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妹の献身

閲覧ありがとうございます!



姉の為、夜遅くに入り慣れた森へ向かったピティ。

しかし夜の森は昼間遊びに入った時とは別世界であった。

アシッドグリズリーという名前は教会の近くにあったパン屋のおじさんに聞いたことがあった。




ピティは4歳の頃に両親に捨てられ教会の孤児院に引き取られた。

それから間も無くして″姉″もやって来た。

″姉″は元貴族の家の出だと他の孤児達が噂していた。

人当たりの良いピティは孤児院の子供達に好かれていたが、″姉″は体が弱く没落した貴族ということもあって主に嫉妬や僻みから疎まれていた。


幼いながらに美しい容姿も、育ちの良さが垣間見える仕草も。

全てが自分たちを見下している様に見えたのだろう。




しかしそれはただの外側から見ただけの偶像に過ぎないとピティは知っていた。


ピティは神父に気に入られている。

それはしばしば夜間に一人で出歩くのを許されている所からも窺えた。

だがそれを他の孤児達は羨ましがらない。

彼女がそれ以上の苦痛を強いられているのを知っているからだ。






「ピーティアラ、こんな遅くまでどこに行っていたのかな?」


「ぁ、ひ、し、神父様っ」


「夜中に抜け出したのは感心しないな。早く部屋へお戻り」


「…はい」




孤児院の渡り廊下で抜き足差し足歩いていると、分かっていたかの如く現れた神父にビクリと薄い肩が跳ねる。

レヴィと話していた時が嘘のように緊張した面持ちで受け答えするピティ。

神父と会話をしたあと、レヴィからもらった麻袋を懐に隠しながら早足にとある部屋へ向かった。



出来るだけ音を立てないように、その部屋の扉を開けた。





この教会は孤児院を併設していて子供達は基本的に大部屋へ入れられる。

けれどそこで例外的な待遇を受けているのが″姉″だ。


彼女は体が弱い為、皆が過ごす大部屋ではなく小さいながらも個室を与えられている。

本当の理由はそれだけではないがピティはそう思っていた。

それが神父の優しさからであると信じているのだ。


そんな″姉″がいる部屋を音を立てないよう気を付けて訪れるピティ。

ベッドにある山が規則的に動いているのを確認してこっそりと部屋の中へ侵入した。




ベッドサイドへ行くと夜明けの明かりに照らされる、とても美しくそして死人のように青白い顔で静かに眠る″姉″がいた。



ピティはレヴィから貰った麻袋を弄って保存処理の施された満月華を取り出した。

そこで漸くはた、と気が付いた。

これ、どうやって飲ませれば良いの?と。




結局しばし悩んで考えた末にピティが辿り着いた答えは、レヴィがピティの怪我にと考えて渡した回復薬に満月華の魔力リングを帯びたおしべごと放り込んでチャンポンした物を飲ませる事だった。

