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僕の大好きな幼馴染  作者: 愉香
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2人きり

夏休み


通い馴れた学校の校舎の1角


6年生の教室の前の廊下で


理玖くんと2人きりー


物音1つしない


聞こえるのは遠くで


夏を懸命に生きるセミの声だけ


手を握ったまま理玖くんが話し始めた。


「ねぇ、僕の事を覚えてないって…本当?」


声が震えている。


顔を伏せて


確認する事を怖がっているように感じた。


私はすぐに返事が出来なかった。


少し沈黙してから私も事実を伝える。


「…ごめん。」


謝罪の言葉しか出てこない。


この事実はどれ程理玖くんを


傷付ける事になるのだろう?


好きだった相手にきれいサッパリ忘れられている


なんて…


「…っ!」


握る手に力が入った。


私なら…悲しい。


だから ごめん しか出てこない。


また沈黙する。


暫く俯いていた理玖くんの足元に水滴が落ちる。


「〜っ…」


声を押し殺して肩が震えている。


泣いている  


ってわかった。


とてつもない罪悪感に襲われる。


理玖くん…泣かないで…


なんて言う資格がない。


ただただその様子を申し訳なく傍観する。


なんで私は理玖くんの事を…実紅ちゃんの事も


覚えていないんだろう?


暫くしてから理玖くんが静かに喋りだす。


「…ひどいよ 美織ちゃん…」


握る手にグッと力が入って


「痛…っ!」思わず小さく声をあげる。


「僕はずっと美織ちゃんを想ってきたのに…」


ぎゅうっうと手を握られる。


逃す気がないと手が訴えてくる。


理玖くんの強い視線が私を射抜く。


ゾクッ 


寒気が走る。


「ねぇ、あんなに好きって言ってあげたのに


どうして忘れちゃったの?」


理玖くんに握られた手が


グッと理玖くんの方に引き寄せられる。


そのタイミングで掛けていた眼鏡を奪われた。


私より背が低いのに…すごい力…


心臓が高鳴り出す。


眼鏡を取られても近くにある理玖くんの顔は


よく見える。


「ああ、美織ちゃん…この顔だよ。


かわいいままだね。ねぇ笑ってよ。


僕の大好きだったあの笑顔を見せてよ。」


理玖くんはうっとりと私の顔を眺めて言い出す。


私は恐怖心の方が勝って笑えない。


でも…何か…


こんな事が前にもあった…


「結婚しようねって 約束したでしょ?」


理玖くんの指が私の頬を撫でる。


結婚… ?


そう言えば…


誰かに…


『美織ちゃん 結婚しようね。』 


… あっ!


私は唇に近づいてきた理玖くんの唇を手で制した。



それは 忘れようとした記憶


幼稚園でやたら「好き」って言ってくる


男の子がいた。 


その子は終始暗い影を落とす私の


たまに笑った笑顔が「かわいい」と言っていた。


でも私はキライな男の子に顔が似ていて


その子をあまり好きにはなれなかった。


男の子はよく私に構ってきた。


だから一応仲良く遊んでいた。


その男の子がどこか遠くへ引っ越す事になって


『美織ちゃんと離れたくない!』って大泣きした。


園庭でみんなが遊んでいる時間


その子は私の手をひいて


用具のしまわれた小さな部屋に私を連れてきた。


2人きりになると


その男の子は私に言ってきた。


「大人になったら美織ちゃん 結婚しようね。」


それは随分一方的で


何よりその男の子の冗談に思えない真剣な顔が


私には恐怖に感じた。


私は手首を掴まれてキスされそうになったのを


嫌がった。


どうにか振り切って園庭に出た。


嫌だ! 嫌だ!!


だって私が本当に好きなのはー


園庭で遊んでいた秀くんと目が合った。


次の瞬間秀くんに抱きついて頬にキスをする


実紅ちゃんの姿…


…っ!!  嫌〜!!!!!


心の中で大きな声をあげて私はその時に「何か」を


砕いた。


砕いた破片はもう2度と思い出さないように


奥に 深く深く奥に 隠した。


それから2人には会っていない。




「美織ちゃん…僕がいなくて寂しかったでしょう?


いつも1人でいたもんね。」


理玖くんはキスを諦めて私を抱き寄せる。


「でもいくら顔が似てるからって秀と付き合う


なんて。あんなに嫌っていたから驚いたよ?」


私の耳に口を寄せて静かに言ってくる。


「戻っておいでよ。美織ちゃん…」


ゾクッ


…怖い!!


私は焦りながら力を込めて理玖くんを押し返す。


理玖くんは何もないように私の髪を撫でて


髪の毛にキスをする。


「美織ちゃんが大好きだよ。」


そう言ってあの時みたいにむりやり


キスをしようとする


嫌だ 嫌だ…!!!


どうにか理玖くんから離れられたけど


体が震えて足がもつれる。


どうにか階段まで出ると…


秀くんがいた。


あの時みたいに目が合う。


隣には実紅ちゃんもいる。


…っ!!


「嫌〜!!!!!」


大きな声をあげる。


「…!!みおちゃん!」


秀くんが走ってきて


「心」を砕く前に私を抱きしめた。



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