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散策3

閲覧ありがとうございます!




まさかの医療事情に驚きを通り越して呆れてしまった。

大陸中の情報や物資は集まるのに、なんで医師は集まらないんだよ!


健康が一番大事でしょ!体調不良とかになったらどうするの?

魔法薬適当に飲んで治す?なにそのエナドリ飲めば治るみたいな!治らないよ!!


呑気に笑いながら言っている店主に思わず胸倉を掴みそうになった。

いくら魔法があったって生き物は死ぬ時は死ぬし、治らないものは治らない。

でも、少しでも治る可能性があるなら…。






お使いを終えて早足に少年の元へ向かった。



彼は人目につかない露店脇の樽のそばで膝を抱えていた。


ずんずんと近づいて行き、目と鼻の先で立ち止まると私に気が付いたのか顔を上げた。

赤茶色の髪に深緑色の綺麗な眼、顔立ちも幼いながら整っていてとても将来有望そうである。



「…誰だ。何の用だ」


「お父様、具合が悪いんだってね」


「だからなんだ。お前に関係無いだろ」


「そうだよ。でも治るかもしれないって分かってるから話しかけた。それだけ」


「!、治るのか!?」



ガバッと立ち上がって腕を掴まれた。

痛い…昨日の人もそうだけど馬鹿力すぎない?私が脆いだけかな?


腕をやんわり引き剥がして一歩下がった。

わりぃ、と言ってバツが悪そうにしている少年に先程購入したハナツボカズラと小瓶を見せた。

口を開けて惚けている様子を見るに、突然デカいチューリップみたいな見た目の草を見せられて混乱しているようだ。



「そ、それは?」


「私の考えが正しければこれで治る」


「ホントか!?オヤジは今家にいる、こっちだ!!」



焦る気持ちは分かるが腕を引っ張るのはやめて欲しい。

少年ことアストライオの家に着くまで彼の足について行った結果、案の定しばし再起不能となった。









「あー、その…悪かった。まさか、」


「み、なまで…言うな…」

そんなに体力がないとは思わなかった、と続くだろう彼の言葉を息も絶え絶えに遮った。

ローブ着たままは暑いな…でも取ると目立つしな。



私の息が整うまで待ってくれるそうなので、その間彼の家とその周囲を観察してみることにした。


交易船が多数停泊している大型のタラップがある大通り沿いの港ではなく、漁船がズラリと並んだ簡素な港から少し歩いた所に彼の家はあった。


漁師達の家がまとまってあるのか、小さな子供が何人も走り回っている。

家は市場で見た様な木材で建てられているものが殆どだった。

日本でもそうだったが湿気や塩害対策なんだと思う。




アストライオの家はその中でも少し外れた場所にあって他よりオンボロな感じがした。


やっと息が整って来たので家の中へ入れてもらうことにした。

パピヨンよりも建て付けの悪い木の扉を開けてもらい中へ入ると、病人特有のすえた臭いがした。

筋肉を動かすためのビタミンが足りず、無気力になりお風呂に入れていないのかも。


漂う臭いに顔を歪めながら申し訳なさそうにこちらを見るアストライオ。

この程度の臭いなら鼻を摘まずとも平然としてられる。


というか師匠が作り出すよく分からない有毒ガスの出るダークマターより百倍マシだ。

少なくともこの臭いで人が死ぬことはないのだから。


表情を変えない私に驚いたのか、お前は大丈夫なのか?と聞いて来た。




「なにが?匂いのこと?別に毒があるわけじゃないから平気だけど」


「…お前すごいな」



泣きそうな顔で笑ったアストライオにこちらが戸惑ってしまった。

え、私なんか変なこと言った?



