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僕の大好きな幼馴染  作者: 愉香
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気掛かり

9月に入り、学校も始まって3週間。


私の学校生活はすっかり落ち着きを取り戻した。


あれから理玖くんは私の前に現れない。


それがちょっと気掛かり…


「美織も大概なお人好しね…


怖い思いさせられたんなら放っておきなさいよ…」


休み時間、怜那ちゃんが大きな溜息をつく。


「うん まぁねぇ…」


私の煮えきらない返事に怜那ちゃんがやれやれと


首を横に振る。


「とりあえずお姉ちゃんに聞いてみたら?」


と実紅ちゃんの方をちらりと見る。


まぁ…確かに。


窓越しの席に座る実紅ちゃんに


声をかけようとする。


私は実紅ちゃんの手元を見て驚いた。


パッチワーク!!! それも細かい…!!!


「えっ!凄っ!!!」


私が急に声を発したから実紅ちゃんがびっくりして


振り返る。


「びっくりした!美織ちゃんか…」


集中していた様だった。


「凄いね〜、パッチワーク!!」


声をかけると実紅ちゃんの隣にいた春花ちゃんが


興奮気味に話始める。


「実紅、凄いよね~!家庭科室のパッチワークの


タペストリーも実紅作なんだよ〜!!」


私はそう言われて家庭科室の壁に飾ってあった


大きなパッチワークのタペストリーを思い出す。


「えっ!そうなの? 何か…意外…」


思わず心の声が漏れる。


そんな繊細な作業が好きな様に見えない…


「1人で、何も考えなくて済むから…


アメリカにいる時からの暇潰しよ…。」


実紅ちゃんはつまらなそうに答えたけど


大人の人の作品みたいに完成度が高い!!


「今は私のリクエストでクッションカバーを


作って貰ってるの!」


春花ちゃんが嬉しそうに答える。


2人は手芸クラブでだいぶ仲良くなったらしい…


「他にもビーズとか、編み物とか、実紅は何でも


上手いんだよ〜!」


春花ちゃんが教えてくれる。


「手先が器用なんだね〜」


私が感心して言うと、実紅ちゃんは首を横に振る。


「理玖のが上手い。」


そう言われて一瞬考える。


理玖くんが手芸を…?


あんなかわいい顔で女子力高いのか…


ちょっと負けた気分になる。


「理玖は凝るから細かい。料理も上手いし…


男にしておくのは勿体ない感じ。」


そう言われて益々負けた気分になる。


料理まで上手いのか~!!!


そこまでくるとちょっとショックを覚えた。


「で?その理玖くんは今どこにいるの?


休み時間、いつも教室にいないけど?」


怜那ちゃんが横から実紅ちゃんに質問する。


「理玖?なら屋上のトコの階段だよ。」


実紅ちゃんが答える。


東端の階段の上ってことか…


「何でそんな所に?」


私も質問する。


「1人になりたいんじゃない?


別にいつもの事だから大丈夫だよ。」


と教えてくれる。


1人になりたいの? 私が考えていると


「何?気にしてくれてるの?」


実紅ちゃんが私の顔を覗きこんでくる。


「美織ちゃんが声かけてくれるなら、


まぁ…喜ぶんじゃない?」


それだけ言うと、


実紅ちゃんはまたパッチワーク作業に戻る。


怜那ちゃんと顔を見合わせた。


「…昼休みに見に行ってみようかな?」


私が言うと


「仕方ないから付き合ってあげる。」


怜那ちゃんがちょっと威張りながら言ってくれる。


「怜那ちゃんも大概なお人好しね。」


私が笑って言うと、


「心配だからね!」とちょっと怒りながら


私の頬を両手でぎゅうぎゅう押してくる。


「すみません。


付き合ってくれてありがとうございます。」


私がお礼を言うと


「よろしい!」と言って手を開放してくれた


昼休みー


東端の階段を登っていく。


屋上は普段立ち入り禁止だから


ここを通る人は滅多にいない。


最後の折返しをひょいと覗くと理玖くんが居た。


怜那ちゃんに理玖くんが居た事を頷いて伝えると、


怜那ちゃんは少し離れた所に座った。


理玖くんは気配を感じた様子で読んでいた本から


顔をあげた。


私と目が合うとすごく慌てる。


「み…、なっ…、え…?!」


言葉になっていなかった。


読んでいた本を見るとエルダナの冒険19巻…


「…とうとう最後まで読んだね?」


私が本を指差してニヤリと笑うと


「あ…、そうなの。」と慌てて答えた。


「いつもここにいるの?」


私は壁に囲まれて何もない空間を見渡した。


「うん。誰も来ないし落ち着くから…。」


「確かに落ち着くけど… クラス、馴染めない?」


私が聞くと理玖くんは首を横に振る。


「みんないい人達だよ。僕が疲れちゃうだけ。」


理玖くんの目は穏やかだった。


この子のどこを怖いと思ったのだろう?


自分でも疑問に思うくらい、そこにいたのは


ただのかわいい男の子だった。


「…美織ちゃん、ごめんね。


怖い思いをさせてたんだね。」


理玖くんが泣きそうな顔をする。


「美織ちゃんの気持ちを考えてなくて


気持ちを押しつけてたね。」


私の反応を窺うように見てくる。


「私も自分の気持ちをちゃんと言えてなかった


から…。逃げたりしてごめんね…」


私も理玖くんの様子を窺う。


理玖くんが首を横に振る。


言葉はそれ以上出てこなかった。


「今日からまた仲良くなれないかな?


私、理玖くんともっと本の話をしたかったんだよ。」


貴重なエルドラ仲間、あれこれもっと話したい。


理玖くんの瞳が揺れる。


何かを考えている様で少し間が開く。


1回、目を瞑ってから意を決した様な目をする。


「わかった。1つだけ条件がある。」


私は小首をかしげる。


「僕をちゃんと振って。それで美織ちゃんの事は…」


次の言葉がなかなか出てこない。


でも私から目をそらさずにちゃんと言おうとする。


「ちゃんと、諦めるから…」


決意の籠もった理玖くんの目から涙が溢れた。


理玖くんの想いに当てられる。


「…っ」


本当に好きでいてくれたんだね。


こんな私のどこが好きなのか…


理玖くんも秀くんもちょっとおかしいよ…


理玖くんには何か… 幸せになって欲しいな…


願いを込める


どうか私なんかよりずっと素敵な人が


理玖くんを幸せにしてくれます様に…


「…理玖くん、ありがとう。でも… 」


私も涙が流れる。


「ごめんね…」


理玖くんはその言葉をちゃんと聞いてくれた。


目を瞑って心に仕舞い込む


「はー…」


理玖くんは息を吐き出すと


「ありがとう」


そう言って天使の様な笑顔で笑ってくれた。


ぐすっ…


後ろで鼻水をすする音がする。


振り返ると怜那ちゃんが泣いてる。


その横には秀くんの複雑そうな顔と


実紅ちゃんと、春花ちゃんが泣いてる。


「…何でこんなにいつの間にいるの…」


私は複雑な気持ちで野次馬達を睨む。


「廣澤くんが美織を泣かせたら公開処刑ものだね!」


怜那ちゃんが泣きながら理玖くんの気持ちを汲む。


「ああ… 秀が美織ちゃんを泣かせたら…


沈める…」


理玖くんが立ち上がって秀くんを見下す。


ゾクッ


理玖くんの凄みにみんなが瞬冷させられる。


やっぱり…君達はいとこなんだね。


そっくりだよ…


「…わかってるよ。」


1人瞬冷されていなかった秀くんが


静かに理玖くんに言った。



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