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僕の大好きな幼馴染  作者: 愉香
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1年生


楽しみにしていた小学校生活は


順調な滑り出しだった。


毎日ちゃんと学校に通えて、


仲良しと呼べるお友達も出来てきた。


まさに夢に見て描いていた光景!


その代わりに放課後や休みの日は体調を崩して、


相変わらず寝込む日もあったけど、


毎日が充実していた。


担任のあやこ先生もとっても優しくて、


体調面をいつも気遣ってくれたので


安心して学校に通う事ができていた。


そんなある日、


学校近くの公園で放課後に遊ぶことになった。


その日は体調が良かったし、


次の日はお休みだったから


お友達のお誘いに即決した。


放課後に友達と遊ぶなんてかなりの冒険だったけど、


嬉しくって心が弾んでいた。


ランドセルを家に置いて、ママに遊ぶ事を伝えた後、


直様遊びに出掛けた。


公園にはもう友達が待ってくれていた。


「あっ!みおりちゃん!こっちだよ〜」


と手を振ってくれた。


私は小走りでそのお友達の元へ急いだ。


「何して遊ぶ?」


「みおりちゃん運動が良くないから


縄跳びくらいはどうかな?」


「ねー、ねー、お花とか集めておままごとしない?」


「あっ、それいいね!そうしようか!」


そうして始まったおままごと。


私はママの役でお家をお掃除したり


ご飯を作ったりする。


最初の内はおままごとも楽しかったけど、


お友達は段々縄跳びや鬼ごっこをやりたがって


少しずつ動く事が増えていた。


でも楽しくって楽しくって


自分でも動き方は考えて加減していたつもりで、


だからそんなに息があがっているとも、


興奮していた事も自覚が無かった。




気がつくと私は布団の中にいた。


あ…れ?


それから私の手を握ってすーすーと寝息をたてる


黒い髪の毛が見えた。


え…っ? 秀くん??!


驚いて体を動かそうとしたけど動かせなかった。


それからゆっくり目線を動かして周りを確認すると


見覚えのない天井。


それからもう片方の腕には点滴がされていた。


病院…? 


