キノコはキノコでも、食べられないキノコはなーんだ?
「ふぃー、疲れた。やっと落ち着けるぜ」
「桃、ほとんど荷物持ってないでしょ」
「精神的に疲れたんだよ。入学してからずっと、男だってバレないように気張ってたわけだからな」
入寮日。
ゴリラ並み......とは行かなくとも、チンパンジーくらいの筋力は持ってそうな真希に荷物を運ばせて、俺はいち早く備え付けのベッドに寝転がった。
「うおー、すげえ! めっちゃふかふかだ!」
しかもでけえ!
修学旅行で2日目に泊まったちょっとお高いホテルのベッドと同じか、それ以上にでかい。学生寮なのに。
なんて贅沢なんだ。流石は金持ち学校。
「あー無理。寝そう」
「そんなにいいの?」
ーー最高。
短く答えれば、最後の荷物を持って室内に入ってきた真希もその場に置いて、ベッドの中に入ってきた。
ベッドは二台あるのに、わざわざ、俺が寝ている方へ。
「本当だ。このベッド、いい匂いがする」
近い。それ多分、俺の匂い。
「あっちで寝ろよ!」
俺は隣の、全く同じサイズのベッドを指差す。
しかし真希は、全く聞いていない様子で、
「別にいいじゃん」
「おまっ、抱きつくな!」
まるで掛け布団のように俺の身体に覆いかぶさり、手を背中に回して、きつく抱きしめる。俺が抵抗するのも全く気にした様子がなく、うなじの辺りに鼻を押し付けてきた。
すーっ、はーっと、大きく息を吸ったあと、今度は腕を伸ばして、俺を正面から見つめる。一昔前に流行った、床ドンみたいな体勢だ。
「ねえ、桃。これから三年間、同じ部屋だね」
「そうだな」
少し躊躇った後、唇を結んで。
「私で良かった?」
「なにが?」
「ルームメイト。阿坊さんとかじゃなくて、良かったのかなって......ほら、おっぱい揉んでたし」
こいつは何を言ってるんだ。
「他の奴と一緒だと、部屋でも性別隠さなきゃなんねえだろ。お前以外の選択肢はねえよ」
「......そっか」
真希は、嬉しそうだ。
「そっか。そっか」
すーっ、はーっと、うなじに鼻を押し付けて、
「桃は私がいないと、何をするか分からないもんね」
「キモい。彼氏ヅラすんな」
「してないよ。女だし。でもーー」
くぐもった声で何事かを言おうとしたその瞬間。
ーードンドンドン! ガチャ。ドタドタ。
「瀬外桃! 大変だわ!」
アホ子が入ってきた。
いや、入ってきちゃダメだろ。ここ俺の部屋だぞ。
慌てて立ち上がる真希を涅槃のポーズで眺めながら、お嬢様にあるまじき騒音を立てて不法侵入してくるアホ子を待つ。
ガチャ。
「いない」
ダン!
どうやら、トイレの中を確認して、ドアを閉じたようだ。
ガチャ。
「いない」
ガラガラッ。
次は風呂場。ホラー映画かな?
「いた!」
リビングの扉を開けて入ってきたアホ子はいつになく焦っている様子で、全力で走ってきたのか、その髪は少し汗ばんでいる。
「あのね! 大変なの!」
「ちょっと待ったあぁぁあああ!」
玄関の外から、叫ぶような声が聞こえる。
これは......白百合小凪? ドタドタという音は、真っ直ぐにこの部屋へ向かってくる。そして、部屋に姿を表すと、同時。
「あーちゃん、ちょっ、まっーー」
「小凪が、おまたから椎茸生やしてたの!」
ああ、うん。なるほど。
まるで風呂から上がった後、大急ぎで走ってきたかのような、濡れた髪の毛。Tシャツに半ズボンという格好。アホ子を止めようと、伸ばされた腕。間に合わずに、絶望し切った表情。
全てを察した俺は、取り敢えずこれだけは言っておくことにした。
「それ、食べられないよ」
ハーレムもので男の娘が勝ちヒロインになってるの見たい。そんな思いで書き始めた作品なのに、いつの間にかぽっと出の貧乳に全てを持っていかれてしまった。
世の中うまく行きませんね。