秘密裏に先手必勝
「えっ!お父さん、本当?!」
ここはお父さんが勤める大学病院。
私は定期検査を受けていた。
「うん。今、原医師から連絡を受けてね。
慎重に時間をかけて経過をみてきたけど、
安定し続けてるから運動許可だそう、って。」
私は視界がぱぁーっと明るくなる気がした。
私、運動していいんだ〜!!!
手足を見る。
ずっと憧れていた…
みんなみたいに何も考えずに動ける事…!
「奏ちゃんもそうだったからね、
美織も多分もう大丈夫だよ!」
お父さんに言われてお母さんと2人で手を取る。
「美織、頑張ったね!」
お母さんが涙目になる。
「お母さん、お父さんありがとう!」
私は涙が溢れた。
しかし、それはそれで問題がー
運動許可が降りたはいいけど
何からすべき?
私は初日から続く「打倒1組」のクラスの熱に
怯えていた。
変に私が加わる事で
みんなの足を引っ張るんじゃあ…?
怜那ちゃんに相談してみよう…。
そうして昼休みに怜那ちゃんと
最近仲良くなった春花ちゃんと話す。
春花ちゃんはその名前の通りふんわりとして
可愛らしい。
運動許可が降りたは良いけど、運動会が不安と
正直に2人に話す。
しかもウチの学校は春開催。
割とすぐの話なのだ。
「…そうね、縄跳びからとかやってみる?
色別対抗の大縄跳びは点数が高いし…」
怜那ちゃんが提案する。
「うん。そうしてみる。」
力なく言葉を返す。
「美織なら努力家だから何とかなるよ。
運動も訓練みたいな所、あるから。」
春花ちゃんが一緒に頑張ろう!と励ましてくれる。
そこへ例の小宮山くん男子軍団が教室に入ってくる。
「あ、小宮山くん!」
小宮山くんに声をかけ、
小宮山くんにも不安の内を伝える。
小宮山くんはニッと笑って
「榊さんもさ、ちょっと秀を見返したいとか
あるんだろ?」と言ってきた。
「え…っ?」
小宮山くんの言葉には毎回驚かされる。
そしてまた考える。
「…ある!」小さく頷く。
「幼馴染なら尚更、アイツの出来るところ
近くで見ることが多いいだろ?
俺らと一緒にさ、驚かせてやろうぜ!」
小宮山くんが力強く言った。
秀くんとは違う、人を動かす力を感じる。
私の元来の負けず嫌いがふつふつと顔を出す。
「とりあえず、縄跳び良いと思うんだ!
しかしこれはシークレット作戦。
打倒 秀に燃えている俺らの事は内緒だ。
秘密裏に先手必勝だ。
いいか、榊さん!女優だ。
秀の前では可愛く振る舞って
運動会で衝撃を浴びせてやるんだ!」
小宮山くんが熱く語る横で怜那ちゃんが呆れる。
「それじゃあ不意打ちだろ…」
と突っ込む。
「甘いな佐々木!正攻法では秀に勝つ手が足りん。
俺らに手段を選ぶ余地は無いのだ!」
「小宮山くん!わかった!私、頑張るから!
よろしくお願いします!
必ずやみんなで秀くんを倒そう!!」
小宮山くんと堅い握手を結ぶ。
みんなが離れた後に怜那ちゃんが小声で話す。
「アンタ、彼氏なのに…」
怜那ちゃんが心配している。
「秀くんの前ではいつも通りで
いればいいんでしょ?」私がケロッと話す。
「それが出来ないのが美織じゃん…。」
うっ…!
怜那ちゃんに言われて今更気がつく。
自分の弱点。
この日から私は少しずつ縄跳びを始めた。
お兄ちゃんに家庭教師の時間を少しずらして貰い、
秀くんが塾に行っている時間を見計らって。
5月のゴールデンウィークが明けたら本格的に
運動会の決め事がスタートする筈…。
それまでに出来ることをやってみよう。




