胸の傷み
「榊さん」
市立図書館で自習をしていた帰り道
私にとっては予想外の人に声をかけられた。
振り向くとー
日戸瀬さんだった。
日戸瀬さん達ではなく、1人。
声をかけてきた人物が日戸瀬さんだとわかると
私の心拍数は一気に上がっていった。
逃げ出したいのに足が動かない。
「…っ 日戸瀬さん…こんにちは。」
言葉を絞り出して何とか返す。
「塾の帰り?
S中受けるんでしょ?秀くんとおんなじ。」
おんなじ という所を嫌味っぽく言われる。
「塾は行ってなくて…」
というと
「あぁ!それで1人でいるの!
この時間は秀くんは塾だもんね。」
と言ってくる。
明らかに敵意を感じる。
何が目的なの? 早くこの人から離れたい…
ガチガチに警戒をしていると
突然日戸瀬さんが
「私、榊さんて大嫌い。」
と言い放ってきた。
いきなり何? さすがにちょっと頭に来た。
「私は秀くんが好きなの!」
続けて言い出す。
一瞬
ドキッ
としたものの…
知っていますよ〜!
ていうか、それは私じゃなくて秀くんに言ってよ…
私は心の中で饒舌になる。
「なのに…、秀くんはアンタしか見てない!!」
ドキッ
日戸瀬さんの握り拳に力が込められた。
絞り出す様に静かに続ける。
「ムカつく!この胸の苦しさも楽しさも届かない…
報われない!
それどころか、こんな苦しい思いを
秀くんがアンタに感じているなんて…!」
私は何も言えなくなる。
日戸瀬さんが泣いている。 キッと睨みつけて
「佐々木さんならともかく、アンタなんて!」
グサッ!
…怜那ちゃんか… 地味に傷つく
「しかもアンタはそんな秀くんの気持ちに
全く気づいてなかった!なのに何を今更…」
声が震えてる
「何、気がつき出してるのよ!
言っておくけど、私の方がずっとずっと前から
好きなんだから!!!」
睨みつけられて
私は金縛りにあったみたいに
体の動きも思考も封じられる。
「アンタなんか認めないんだから!!!」
そう叫ぶと
日戸瀬さんはクルッと背を向けて
スタスタ行ってしまった。
金縛りが先に溶けたのは思考の方ー
日戸瀬さんの切そうな顔は見覚えがあった。
秀くん…と重なった。
心が張り裂けそうな胸の傷みを
日戸瀬さんから感じた。
想いをぶつけられて、
その想いをどう消化したらいいのか…
持て余す。
体の金縛りは暫く溶けなくて
そのまま立ち尽くした。
日戸瀬さん…
そんなに秀くんの事を想っていたんだ…
日戸瀬さんに言われた言葉の数々が頭を巡る。
体の金縛りが溶けてきた私は
その後ただただ町を彷徨った。
いつの間にか駅の方に来てしまった私は
塾帰りの秀くんを発見してしまった。
今は秀くんに見つかりたくない!!!
焦って引き返そうとすると人に当たってしまった。
「あ、やっぱり美織じゃん!」
ぶつかった人は怜那ちゃんだった。
怜奈ちゃんの顔を見た瞬間
涙が溢れた。
怜那ちゃんは驚きつつも
「ウチに行こっか?」
そう言って何かを察したのか
秀くんから私を隠すように
足早にその場から離れてくれた。




