謝罪
秀くんと一緒に家に帰る。
「ただいま…」
玄関を開けると靴がいっぱい…
来客?と思っていると
「おかえりなさい〜」とリビングから出てきたのは
実紅ちゃんだった。
「?!」
何故ウチに実紅ちゃんが…
固まっている私の横から
秀くんが庇うように私と実紅ちゃんの間に
割って入る。
「随分遅かったじゃない…。
どーせ2人でイチャイチャしてたんでしょ」
実紅ちゃんが呆れた様な声を出す。
実紅ちゃんの後ろから女の人も出てきた。
「美織ちゃん?!」
私の名前を呼ぶこの人は…誰?
私が頭を巡らせていると、
突然その人が玄関で土下座した。
「この度はウチの実紅と理玖が
美織ちゃんに怖い思いをさせたみたいで、
本当にごめんなさい。」
そう言って涙目で顔をあげたその人は
秀くんのパパ、玲音さんにそっくりの女の人だった。
「?!」
突然の事に驚く。
秀くんに聞いてみる。
「…もしかして実紅ちゃん達のママ?」
「…そうだね…」秀くんも困惑の顔をしている。
「美織ちゃん、怪我はない?大丈夫かしら…」
実紅ちゃん達のママこと咲璃さんが
私の周りをキョロキョロしながら怪我がないか
確認する。
「実紅っ!ちゃんと謝りなさい!」
実紅ちゃんが咲璃さんに怒られる。
「わかってるわよ。とりあえず…ハイ。」
そう言って渡してきたのは私の眼鏡。
「理玖が奪っちゃったでしょ?」
眼鏡を受け取りつつも『理玖』という言葉に
反応してしまう。
実紅ちゃんも私の反応に気がついた様子で
「理玖はここにはいないわ。」と言ってきた。
「美織ちゃんに怖い思いをさせたって、
会わせる顔がないんですって…」
「 … 」 …理玖くん …
「本当に、悪かったわよ。」
実紅ちゃんが目を伏せて反省の色を見せる。
「…理玖はアメリカ(向こう)に行っても
ずっと美織ちゃんが好きだったから、
本当はその気持ちを叶えてあげたかったんだけど…
私の作戦が悪かったわ。
秀との関係を壊したかったのに、
心を壊された って言われたら
さすがの私も まずい事したなと思ったわ…。」
実紅ちゃんの話を黙って聞く。
壊すって…そういう意味だったのか…
「私だけじゃなくて理玖まで忘れるくらい、
ストレスかけたことを謝るわ。」
実紅ちゃんが頭を下げてくる。
反省…してる ?
「…理玖にも悪い事しちゃった…。
もし美織ちゃんの心が… 理玖を…大丈夫なら
無視しないでやってよ…」
言葉に迷いながら実紅ちゃんが伝えてくる。
「…実紅ちゃんって、弟思いなんだね。」
姉弟愛か…。 ちょっと羨ましく感じた。
「…そういう訳じゃないけど、
まぁアメリカ(むこう)では他所者扱いで
スクールになじめなかったから、
私も理玖もお互いが支えみたいな所があって…
それだけだよ。」
向こうでうまくいってなかったんだ…
何だかちょっと可哀想な気分になってきた。
「理玖も本が好きだから、また本の話でも
してあげてよ。一応楽しかったでしょう?」
実紅ちゃんに聞かれて頷く。
「楽しかったよ。」
それから理玖くんの天使の様にかわいい笑顔を
思い出す。
「本当にごめんなさい。」横にいた咲璃さんが
また謝ってきた。
「実紅も理玖も加減がわからない所があって、
スイッチ入ると止まらないって言うか…」
咲璃さん…それは全く同感です。
聞きながら納得する。
「確かに距離の詰め方は怖かったけど…
理玖くん自体は優しい子だと思ったよ。
もうちょっと時間をかけて焦らずにきてくれたら
ちゃんと理玖くんを好きになれてたのに…」
私の言葉に秀くんが「え!!」と反応する。
実紅ちゃんも
「時間をかければ良かったのか!
まだ理玖、望みあるかな?」
とニヤニヤしながら秀くんを見る。
「…ダメ!!」
秀くんが横から私に抱きつく。
「絶対ダメ!!理玖、みおちゃんの周り禁止!!
怖い思いさせたしダメ!!」
何だか秀くんが焦ってる。
「それは美織ちゃんの気持ち次第でしょ?
自分の気持ちばっかりじゃダメだよ?秀。」
実紅ちゃんが秀くんの顔を覗きながら
さっき秀くんが2人に言い放った言葉を返す。
「実紅に言われたくない!
反省してないじゃん!!(怒)
みおちゃんも!!
怖い思いをしたんなら もっと警戒しなさい!」
とばっちりで秀くんに怒られる。
今日1日で心が疲れていた私は秀くんに怒られて
悲しくなる。
「…っ そんなに怒らなくたって… ゔ〜っ」
私は両手で顔を覆って泣きじゃくる。
泣き落としみたいで嫌なんだけど
涙が止まらない。
「あ…、みおちゃん!ごめん!そんなに怒ってない…」
秀くんが思いっきり焦っている。
「あーあ… 秀、泣かした〜!
美織ちゃん、ほら、やっぱり理玖のが優しいよ。
秀やめて理玖にしなよ…。」
実紅ちゃんが私の肩をさすって慰める。
「ううっ…考えとこうかな〜(泣)」
そんな気は更々ないけど何となくノリで言ってみた。
涙を拭った手首を掴まれたと思ったら
実紅ちゃんと咲璃さんがいるのに
秀くんが私に長いキスをする。
「!!!」
私は怒って秀くんの胸を叩く
唇を離すと
「離さないって言ったでしょ…」
耳元で静かに私だけに言った。
私の頭を抱える様にして離してくれない。
「絶対渡さない。」
頭の上で秀くんの静かな声が聞こえる。
この口調は、かなり怒ってる…
「ふぅ。秀は美織ちゃんにベタボレなんだね~
でも、そういう方が隙が生まれやすいんだよ?」
実紅ちゃんが楽しそうに笑う。
それから
「秀の気持ちはわかったわよ。悪かったわ。」
実紅ちゃんが少し悲しそうに言った。
「話は終わった〜?」
リビングの戸からお母さんが呑気な声を出す。
私は秀くんに抱きしめられたままなので 固まる。
「いつまでみんなして玄関にいるのよ。
美織と秀くんも、2人共まだ
お昼を食べてないでしょ?
早く食べちゃってよ。
イチャイチャするのはそれからにしてね〜」
お母さんにサラリと言われて私と秀くんは
顔が赤くなる。
「私は帰るわ…」
実紅ちゃんが言って玄関を出ていく。
「秀くんのガールフレンドだったの!
本当にごめんね。」
咲璃さんが秀くんにも謝るけど
秀くんは顔を真っ赤にして何も言えないでいた。
リビングに入ると
千景さんとお兄ちゃんまでいて
同じ顔の2人がニヤニヤしていた。
「修羅場だったね〜♪」
「秀ったら…(笑)」
みんな、何でそんなに楽しそうなの…
恥ずかしくて逃げたい…
それから私と秀くんは静かにお昼を食べて
忙しい受験生活に戻った。