あとから思ったことだが、自分とそう変わらない10歳そこらの子供が大人のそれも体の大きい男性をキレイに洗うことは不可能だ。

でも生きていれば代謝された汚れが出るもので、どんどん汚れて臭っていく父親を見るのは辛かっただろう。


臭いが出れば近隣の人から何かしら言われるだろうし、誰も手伝ってくれていないのなら周囲から孤立しているはずだ。

しかも当の父親は病気のせいで怒りっぽいらしいから罵られたりもしたかも知れない。




「オヤジはさ、金を稼ぐために遠洋に出る漁を繰り返してたんだ。だから近所付き合いなんてロクにやってないし、オレも殆どやって来なかった」


こんなことになるなら、もっと近所の奴と話しとくんだった。


噛み締めるように呟くと、寝室へ続く扉を開けた。





中はまるで強盗が入ったかの様に荒れ果てていた。


カーテンは引き千切られ床には食べ物が散乱して汚れた衣類が放り出してある。

足の踏み場もない床の向こう、ベッドがあるだろう盛り上がったところに一人の男性が横たわっていた。



「誰だ。アストライオ、誰か連れて来たのか」


「オヤジ、病気を治せるっていう奴を連れて来たんだ」


「嘘だ!!これは呪いなんだぞ!治せるわけないだろ!げほ、がふ、」



咳き込んで血を吐く男性の背を摩るアストライオは唇を噛み締めていた。

とりあえずさっさと作って飲ませて寝かせてしまおう。


拡張魔法を掛けてあるポシェットから先程アストライオに見せたハナツボカズラと小瓶を取り出す。

ハナツボカズラのツボ状の花弁の中、中心部に小瓶の中身を全て入れた。


更に追加で小瓶を取り出して中身をぶち込む。

もう一つ、更に小さい親指くらいの瓶も取り出してそれも入れる。

花弁の中を覗いて液体が溢れていないのを確認したら適当な場所を確保して放置する。




「よし。じゃ、アストライオだっけ?手伝って」


「へ?な、何をするんだ?」


「お前、勝手にっ!うぐ、」


「掃除。こんな環境じゃ治るものも治らないよ」




何とか起き上がって文句を言おうとする男性の肩を軽い力で押してベッドへ戻す。

アストライオは彼に強く出られない。なら、こちらが出るしかない。



「遠洋に出たと聞きました。食糧は必要分お持ちになったんですか?」


「……」


「私の推測では遠洋に出ている間、果物などの地上の新鮮な食べ物を食べていないのではないですか?」


「っ!なんで分かった?」


「だとすると必要な栄養が足らなくなって体を壊していると思われます。今必要分を補う魔法薬を作っているので大人しくしてて下さい」




そう説明すると男性はもごもごと口ごもり大人しくベッドに横になった。

そんな父親の様子が珍しいのか、アストライオが呆けた顔で見つめていたのでそんな暇があるなら掃除しろと叱咤する。



ハナツボカズラは花弁の中に入れた液体を濃縮する効果を持つ。

本来はハナツボミツバチが集めた蜜を入れ、コンデンスハニーを作るのに使われるが今回はビタミンCを多く含む柑橘類の搾り汁を沢山入れた。

そして仕上げに吸収を早める魔法薬を少しだけ入れて今は濃縮待ちである。



臭いが凄まじいのでまずはこちらをどうにかすることにした。


洗い場を教えてもらい汚れ物を全て纏める。

アストライオには家の片付けと掃除をお願いした。

仮にも人様の家だししまったり整理したりは家の人がやるべきでしょ。









時刻は昼を回って16時ごろ。


掃除もひと段落して洗った物がそこら中に干してある。

この家の干し場では足りなかったのでお隣さんに話し掛けて使ってない場所を貸してもらった。


そこに干すのはアストライオに任せて、私は市場へ行ってお昼ご飯とお隣さんへの簡単なお礼を買いに行った。




市場で少しお高めの南の国の果実を買ってお隣さんへ渡すととても喜んでくれた。

お昼は市場で買った羊肉と野菜の串焼きやケバブの様な野菜と肉の挟まったサンドイッチ、硬い果皮に入った果物のジュースを食べた。


アストライオのお父さんはあれから部屋が綺麗になるに従って大人しくなって行った。

ちょうど良かったのでハナツボカズラから取り出した濃縮ビタミンドリンクを飲ませてヤギのミルクで煮込んだパンを食べさせて寝かせた。



アストライオには作った濃縮ビタミンドリンクを幾つかの小瓶に入れてやり、濃縮してあるので一度に3滴ほどを毎食飲む様に言った。




「その、上手く言えないけど…ありがとう。アンタのお陰で助かった」


「まだあれが効くか分からないからお礼はいいよ」


「いや、もう分かってる。オヤジの具合ここ2週間で一番良さそうだから。それでさ、あの…もし良かったら名前、教えてくれないか?命の恩人の名前くらい知りたいからさ」


そういえばローブで顔隠してるのに加えて名乗ってもなかった。

よくこんな不審者の話信じてくれたな。

すっかり忘れててちょっと申し訳なくなったので、顔見せるくらいいいかな?



「私の名前はレヴェリア。珍しい髪色らしいから驚かないでね」


そう言ってローブを外した。

やはり私の髪色はこの世界では珍しいんだなぁ。


夕陽を背後に感じながらアストライオの顔を見る。


その顔は夕陽のせいか真っ赤に染まり、深緑色の目を大きく見開いていた。



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