運動会の決め事
「最近、大翔と話してる事、
多くない?」
塾帰り、秀くんがウチに来た。
怖い顔して何を言い出すのかと思えば…
「小宮山くん?うん。多いかもね。」
だらだらだらだら
冷や汗をかく。
「ふぅん? 大翔とみおちゃんで何か話す事なんて
あるの?」
「…秀くんの事とか?」
秀くんの目を見たら逃げられなくなりそうなので
私は目をそらして答える。
「みおちゃん。何隠してるの?
大翔に何か言われた?」
私はぶんぶんと首を横に振る。
「秀、あんまり嫉妬すんなって。
美織ちゃん困ってるじゃん。」
家庭教師で来てくれているお兄ちゃんが
見兼ねて助け舟を出してくれる。
私は急いでお兄ちゃんの背中に隠れた。
小宮山くん…隠し通せる自信が無いのですがっ!!!
私は心の中で小宮山くんに叫んだ。
「 … 。」
秀くんは溜息をついた。
「まぁ、この件は保留にしておくよ…。」
諦めた!!!!
もっと追求されるかと思った!!!
私はお兄ちゃんの背中から
恐る恐る秀くんを覗き見る。
秀くんが私の視線に気づいてにっこり笑う。
同時にゾッと寒気が襲った。
「みおちゃん。もう言わないから出ておいで。
俺怒ってないし。そもそも怒ることじゃないし。」
笑顔と言っていることは怖くない筈なのに
すごい不安を覚えた。
ゴールデンウィークが過ぎて、よいよ本格的に
運動会の決め事が始まる。
まず体育の授業で50メートル走のタイムが
測定された。
初めてまともに走った。
以外にそんなに息があがらなかった。
「美織、なんか変な走り方だったな〜。
あのフォーム直したらもっとタイム出るよ。」
怜那ちゃんが言い出した。
「脇をしめて腕を前、後ろに大きく振ってみ?」
アドバイスを受けてその場でやってみる。
怜那ちゃんがその様子を確認してくれた。
2回目のタイム測定で走ると、
確かに前より足の運びがしやすくなった。
「あれ?榊さん、タイム伸びたよ?
これ、リレー選手狙えるよ?」
担任の染谷先生がそんな事を言い出した。
続いて応援団長の選出。
教室には2分割された3組のメンバーも集まる。
「今年はウチが赤組になることになった。」
担任の染谷先生が教壇に立つ。
「よって応援団長は女子が、
副応援団長が男子だな。」
教室内がざわつく。
「誰か推薦、立候補はいないか?」
先生の声に即座に反応したのは小宮山くん。
「副団長立候補します!」
お〜っ!と歓声が上がる。
「女子の候補はいないか?」
という声にまたクラスがざわつき始める。
「やっぱり佐々木さんじゃない?」
3組の誰かが言い出した。
「そうだな。白組はきっと応援団長は秀だろう。
佐々木さんなら秀に対抗出来る!」
みんなが口々に怜那ちゃんを推し始める。
応援団長ってカッコいいんだよね!
袴姿に凛とした立ち振る舞い。
まさに怜那ちゃんにピッタリだと思った。
「佐々木さん。どうかな?」
先生にふられて怜那ちゃんが代わって教壇に立つ。
「私、榊さんがいいと思ってます。」
「…えっ!」
思わず頬杖していた肘が滑った。
みんなが一斉にざわつき出した。
そりゃそうでしょうよ。
怜那ちゃん、何言い出すの!!
怜那ちゃんに口パクで訴える。
「榊さんは今までまともに運動会も出られなくて、
それが今年初めてちゃんとした形で叶うんです。
小学校の最後に華持たせたいです。」
怜那ちゃんが堂々と言放つ。
それから私の方を向いて言う。
「どう?美織。」
ふられても言葉が出てこない。
「オレは賛成です!」小宮山くんが言い出した。
「一緒にやってみようぜ!榊さん!」
みんな…本気で?相手は…秀くんかも?なんだよ?
「いい!秀くん対怜那ちゃん、見飽きた!
榊さん、賛成!」
他の子達も言い出した。
「廣澤くん、負かしてみたかったんじゃ
なかったの?みんな、協力してくれるよ?」
怜那ちゃんがにっと笑う。
「今年は何としても打倒1組、元い白組なんだ!
みんなの為に力になってよ!榊さん!」
小宮山くんの仲間の男子達まで言い出した。
みんなの力にずっとなりたかった。
今までの小学校生活、ずっとクラスのお荷物だと
思ってた。
私の力を必要としてくれる?
「…っ。 私なんかで良ければ!
私もみんなの為に頑張りたい!」
意を決して言うと
クラス中が盛り上がる。
「いいぞ!榊さん、最高!」
「青春だぜ!」
「何としても白組に勝とうぜ!」
頼りない私が応援団長になった事で、
1組と3組は一気に結束をみせた。
運動会の2週間前
「え…っ?どういうコト?」
こんな間抜けた秀くんを私は今まで見たことがない。
それは運動会の運営係、選手一覧の紙が
全校生徒に初めて配られた放課後の事だった。
終了のチャイムと同時にバタバタと
秀くんが6年2組の教室に入って来た。
白組応援団長 廣澤 秀 (6-1)
赤組応援団長 榊 美織 (6-2)
改めて目にすると立ち眩みを覚える。
秀くんと肩を並べるこの恐ろしさ…!
「やっぱり来たな、秀。
お前は推薦で応援団長になると思っていたさ。」
ふっふっと小宮山くんが不敵の笑みを浮かべる。
「何でみおちゃんが…」
秀くん、顔面蒼白なんですけど…
「コレは始業式の日から我らが着々と準備を
こなしてきた事なのだ!
廣澤秀を打ち負かし、俺達は気持ちよく卒業する。
小学校生活に悔いを残さぬ為に周到に用意された
ことなんだ!」
悪役の様なセリフで腕組をし、小宮山くんは
勝ち誇ったように高らかと笑う。
「悔い?」
秀くんが力なく質問する。
「みんな廣澤くんに勝ちたいんだって。」
怜那ちゃんが説明する。
「…みおちゃんも?」
ドキッ
そんな切なそうな顔、する?
私は慌てつつ、若干後悔も入り交じる。
「榊さんも秀に勝ちたいってよ?
今年の運動会は我ら赤組が1組を…
廣澤秀を打ち負かす!」
おお〜っ!!!
クラス中が盛り上がり
私と小宮山くんの周りには一気にクラスメイトが
集まる。
騒ぎを聞きつけた白組の面々も2組に集結して
火花を散らす。
「…いい度胸してんな。」
秀くんが静かに口を開く。
「やってやるよ。赤組を完全に
負かしてやるからな。」
秀くんに睨まれる。
ゾクッ 鳥肌が立つ
「アイツ、スイッチ入ったな…」
小宮山くんが言った。
「小宮山くん、私もスイッチ入った。」
あの顔、あの目は
怒ってる!!!!!
でも、これは私達が先に仕掛けた事。
もう後戻りは出来ない。
生半可な気持ちでかかったら再起不能にされる!!!
私は覚悟を決めた。
大丈夫。ひとりじゃない。
みんないる。
小学校最後の運動会…負けたくない!!!!!




