電撃訪問3
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結局お姫様がどんな対策をするのかよく分からないまま次の日を迎えた。
一応また同じ場所へ転移出来るのか女神様に確認してみると、
『一度行った所なら大丈夫だワ!』
とお墨付きをもらったので、行く分には大丈夫だろう。
朝食を軽く済ませて手土産を確認した。
前回はまさかお姫様の部屋に行くことになるとは思わなかったので、なんの荷物も持っていなかったのだ。
仕方なかったとはいえ、仮にも人様の家に行くのだ。
何か持って行かないとと思うのは自然なことだと個人的には思っている。
この前カリギュラの市場で魔法薬を扱っている店を見ていた時にたまたま見つけた茶葉を持って行くことにした。
超高級品と言うわけではないが、珍しいものだったのでソレに少し手を加えてみようと思ったのだ。
飲食物だしもし毒とかの理由で断られたら私が全部飲めばいいや。
いつもの麻袋ではあれなのでちゃんとした布袋も探して用意しておいた。
師匠がいつも実験に使っているL字型の大きな長机の近くにある二人掛けソファくらいの机が私の作業場だ。
実験に使う素材の解体や瓶詰めなどの単純作業から補助までをこなす為に用意してもらった。
素材は確か南の森にある大木を魔法薬を使って加工したものだと言っていた。
南の森は大陸の南にある国々を分断する様な形をしていて正式名称はサウスポティエと呼ぶと言う。
満月華を取りに行った時はちょうどカリギュラに接している端っこの部分で崖地しかないので人が寄り付かない場所だった。
ファルファーラの森もそこそこの大きさだがサウスポティエはその倍以上で大森林と言っても差し支えないくらい大きい。
作業机は常に整理整頓する様に心掛けているので師匠の机の様に大鍋や薬瓶があちこちに散乱している、という事態にはなっていない。
師匠の机は片付けても片付けても際限なく散らかるので使用済みの素材以外は触らない様にしている。
7歳になる前くらいに間違えて術式の完成待ちだった小さい魔鉱石を捨ててしまった時はとても恐ろしい目に遭った…。
あの時はお腹を空かせたフェローの餌を首の後ろで括られて魔法で逃げろ、なんて無茶振りをされて割と真面目に死を覚悟したものだった。
死に物狂いで魔法を使って、師匠の魔法で強化された紐を外して餌を放ってなんとか逃げられた。
でも何度か夜中に魘されてトラウマになるところだった。
さすがにこれは酷いのではないか、と数日後リーレットさんが来た時にこっそり告げ口をしたらいつもの温和な笑顔が消えて無表情となり次の瞬間、般若の如く怒って師匠の首根っこを掴み家を出て行った。
それから師匠は1週間くらい帰って来なかった。
その夜、誰もいなくなったパピヨンに珍しくラリューヌさん達が泊まりに来てくれて楽しい1週間を過ごしたと記憶している。
因みに帰って来たあとの師匠はしばらく優しかったし、なんならアレ以来理不尽なお仕置きは無くなった。
一体リーレットさんが師匠に何をしたのかは分からないが、この出来事は彼女が師匠のストッパーと言われる由縁にもなったのである。
さて、そろそろ手土産作りを始めるとしよう。
まずは茶葉をバットに全て出してしまう。
そこへ師匠から教わったお手製の魔法薬をひたひたに漬け込み手を翳して自分の魔力を流し込む。
この魔法薬はいつも師匠や私が使用している美容液を食用に改良したもので、まだ市場には出回っていない。
師匠の美容液は貴族を中心にとても人気だそうで、ラリューヌさんはよく実家から他家の分も含めて買い付けに行くよう言われるらしい。
魔女アムリネの美容液シリーズは南の大国でも絶大な人気を誇っていて王族御用達なお陰か入国審査はほぼ顔パスで済むのだと師匠が言っていた。
南の王国はかつてとても大きな国だったと言われ、大陸の殆どが領地だったらしい。
