本の森で…
5年生になった私がやりたかった事。
1つは料理クラブに入ってクラブ活動を楽しむ事。
もう1つは図書委員になる事。
私はやっぱり市立図書館のスタッフ優ちゃんに
憧れがあって、マネゴトでもしてみたいって
ずっと思ってた。
だから前期は逃したけど、後期の図書委員には
是非ともなりたいと、
今日の学級委員会は燃えていた。
「図書委員は誰か立候補はいますか?」
クラスの学級委員でもある秀くんが
みんなに投げかける。
「はいっ!」私は思いきり手をあげてアピールする。
「…えっと 榊さん…」
私の勢いに秀くんが苦笑する。
黒板を板書していた同じく学級委員の怜那ちゃんも
背を向けていたが、肩を揺らして
笑っているのがわかった。
「はい。」もう1人手を挙げたのは鈴木くん。
「では他にいなければ榊さんと鈴木くんに
お願いしたいと思います。」
そんな感じで図書委員はあっさり決まった。
…嬉しい!初めての役職!
立派に務めてみせます!!
私は両手に握り拳を作り
八百万の神様に誓いをたてた。
「よろしくね、鈴木くん。」
もうひとりの図書委員、鈴木くんにも挨拶をする。
「こちらこそよろしくね、榊さん。」
そう言って返してくれたけど、
鈴木くんのかけているメガネが光を反射させて
表情までは読めなかった。
鈴木くんは物静かな人。
秀くんと正反対と言っても良いかもしれない。
存在感が薄くて誰かと話しているのを
あまり見たことがない。
昼休みも本を読んでいるイメージがある。
そういう意味では親近感あるかも。
そうして待ちに待った第1回図書委員会では
自己紹介と委員長を决め、
貸出当番の割当を決めた。
私達5年2組は水曜日のお昼と
金曜日の放課後が担当になった。
はぁー何だか優ちゃんみたいだよ!!
利用者さんに丁寧に本を紹介出来るように
頑張るぞ!
水曜日の昼休みー
図書委員貸出スタッフとしての1回目。
なのにこの日はいきなり鈴木くんがお休み!
私は司書の長谷川先生に手伝って貰いながら
貸出しや本の戻しを忙しくしていた。
初めての事尽くしで全然丁寧に出来なかった。
何とか終わりが見えてきた時間には
私の気持ちはすっかり落ちていた。
「忙しそうだね。大丈夫?」
声をかけて来たのは秀くんだった。
「…秀くん…」涙目になってしまう。
心が折れそう…。
「何か手伝おうか?」
こういう優しさについ甘えてしまいたくなる…
断ろうとした時に司書の長谷川先生が後ろから
「なに、廣澤くん!手伝ってくれるの?
コレ戻して来て!」と一気に言って
秀くんの両手に本を5冊くらい乗せた。
「よろしくね。」と言って
また本の整理に返っていく。
貸出席に座っていた私は1回も身動き出来ずに
その様子を傍観してしまった。
はっ!
「秀くん、い…」「じゃ、コレ戻してくるね。」
秀くんは私の言葉を遮って
爽やかな笑顔で本を戻しに行く。
ドキン … えっ ?
そんな爽やかな笑顔… 惚れてまうやろ〜!
…じゃ、無〜い!!!
妙に心臓がドキドキする。
??? 何で?
図書館で秀くん という組み合わせが
珍しいからかな?
私は暫く顔の火照りを押さえるのに必死だった。
金曜日の放課後ー図書室
「初回からお休みしちゃってごめんね。」
貸出席に並んで座っていた私に鈴木くんが
声をかけて来た。
「具合が悪かったんだから仕方ないよ。
そういう意味では私もいつ迷惑をかけるか
わからないし(笑)」
最近は調子が良いけど油断は禁物!
「そう言えば榊さんもよく休む方だったね。
最近は大丈夫そうだけど…」
鈴木くんが私の方に向き直る。
鈴木くんは2年生、3年生で一緒のクラスに
なったことがあるけど、あまり話した事はない。
「だいぶ体力ついてきたかな?」
力こぶを作ってアピールするが、鈴木くんはスルー。
気まずい…!!
話のネタを探す。
「…ねぇ、鈴木くんっていつもどんな本を
読んでるの?」
と聞いてみる。 実はちょっと気になっていた。
「最近はコレ。」
そう言って横から引っ張り出してきたのは
『世界の昆虫図鑑』
っひゃああああ〜!!!!!
虫の苦手な私は心の中で悲鳴をあげた。
…っ!表紙から昆虫だらけ。
本だけど触れるのも勇気がいるかも…。
「最近気になる昆虫はこの…」
と説明しながら鈴木くんがページを開こうとする。
「…っそうなんだ!ありがとう!ごめんなさい、
私、昆虫が苦手で…」
頭を抱えて震える。
その様子を静かに確認して
鈴木くんが本を引っ込めてくれた。
また沈黙が訪れる。
再び 気まずい…
「榊さんはどんな本を読むの?」
前を見たまま静かに聞いて来た。
「えっと…最近は料理とかお菓子の本ばっかり
見てるけど、本当は物語が好きで、
サアヤの魔法日記とか、
エルダナの冒険シリーズとか?」
と話すと
「エルダナの冒険シリーズか…
あれは実に面白いよね。」静かに返してきた。
!!! ひっかかった!!!
「鈴木くんは何巻まで読んだ?
かなりシリーズが出てるよね。」
慌てて話を繋ぐ。
「今の所出てる分は読んだよ。18巻だっけ?」
「そうそう!私も読んだよ!18巻まで。」
私が答えると鈴木くんがまた私を見る。
「へぇ…。あの13、14、15巻の上中下も読んだの?
あそこで挫折する人も結構いるけど。」
鈴木くんのメガネが光る。
「もちろん読んだよ!あの話は長いけど
シリーズの鍵になる話が満載だから、
あそこを飛ばすとその後の巻の面白さが
半減しちゃうよ。
寧ろあそここそが面白いっていうか…」
私も好きな本の話なので熱が入る。
「そう思うよね?オレもそう思うんだ!」
鈴木くんも話に乗ってきた。
「ただひたすらにダンジョンを彷徨うだけの
話に見えて…」
「そうそう!1つ1つの出来事が実は前の巻にも
後の巻にも繋がっていて…」
「前の巻程のわかり易い楽しさはないんだけど…」
「それは敢えて、後作のために
押さえて書いてある!」
「…わかるか?」「わかるよ!」
お互いに興奮してしまった。
すごい!
あの長いシリーズを語れる人が同じクラスに
いたなんて!! ちょっと感動だよ!!!
鈴木くんも同じ気分になってくれたみたい。
「あそこを飛ばすし、面白くないとかいうヤツが
いるんだ。」
鈴木くんが溜息をつく。
「あ〜…それはシリーズの世界観を
ちゃんと理解していないよね。」
私も同意する。
あの本は読めば読むほど、ここにもここにも
繋がってる?!と思えて、それを発見した時の
ゾクゾク感がたまらない。
鈴木くんが相手なら何時間でも
憶測話で盛り上がれそうだった。
「楽しそうだね。」
声の方を振り返ると秀くんが立っていた。
「あー!秀くん!聞いてよ!
鈴木くんが凄いんだよ!」
私は興奮したまま秀くんに話かける。
私は夢中になって話していたけど、
鈴木くんはすっかり静かな鈴木くんに戻っていた。