何で… ? 記憶を探ろうとした時


ガタガタ ドアが空いてママが入って来た。


「… ママ ?」


まだまだぼーっとする頭の中でママに呼びかけた。


「! みおちゃん!」


私の呼びかけにママがベッド脇に駆けつけた。


目には涙跡。疲労が伺える。


「ママ… 私… ?」


どうして病院のベッドにいるのか聞きたかったが


「今は何も考えないで。ゆっくりしてなさい。


ママはパパに伝えてくるわ。」


そう言ってまた部屋から出て行った。


バタンと閉まるドアの音と共に


私の手を握る秀くんの手がビクンと動いた。


手…あったかい


軽く手を握り返してみる。


と、突然その手に力が込められた。


同時に秀くんが勢い良く起き上がって


私の顔を覗き込んだ。


「…っ!」


私はその様子をぼーっと眺めていた。


それから秀くんは手を繋いでいない方の右手で


そっと私の頬に触れた。


「みおちゃん、僕の事、わかる?」


「…しゅうくん………なんで…」


なんでいるのよ… 


言葉にこそ出なかったが、


こんな時まで心の中で秀くんに悪態をついた。


そんなに気安く触らないで…


元気だったらその頬に触れた手を


思いきり叩いてやりたかった。


でも握っていた手は温かくて安心出来たから


そのままでもいいかな…。


トントン


ドアを叩く音がして、


今度は白衣姿のパパが入って来た。


いつもの優しいパパの顔ではなく、


冷静な仕事をしている顔だった。


その雰囲気が私を緊張させた。


「みお、具合は大丈夫か?」


パパが顔を覗きこみながら聞く。


私は頷いた。


「声、出るか?パパがわかるか?」


「…うん。 わかる…」


「痛い所は?」


私は全身を点検するように意識を身体に巡らせた。


それから「ない。」と答えた。


パパは秀くんと席を代わって


さっきまで秀くんが握っていた手の手首で


脈を測り始めた。


「息、苦しくないか?」


「うん、平気。」


体温計もおでこで測ってパパが体温計を覗き込む。


「うん。問題はなさそうだ。」


その言葉に秀くんと、いつのまにか部屋にいたママと


秀くんのママ、全員が安堵した。


パパも顔が緩んでそのまま倒れ込む様に


私に抱きついた。


「…良かった!」


「パパ、私、なんで病院に?」


疑問をやっと質問出来た。


「今日放課後に友達と公園で遊んでいたのは


覚えているか?」


「うん」頷く


「その後倒れたらしいんだ。意識もなくて…」


「え…っ」びっくりしてパパとママの顔を見た。


ママも泣きながら抱きついて来た。


「…良かった!」と言って泣いた。


その様子に私も泣いた。


ママは元看護師さん。


だからどんなに私がつらい状態でも、


いつも毅然と行動して笑顔を見せ、


常に私を安心させてくれていた。


そんなママがわんわん泣いている姿を見て


今更ながら震えた。


「秀くんのママが救急車を呼んでくれてね、


秀くんとここまで来てくれたんだよ。」


パパが続けて説明した。


「秀と買物してね、たまたま公園の横を通ったら


みおちゃんを見つけて、みおちゃんがいるなんて


珍しい!なんて見ていたら突然倒れて…」


千景さんがハンカチで涙を拭きながら


説明してくれた。


そうだったんだ… 全然覚えてない。


「とりあえずみおはこのまま入院だ。


明日もう1回一通りの検査をする事になる。」


パパが言い出した。


「千景さん、秀くん今日は本当にありがとう。


もう大丈夫だからお家に帰ってゆっくり過ごして…」


千景さんと秀くんにお礼をした。


…が、「嫌だ。」と秀くんが言い出した。


「僕はこのままみおちゃんと一緒にいる。」


私がぎょっとした。


えっ、嫌だ、嫌だ!勘弁してよ。何で…?!


「秀くん、今日はおじさんもこのまま病院に


残るから。ママと一緒に帰りなさい。」


「秀、いても邪魔になるから、


みおちゃん心配なのはわかるけど、今日は帰ろう?」


パパと千景さんが秀くんを説得する。


大人ふたりにまだ反論しようとする秀くんを見て、


私が先に口を開いた。


「秀くん、困るから帰って。」


ピシャリと言い切って、一瞬その場が静かになった。


それからパパと千景さんが笑い出した。


ママは「またそんな、ひどい事言って!」


と慌てていたが、千景さんは


「あ〜あ、みおちゃんに言われちゃった!


これは嫌われる前に帰りましょう!」


と秀くんの背中をグイグイ押して


ドアに向かわせようとした。


秀くんはそんな千景さんの腕をすり抜けてきて、


「じゃあ…」と言ってランドセルの中から


消しゴムを出してきた。 


「正義の味方、ツヨスギマンを置いて行く。


みおちゃんを守って貰う。」


そう言って私の枕元にツヨスギマンのカバーがついた


大きめの消しゴムを置いた。


それで満足したのか、


秀くんは今度は潔く自分からドアに向かって行った。


「みおちゃん、ツヨスギマンが僕の代わりに


守ってくれるから安心してね。


早く元気になってね。」


と捨て台詞を残して帰って行った。


パパは涙目になりながら笑いを堪え、


ママは何だかほっこりした顔をしちゃって、


病室が和やかな雰囲気に包まれた。 


私1人が状況に付いていけずにぽかんとしていた。


枕元に置かれたツヨスギマンの消しゴムを


ちらりと見る。


今流行りの戦隊ヒーロー…


僕の代わりに守るって  なに  


バカみたい



その後ママもお家に一度帰り、パパは仕事に戻った。


「今日パパは夜勤で病院にいるから、


何かあったら呼びなさい。」


そう言って手元にナースコールを置いていった。





小さい頃 何回も病院に入院した。


小児病棟。 パパとママはもちろんいなくて、


泣き出す子もいっぱいいた。


私も悲しかったけど


パパとママがプレゼントしてくれた


レインボーカラーの大きめのテディベアに


抱きついて


じっと朝がくるのを待った。


そしたらまた窓から明るい光が入ってきて、


ママが来てくれる。


だから、


怖いのは夜だけ。





今日はテディベアがいない


だけど


ツヨスギマンがいるな…


私はツヨスギマンを握りしめて朝を待った。




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