不安
榊家リビングー
いつもの様に家庭教師に来ていたお兄ちゃんに
初めて理玖くんに会った事を告げる。
「あんなにかわいい男の子だと思わなかったよ!」
ちょっと興奮気味に話す。
「実紅ちゃんと理玖くんか…!懐かしいわ〜!
美織、全然覚えてないんでしょ?」
お母さんの言葉に頷く。
「そもそも幼稚園の記憶があんまりないんだよね。
秀くんを嫌っていた事以外(笑)」
「秀、よっぽど嫌われてたんだな…」
お兄ちゃんが苦笑いする。
「玲音さんの妹の子達だっけ?」
お母さんがお兄ちゃんに確認する。
「そうそう!父さんの妹の家族。
アメリカに行ってたのもばあちゃんの関係。」
「?」私が小首をかしげると、
それに気づいたお兄ちゃんが補足してくれる。
「ウチの父親がハーフで、
ばあちゃんがアメリカにいるの。」
「えっ?クウォーター?」
お兄ちゃんが頷く。
初耳!どうりでみんな
顔が日本人離れしていると思った!
「オレ、アイツらなんか苦手なんだよね。」
お兄ちゃんが意外な事を言い出した。
「え…?そうなの?」
「実紅も理玖も何か計算高いって言うか…」
お兄ちゃんが嫌そうな顔をする。
実紅ちゃんはわからなくもないけど…
理玖くんはわからないな…。
「オレは美織ちゃんの方が断然かわいい!
美織ちゃんの方が好きだな!」
お兄ちゃんがにっこり笑う。
私は思いっきり照れてしまう。
こういう所、何か秀くんを思わせるよね…。
私が顔を真っ赤にして照れていると
ドアの方からゾクッと寒気を感じた。
ドアの方を向くと秀くんが静かに立っている。
私とお兄ちゃんは秀くんが放つ冷え冷えのオーラで
瞬冷されてしまった。
「ば…っ!ちげーよ?秀!
妹としてって意味だぞ?!
お前もそれくらいわかるだろ?!
てか、何でお前はいつも変なタイミングで
いるんだよ!!!」
お兄ちゃんが慌てる。
「さすがに私も意味、わかってるよ?!」
私もすかさず付け足す。
お母さんはその様子を相変わらず楽しそうに笑う。
それから
「でも美織。理玖くんに気をつけた方がいいよ?」
と言い出した。
「えっ?何で…?」
お母さんに聞き返すと
「んー…、何となく。」
と曖昧な返事を返された。
秀くんもなんか、元気ない?
私が秀くんの顔を覗き込むと私に気がついた
秀くんが力なく笑う。
「実紅に絡まれて疲れただけだから大丈夫だよ。」
それはそれで心配な様な…
お兄ちゃんも「げっ…」と反応した。
「実紅に絡まれてんの?秀、大変だな…」
「実紅ちゃん、秀くんの事大好きだったもんね。」
お母さんの言葉にドキッとする。
「昔の話ですよ。今の実紅はただ絡んで楽しんでる
だけだから、タチ悪い…。」
私は教室で秀くんに絡む実紅ちゃんを
思い出していた。
秀くんに抱きついて見せつける様に私を見てくる。
意地悪く笑う実紅ちゃんの顔…
すごく嫌だ。
あれ、遊んでるの?
「逆に理玖はオレの前に現れない。
だから理玖が今、何を考えているのか
わからないけど…
理玖もすごく… みおちゃんが好きだったから…。」
秀くんが言いづらそうに話す。
ドキッ
理玖くんが…?
覚えてない。
「…わかった。気をつける。」
さすがに鈍感な私でも意味はわかった。
理玖くんはどんな気持ちで私の前に現れたのかな?
『理玖だってまだ本気なんだから!』
ドキッ
実紅ちゃんの言葉を思い出す。
お兄ちゃんと秀くんを玄関まで見送る。
お兄ちゃんが「先に帰ってるぞ。」って言って
なぜか早く帰ってしまった。
お母さんもキッチンでご飯の支度中。
…何か、怖い!
思わず秀くんの背中に飛びつく。
実紅ちゃんの勢いが怖い…
理玖くんの考えがわからなくて怖い…
「…みおちゃん?」
突然のバックハグで秀くんが驚く。
ぎゅうっと秀くんのシャツにしがみついたから
秀くんも私の不安を感じとったらしい。
秀くんが私の手を優しく包んで外す。
振り返るとぎゅっと抱きしめ直して
「大丈夫だよ。」って背中を
とんとんと叩く。
「〜っっっ!!!」
得も言われぬ不安が私を支配し続ける。
秀くんがおでこにちゅっとキスをする。
「大丈夫だよ。みおちゃん。」
顔をあげると秀くんの優しい顔。
秀くんの両手が優しく頬を包んでキスしてくれる。
「大好きだよ。」
秀くんが優しく微笑んだ。
神様どうか
私達をこのままにしておいて…