そのせいか自尊心がエベレスト並みに高く人間以外の種族を下に見ているとか。
入国審査が大陸で一番厳しいのも自国に魔物と人のハーフ、ここでは魔人と言うらしいが、彼等を含む人間以外の種族を入れたくないからだと言われている。
そんな国でも喉から手を出すレベルで欲しがる様な美容液を作れる師匠のレシピを一番近くで見られるのはとても幸運なことだ。
魔法薬で漬けた茶葉は元の茶色から魔法薬の色を吸って徐々に緑色になって来た。
これが元の茶色へ戻るまで魔力を流し続ける。
今の私は魔法を使っているわけではないため魔力リングは発現せず手のひらがぼんやり光っている状態だ。
しばらくすると茶葉が元の色に戻り魔法薬の色が透明になる。
そうなれば茶葉へ魔法薬の効果が浸透したことになるので、茶葉を網で掬って魔法薬から上げる。
上げた茶葉を別のバットに移して慎重に火属性魔法と風属性魔法を上手く併せて乾かしていく。
なんだか女神様と夢で会ってから魔力操作がやり易くなった気がするなぁ。
そんな事を考えながら魔法を使う余裕も出て来たのだ。
魔法を使っては木ベラで混ぜ、また使っては混ぜを繰り返すこと数回。
やっと最初のパリパリ感が出て来たので乾いたと見て良いだろう。
念の為効果を確認する為に少量の茶葉を残して全て布袋へ纏めていく。
残りをティーポットへ入れてお湯を注ぎ、しばらく蒸らしたあとカップへ注いだ。
布袋は両手のひらに収まるくらいで継続的に飲むには物足りない程度にしておいた。
もし飲んでもらえなかった時に早く消費できる様にしておきたかったからだ。
お茶だけなのも口寂しいのでお茶請け用に保存してあるクッキーを取り出して小皿に盛り付けた。
ちょっとしたティータイムがてら作った魔法茶葉の効能を確認する。
口を付けると元の茶葉の風味はしっかり残っていて魔法薬の匂いや味は感じない。
ただ色は茶色の茶葉だけとは思えない緑茶の様な緑色なので、普通の茶葉ではないのがよくわかる様になっている。
これは他の茶葉と区別がつく様にするためと、もしこの手法を毒入りの魔法薬で行なった場合にちゃんと混入が分かるようにするためだ。
お茶を飲み終わり、お茶請けのクッキーも最後まで食べた後に洗面所まで行って鏡を確認した。
おぉ!ちゃんとつやリング出来てる…し、触り心地ももっちり感出た!
頬に人差し指をゆっくりと挿して盛り上がった皮膚に光のリングが出来るのを見た。
次にフェイスラインを包む様に両手のひらを当てて肌に張り付く感じあるのを確認。
よし!成功したみたいだ。
今やっているのは効能の確認だ。
今回は肌を保湿して維持する魔法薬を含ませた茶葉で淹れたお茶を飲んで、実際に肌に潤いが出るかをチェックしたのだ。
実験段階ではもう何度も成功していたので今回は念の為ということになる。
師匠の美容液はとても人気だが、いかんせん魔法薬は味がとにかく独特だ。
気にしない人も中にはいるだろうが、美容液のメインユーザーが貴族などの富裕層で彼等の食生活を考えると味覚的に中々継続が難しい。
美容のためとはいえ口に合わない物を摂取するのは誰しも苦痛に感じるものである。
そこで魔法薬の効能をしっかり摂取できて、かつ独特な味が抑えられた物があれば最高なのでは?と考えて師匠に提案してみたのだ。
味に関してはやはり彼女も改善の必要を感じていたそうでかなり乗り気でGOサインを出してくれた。
ついでに美容液の常連であるラリューヌさんも大賛成してくれた。
なんなら出資する話まで出して来たくらいだ。
まだ完成とは行かないが大分進んできた様に思う。
満足いく出来ににんまりと笑顔を作りながら使った食器を洗って昼食の準備に取り掛かった。
今晩はアスマリアの元へ行くから早めに支度をしなきゃな。
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