トランプ
温かな陽射しが差し込むリビングで
一瞬5人の動きが止まった。
「秀くん、塾は?」お母さんが聞いた。
「早退してきました。」
「なるほど。ちゃんと行ったのね。」
「そこで秀に会って荷物持ってくれて
一緒に来たんだけど…」とお父さん。
お父さんもその先、なんて言っていいのかわからない
みたいだった。
「じゃあ」と引き返そうとする秀くんに
「待って!」思わず声をかけてしまったのだが、
私もそこから先の言葉が出てこない。
「美織。」急にお母さんに呼ばれて我に返った。
「はい。」そう言って手渡されたのはトランプ。
何故? ハテナマークいっぱいの私。
「秀くん、最近の美織はスピードが強いわよ。
では、行ってらっしゃい!」
そう言ってリビングから追い出された。
え… どういうこと?
廊下で秀くんとふたりきりにされてしまった…
気まずい…
「と…とりあえず、部屋に行く?」
そう言って階段を登り始める。
秀くんもちゃんとついてくる。
部屋に通すなり
「勉強してたんじゃないの?」と痛い所をつかれる。
「うん。…えっと…。」
そこから言葉が出てこない。
「…泣いたの?」
そう言って秀くんの手が私の頬に触れた。
「目が赤い… 」 少し心配そうな顔
「…っ ふっ… うっ… 〜っつ」
秀くんの顔を見たら
秀くんに触れられたら
また涙が溢れてきた。
「…みおちゃん?」
「わからないの… 秀くんの言った意味が…
秀くんの事が…わからなくて
私はまた秀くんを傷つけてる…?」
背の高さが一緒。
秀くんの目がばっちり合う。
秀くんは困った様な顔をする。
やっぱり傷つけてるんだね… そう思ったら
滝のように涙が止まらない。
「…ごめんなさい」
両手で自分の顔を覆う。
「あーっ!もう!」秀くんが突然声をあげた。
手首を掴まれて引き寄せられる。
「みおちゃんはやっぱりズルい。」
「…ごめんなさい。」私はもう1回謝る。
「涙とか、悩んでる姿とか、謝ってくるところとか
本当にズルい。かわいくて…困る。」
「?」そこで何故かわいい?
顔をあげて小首をかしげる。
「そうやってわかってないところとか!
ズル過ぎる!」
そう言いながらもぎゅっと抱きしめてくれる。
「本当にもう、先が思いやられるよ…」
秀くんの耳が真っ赤。顔を見せてくれない。
「…ごめんなさ…」
「謝らないで。」被せる様に秀くんが制した。
「ごめん。オレの方がみおちゃんの気持ちを
欲張った。みおちゃんはそのままで大丈夫。
今は、そのままで許してあげる。」
そう言って髪の毛をふわふわと撫でられる。
心地良い…
私は秀くんにすり寄って思わずニッコリしてしまう。
「本当にズルい…」
秀くんの目線の先には机に置かれた
ツヨスギマンの消しゴムがあった。