通常の回復薬は緑色をしているが、レヴィが渡した回復薬は何故か青緑色だった。

ピティは回復薬を初めて見たのでこれが正しい色だと信じていた。



何が良いのかも分からぬまま無駄に思い切りの良い手つきで回復薬(謎)を作るピティ。

二つを混ぜてみると綺麗な青色の液体になり、満足気な顔でピティは頷いた。

この様子を見ていたなら″姉″もピティの渡したものを飲まなかっただろう。


しかし今は明け方で回復薬の色はよく分からないしまだ寝ているのでピティの暴挙も知らなかった。




「おねぇちゃん、起きて」


「…ん、ピティ?どうしたの?」


「これ、私が作ったの。きっと良くなるから飲んでみて?」


「…ありがとう。もらうね」



大方解熱薬か何かを溶かしたものだろう、そう熱で浮かされた頭で深く考えずにピティから回復薬(謎)の入った瓶を受け取る″姉″。


それを飲み慣れた様子でグイッとあおるまで見守ったピティは嬉しそうにじゃあ私は部屋に戻るね!と声を掛けて部屋へ戻って行った。


飲み切ってから、なんかいつもの薬と違う?と寝ぼけ眼で手に持った瓶を見つめた″姉″は、突然感じた胸の熱さに驚いて瓶を落としてしまった。



ころころとベッドの下へ転がるそれを追うことも出来ず、胸付近でパジャマを握り締めて体を丸めた。

そのまま徐々に意識は遠のいて行ったのだった。










明け方に眠りについたピティは昼前にふと目を覚ました。

大部屋で寝起きしているので、いつもなら騒がしい子供達の声でもっと早くに起こされるはず。

そう思ったピティは周囲を見回したが、意外にも部屋には誰1人としていなかった。


魔力が確認されたのは孤児院ではピティ1人。

そのせいかたまに仲間外れにされることもあったので、またそういうのかもしれないと思ったピティはゲンナリした。




顔を洗うには外の井戸まで行かねばならないので、軋むベッドを降りて廊下へ出た。

すると慌てた様子の老齢のシスターがちょうど目の前を横切った。

ピティは瞠目して遠ざかる彼女の後ろ姿を見つめた。


普段朗らかに笑いながら子供達に廊下を走らないように、と注意するシスターが自ら廊下を小走りしていたのだ。

これは何か大変な事が起きたのかも、とやっと覚醒してきた頭で思い至ったピティは顔を洗うのを見送ってシスターの後を追った。






「なんてことかしら!こんな事が起こるなんて…」


「きっと女神様の祝福ね」


「セレスティアすごーい!」


「何かやってみせてー!」



一つの部屋の前に人集りが出来ているのを見つけると、ピティは胸がヒヤリとした。

そこが″姉″セレスティアの部屋だったからだ。

体の弱い彼女に何かあったのではないか、と心配したが周囲の人の反応を見る限りピティが想像した事ではなさそうだ。


主に子供達で出来た人垣の後ろから中の様子を覗き見ると、昨日まで起き上がるのもやっとな位に熱が酷かった″姉″が椅子に座って神父やシスターと話をしていた。

ここから見る限り今朝の様な青白さは微塵もなく、むしろ″健康そう″とも言える頬の赤みがよく分かった。



あの回復薬と満月華が効いたのかも!と嬉しくなったピティは彼女達の話に耳を傾けることにした。





「一体どういう事なんだい?セレスティア」


「私にも分かりません。今朝起きたらとても調子が良くて…」


「何かいつも違うことはなかった?」


「そういえば、ピティが部屋に来た気がします。熱で意識が朦朧としててよく覚えていませんが…」


「ピティが?…ピティ、いるかい?」




神父に名前を呼ばれて、ピティはドキリと心臓が跳ねた。

明け方帰って来た時に神父から早く部屋へ帰る様に言われたからだ。

実際にはセレスティアの部屋へ行き回復薬を飲ませていたわけなので、ピティは神父の言葉に背いたことになる。


もしも一直線に部屋に戻っていなかったと知られたら″訓練″が厳しいものになるかもしれない。

そう思ったピティは咄嗟に口から出まかせを言ってしまった。




「こ、ここです。」


「セレスティアの言葉は本当かな?夜中にここへ来たのかい?」


「ちょっとだけ…熱があったから心配で。でも、入り口から覗いてすぐに部屋に戻りました!」


「そうか…。理由は分からないが、セレスティアに魔力が芽生えたのは喜ばしいことだ」


「本当に、不思議な事があるものですね。まさに女神様の祝福としか言い様がありません。しからばこの子には学院へ行く資格があるのかも知れませんね」




シスターの言葉に俯いていたセレスティアはハッと顔を上げた。

魔法使いには13歳から通える教育機関があり、特に学院と呼ばれるアルテナス神興国にあるアルティ学院は世界最古の名門校だ。

そこへ通うことは魔法使いにとっての名誉であり卒業すれば将来の就職先には困らないと言われている。


元貴族から落ちぶれてしまった今の生活は彼女の自尊心を酷く傷つけたが、シスターのこの言葉に光を見出したのだった。





「しかしエバンナシスター、アルティ学院の学力水準はとても高い。魔力があるだけでは入学出来ません」


「でしたら出資元の貴族の方々に打診してみてはいかがでしょう?魔力を持つ子でしたら養子に迎えることも珍しくありませんし、中央とは違ってここは学院へ通うのに差別意識を持つ貴族は少ないのではありませんか?」


「まぁ、確かに。話してみる価値はありますね」


「折角魔力が発現したのですから、今後のためにも学習の機会は設ける必要があると思います。特にセレスティアは体が弱くて心配だったから、調子の良いうちにやってあげたいわ」




シスターは愛しむ様にセレスティアを見ると、次いでピティにも視線を向けた。



「以前から思っていた事ですが、ピーティアラにもセレスティアと同じように学ばせてみてはいかがでしょう?」


「ピティを?ですがこの子はセレスティアとは違って貴族のルールを知りません」


「生まれで差別をすることは女神の教えに反しますよ、オルゲイ神父」



シスターの咎める様な言葉に内心歯噛みしながらも、表面上は納得した様子で頷くと神父は二人に言った。




「では私は二人の後ろ盾になってくれそうな貴族を探してみるよ。二人とも、入試を受ける覚悟はあるかい?」


「「はい!」」




二人は元気よく返事をした。

セレスティアは自身が選ばれた特別な人間である様な、ピティは学院に行けばまたレヴィに会えるのではないかというそれぞれの希望を持って。


その様子を皆が好奇心と羨望の眼差しで見つめていたが、神父だけは心情の読めない無表情をしていた。


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