちらを見るだけになった。
アスマリアに促されたソファに腰掛けて息を吐くと、また左腕の痛みがぶり返して来た。
2人分のティーセットが置いてあるテーブルを挟んで向かいのソファに座ったアスマリアは、そわそわと落ち着かない様子でこちらを見た。
何か話せってことかな?
敬語を使ったらきっとまた不満そうにするだろうけど、タメ口はあの従者?から牽制食らいそうだし。
どっちに転んでも終わったのでは?と諦めの境地へ至った私は、あの少年をスルーする方向で結論付けた。
「実は、アスマリアに手土産があるんだけど」
「贈り物ですの!?わたくしお友達からのプレゼントなんて初めてですわ!」
目をキラキラさせている彼女には申し訳ないが、そんな期待している様な大層なものではないのだが。
布袋を出そうと懐に手をやった途端に壁際の気配が蠢くのは本当に寿命縮むからやめて欲しい切実に。
絶対腰に下げた剣抜こうとしてるでしょ!
素人だけど流石にこの流れは先の予想がつくんだよ!
アスマリア、こっち見てないで壁見て!従者に命令して!
……もう帰りたいよー!
こうして私は懐に手を入れたまましばし動けなくなったのである。
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