ガールズキラー
「昔話?」
意味がわからなくて聞き返す。
怜那ちゃんはそんな私に構わずに話出した。
「美織、1年生の入学して間もない時に公園で倒れた
事があったでしょう?」
私は驚いた。
怜那ちゃんとは4年生で初めて一緒のクラスに
なった筈。
「何で知ってるの?、顔に書いてある。」
私の表情を読んでぷぷっと怜那ちゃんが笑う。
「あの時私も公園にいたんだよね。
確か美織が一緒に遊んでいたのは
日戸瀬さん達だったでしょう?」
そう言われて思い出した。
「…!そう、だったかも!よく覚えてないけど…」
『みおりちゃん運動が良くないから…』
確かそうやって気にかけてくれたのは
日戸瀬さんだった気がする…
「突然女の子が倒れた!って意識がないって
みんなが騒いで泣き出してさ…。
その時に廣澤くんがお母さんと来たんだ…」
確か買い物の帰りに偶然見かけたとかいって
救急車を呼んでくれたのは千景さんだった。
「廣澤くんがお母さんに頼んで、
学校にもすぐに連絡して1組のあやこ先生を公園に
呼んだのよね。」
「?」
「『死んじゃうのかな?』『どうしよう?』って
日戸瀬さん達が泣いてる時に廣澤くんがさ、
『大丈夫だよ』って日戸瀬さん達に言ったの。
『どんな事になっても日戸瀬さん達は悪くない。
だから大丈夫だよ。明日も笑顔で学校に来てね。
約束だよ。』って。
あやこ先生に来て貰ってその後みんな
落ち着いたんだけど…
私はあの一件で廣澤くんって人物に注目したわ。
あんなパニックな状況だったのに
1人で冷静にみんなをフォローするなんて、
何者?ってね。」
「 … 」
「次の日も日戸瀬さん達にフォローしてたわ。
『昨日のあの子は大丈夫だった』って。
それから『ちゃんと学校に来たね!』って
笑顔で日戸瀬さん達を褒めてた。
日戸瀬さんはもしかしたらその時から
廣澤くんが好きなのかもね。」
あの時、一緒にいたのは日戸瀬さん達だったんだ。
怖い思いをさせたなー
ちょっと日戸瀬さんに対して申し訳無い気持ちに
なった。
「でもね、廣澤くんを見れば見る程気がつくの。
廣澤くんの目線の先にはいつも美織がいるの。」
「 ?! 」
急に自分の名前が出てきてびっくりした。
怜那ちゃんはにっこり笑った。
「廣澤くんてよく気がつくし、
優しい言葉もかけてあげられる。
気もとめてくれる。そういう事がすごく出来る子。
だからすごくモテる。ガールズキラーね(笑)」
私も笑って頷く。
「だけどそれって全部美織の為なの。
廣澤くんが魅力的に感じるのは
美織の為に努力しているからなのよ。」
私は怜那ちゃんの話の途中から
気になっていた事を質問する。
「…怜那ちゃんも秀くんが好きなの?」
怜那ちゃんは笑って
「私は美織の方が好きだよ!」って言ってきた。
「確かにきっかけは廣澤くんだったかもしれない。
でも私は廣澤くんより美織の方が断然に好きだよ。
大体廣澤くんは美織と違って策略的なのよ。
素直で一生懸命で笑顔がかわいい美織が
大好きだよ!」
笑顔で言ってくれるけど私はまだ心配になる。
嘘…つかせてないよね?
「もぉ〜!そんな顔するな〜!」
ほっぺたを軽くつままれる。
「美織の笑顔は本当にみんなを幸せにする。
こんなにかわいいのに!
美織を嫌ってるヤツがいるの、
廣澤くんのせいなんだから!!!」
向かい側に座っていた怜那ちゃんが
身を乗り出してきてぎゅっとハグしてきた。
「…だから実はものすごく心配。
廣澤くんと同じ、S中なんでしょう?」
怜那ちゃんが顔を覗きこんでくる。
「美織自身がどうこうじゃなくて、
廣澤くん絡みのせいで
美織が嫌な思いをしないかな、って。
あそこの中学、結構マンモスだし、
校風も生徒主体とか言ってかなり自由だし…。」
「あ、怜那ちゃんのお兄ちゃんってS中だよね?」
私は前に秀くんが言っていた事を思い出す。
サッカーチームが一緒だった
怜那ちゃんのお兄ちゃんに憧れて
S中を目指すとか…。
「そうそう。」怜那ちゃんが頷く。
「怜那ちゃんはS中じゃないんだね…」
疑問を口にする。
「私はKM女子中学を希望してる。
S中は近くていいけど単純に校風が私に合わない。
KMは古き佳きモノを活かして後世に発展させて
継承していくって伝統を重んじる校風で、
落ち着いているのよね。」
KM女子中学は…特急列車で2つ目の駅にある学校。
なんか清楚なイメージがある。
制服がかわいいお嬢様学校。
怜那ちゃんの雰囲気に合ってるかも。
偏差値はS中の少し下くらいだった気がする。
「一層、廣澤くん裏切って
私と駆け落ちでKM女子に行かない?
なーんて、ねっ☆」
怜那ちゃんの冗談めいたお誘いを
私は真剣に考え始めた。




