応援
5年生のクラスにも馴れてきた5月。
学校では一応秀くんとはあまり話さない。
というか秀くんの周りは相変わらず人が多くて
近づけない(笑)
本当に、人気者だなぁ〜
男女問わず常に誰かいる。
そして相変わらず休み時間は教室にいない。
校庭に出て6年生と混じってドッジボールとか
サッカーとか鬼ごっことかをやってる。
改めて見てると、足速いんだな とか
6年生が投げるあんなに速い球が取れるんだ!とか
サッカー本当に上手に相手をかわせるんだ〜とか
クラスが一緒になったことで
秀くんを目で追う時が増えた気がする。
確かにあんなに元気いっぱい、夢中な秀くん見てると
こっちも元気が出てくる。
みんな、だから秀くんが好きなんだろうな…!
動いている所は幼稚園時代から変わらないな
本当に楽しそう…
私も思わず笑みを浮かべてしまう。
「なぁに?ニヤニヤしちゃって、廣澤くん?」
怜那ちゃんが後ろから声をかけてきた。
「うん。ちっちゃい頃と全然変わらないなーと
思って…(笑)」
怜那ちゃんに振り返って照れ笑いする。
恥ずかしい…
「あ、そっち?私はてっきり カッコいい〜!
とか恋のトキメキの方かと思ったのに!」
怜那ちゃんが両手を胸の前で絡める様なポーズを
とってからかう。
「恋?」私は小首をかしげる。
私の中では馴染みがないワードだった。
恋愛小説なら私も何冊か読んだ事がある。
もうその人の事しか考えられなくなっちゃうとか
一緒にいることが嬉しかったり
ドキドキしたり苦しかったりするんでしょう?
「秀くんは家族みたいなモノだから、
そんなんじゃないよ。」
それはハッキリと。
秀くんの事を考えて夜も寝られない…とか無いし!
「えーっ、つまんないの〜」
怜那ちゃんは口を尖らせて心底つまらなそう。
「もう!怜那ちゃんへの見世物じゃないんだから!」
私も反論する。
「じゃあ、廣澤くんに彼女とか出来てもいいんだ?」
怜那ちゃんに言われて驚く。
考えた事もない事だったから。
彼女?
秀くんが夜も寝られなくなっちゃう程の相手を
見つけて?
その人の事しか頭にない?
「そうなったら寂しいよ?きっと。」
怜那ちゃんがニヤニヤしながら言ってくる。
確かに。それはちょっと…寂しい…かも。
でも、だからって…
「寂しくても…
秀くんは決めた事をちゃんと突き通す人だし…
その時はちゃんと…」言葉に詰まる。
応援…してあげなくちゃ…
「…ふっ。そんなに暗い顔しないでよ〜(笑)
例えばの話だよ。」怜那ちゃんが苦笑いする。
「ただ、廣澤くんはモテるみたいだから
美織はちゃんと応援できるのかな?と
思ってね。」
怜那ちゃんは私を気遣う様な目線を送る。
ただ からかっていただけじゃなくて…
そう遠くない出来事を
怜那ちゃんは心配してくれたんだな…
でも、今は
なんか 考えたくないな…
「そういう事も…考えておかなきゃいけないね…」
そう言いながら窓の外 ー
私は無邪気に笑う秀くんを見て
少しだけ心を痛めた。
「… そう言えばさ、土曜日、廣澤くん試合
なんでしょう?この辺の地区の大会。」
怜那ちゃんが明るい声で話題を変えてきた。
「えっ?そうなの?」全然知らなかった。
「それこそ応援に行かないの?」
怜那ちゃんに言われて考える。
応援か…
「私、一度も秀くんの応援に行ったこと
無いんだよね…」
考えながら、自然と言葉がポロリと出ていた。
怜那ちゃんが驚く。
「えっ?一度も?
廣澤くん、サッカーって長いんじゃないの?」
「確か幼稚園の時からやってたよ?」
「それで一回も応援したことないの?」
詰め寄られる。
「それには私のつまらない意地とプライドが
関係しまして…」
私は目線を泳がせて伝える。
「一緒に行ってみる?廣澤くんの応援!」
と突然怜那ちゃんからの提案。
確かに、こんな機会でもないと、
ずーっと見れないかもな…
「じゃあ…行ってみようかな…」
私が言うと怜那ちゃんの目が輝き出した。
「そう!行こう!行ってみよう!
あ、この事は廣澤くんには内緒で行こう!」
怜那ちゃんが興奮してる。
「?」なんで?
小首をかしげる。
「サプライズで行ったほうが廣澤くんも喜ぶよ!」
怜那ちゃんはウインクしながら
人差し指を唇に当ててナイショとジェスチャーする。
それから
「楽しみだなぁ〜♡♡♡」って
両手をほっぺたにくっつけて左右に揺れている。
…盛り上がってる。
秀くんの応援が、そんなに楽しみ?なのかな??
それから、
怜那ちゃんと土曜日の待合せの話をした。
家に帰っていつもの様に、
私はリビングでお母さんと櫂お兄ちゃんに囲まれて
勉強する。
お兄ちゃんとの家庭教師の時間が終わる頃
「ただいま〜」
秀くんの声が玄関から聞こえてきた。
今日はちゃんと塾に行ったらしいな!
秀くんはリビングに入ってくるなり
目敏くテーブルに置かれた手作りクッキーを
発見する。
「あ〜っ!それ、みおちゃんの手作り?!」
クッキーを指差して震えている。
そう。これは今日の料理クラブで作ったクッキー。
大量に作り過ぎ&食べる時間が無くなって
それぞれみんなと分けて持って帰ってきたもの。
お兄ちゃんがまさにクッキーを食べようとしていた
のに、
「何オレより先に食べようとしてんだよ!」
とお兄ちゃんからクッキーを取り上げた。
お兄ちゃんはニヤニヤしながら
「残念だな、秀。オレはこれで3個目だ。
美織ちゃんの手作りは愛が詰まってて最高だな!」
き~き~怒る秀くんのおでこを軽く押さえて言う。
秀くんはお兄ちゃんから分捕ったクッキーを
立ったまま食べ始める。
うっすら涙まで浮べて…
そんなにお腹が空いてたの?
私は立ち上がってキッチンに用意しておいた
秀くんの分のクッキーを手渡す。
「はい。そんなにお腹が空いてたの?」
さっき軽くリボンをつけてラッピングしておいた。
秀くんは両手でクッキーを受け取ったまま
一瞬止まって
「コレ…用意しておいてくれたの?」と
涙目のまま私を見る。
「そりゃあ、そうでしょう。
秀くんいつも喜んで食べてくれるし。
あ、お父さんの分までは無いから内緒ね!」と
伝える。
秀くんはお菓子でもご飯でも、
作るといつも喜んで、にこにこ食べてくれるもん。
寧ろ、食べて欲しい!
「…嬉しすぎて、食べれない…」
秀くんがクッキーと一緒にテーブルになだれた。
「えっ!何でよ!ちゃんと食べてよ?
お兄ちゃんから守るの、大変だったんだから〜!」
私はついさっきまでのお兄ちゃんとの
やりとりを思い出しながら苦労を伝える。
「食べちゃったらバレないじゃん☆」
というお兄ちゃんの言葉をきっかけに
兄弟喧嘩が勃発する。
でもお兄ちゃんはどこか嬉しそう…
何故だ?
そんな二人のやり取りを見ながら、
土曜日のサッカーの試合、頑張ってね、秀くん!
心の中でエールを送った。




