距離
次の日、私は一通りの検査をした。
特に異常は見られず、すぐに退院できた。
2日間自宅で安静にしてから学校生活に戻った。
学校に行くと、放課後に一緒に遊んだお友達を始め、
クラスのみんなが余所余所しく感じた。
「遊んでいたら突然倒れて救急車で運ばれた子」
子供にとっては十分にショックな出来事。
話こそするけど、多分みんなが私にどう関わっていい
かがわからなくなったんだと思う。
距離を感じる様になって、私はまた、孤立した。
…このツヨスギマンの消しゴム、いつ返そう?
私は秀くんが置いていったツヨスギマンの消しゴムを
返す時を伺っていた。
私が家で安静にしている間にいつの間にか
両親だけで
秀くんの家にお詫びとお礼の挨拶に
行ってしまったのだ。
わざわざ秀くんの家に行くのも、
かといって学校で返すのも、目立つと嫌だし…
そんな事を考えていたら
「みおりちゃん、一緒に帰ろう〜」
秀くんが教室のドアから声をかけて来た。
…秀くんから来た 。
一緒に帰るなんて嫌だったけど、
断ったらまた変に目立つし、
今日だけはお礼も言わないと…
そう思って渋々秀くんの方へ向かった。
帰り道
「身体、大丈夫?」秀くんが聞いてきた。
「うん。」
「良かった!朝一緒に行こうと思ったら
もう出ちゃったってみおちゃんのママに言われて」
「えっ、迎えに来たの?」
ぎょっとした。
「うん。みおちゃんにずっと会えなかったから
心配で。病院の時は顔が青かったから。」
「…迷惑かけちゃってごめんね。学校休んでいる時も…
プリントとか持ってきてくれたんでしょ?
ママが言ってた。」
一通りの謝罪をした。
こんなに秀くんに喋ったのは初めてだった。
「迷惑じゃないよ。
みおちゃん、ずっと努力してるじゃん。
ママと毎日散歩したり、休んでる時だって
勉強しているんでしょう?」
秀くんに言われてびっくりした。
「何でそんな事、知ってるの?」
「よく拓パパから聞いてる。」
パパ!!!(怒)もう、余計な話をするんだから!!
「みんなと離されたくないだけだよ。
勉強も、身体のことも…」
少しでもみんなとの距離を縮めたくて
やっているだけの話。
特別な事をしているつもりはない。
「でも、それってすごい事だと僕は思う。
続けている事。
だからみおちゃんの事をいつもすごいと思ってる。」
すごい…?私が?
ママやパパからは言って貰う事はあるけど
「そう…かな?」
「そうだよ!!」
力強い言葉が返ってきた。
それまで何となく目線も秀くんに
向けていなかったのだが、
ちらっと秀くんを見てみた。
真剣な顔。
こんな顔もするんだ。
初めて見た。
いつもへらへらにこにこ。
何がそんなに楽しいのか。
こっちは毎日身体の事を考えながら
生活しているのに!元気な人はいいですネ!
って思ってた。
そう言えば、他の子は私と距離を置いてたけど、
秀くんはどんな時でも私に声をかけて来たな。
おはよう とか。
みんなにするのと変わらない様に。
そう思った瞬間
「ご…ごめんね」言葉が出ていた。
「私、自分の身体にイライラして、
元気な秀くんが羨ましくて、八つ当たりしてた。」
一気に伝えた。
「ごめんね」涙が出た。
でもちゃんと初めて秀くんの顔を見て言った。
秀くんはそんな私の様子にちょっと驚いていたけど
「そっか。」
そう言って私の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。」
安心させる様な手付きと声。
いつも千景さんにして貰っているのかな…
「帰ろう?」
そう言って手を差し出して来た。
私は素直にその手を握った。
秀くんって優しい子だったんだな…