5年生
秀くんのお父さんとお兄ちゃんが帰って来た
春休みはあっという間に過ぎて
4月 ー 私達は5年生になった。
そしてまたいつかの再現の様に
私は今、数人の女子に廊下の隅で囲まれていた。
「春休みに秀くんに抱きついていたとか、
どういう事…?」
くらっ… 立ち眩みがする
どこからの情報なのよ…
「何とか言いなさいよ!」
はぁっ 私は大きな溜息をついた。
「どこからの情報か知りませんが、私の方こそ迷惑
してるんです!」
「はぁ?なにそれ。ちょっとかわいいからって調子に
乗ってんじゃないわよ。」
肩を押されて後ろの壁に背中が当った。
苛立ちが募る。
「そんなに気になるなら秀くんに直接聞いてよ。
話がそれだけなら通して。」
そう言ってクラスに戻った。
そう。あの時 ー
「好きの種類が違う」と言われ困惑している私に
秀くんも苛立っていたのだろう事は分かったが…
「みおちゃんのバカ!」うん、100歩譲って許そう。
「小悪魔!」 ? よくわからない。スルー
「鈍感!」 カチン ☆
「鈍すぎ」 カチン ☆ カチン ☆
「分かって無さ過ぎ」 ぷっちーん ☆
「そんなに言うんなら私なんか相手にしなくて
いいじゃん!!!」怒鳴ると
「そういう事を言ってるんじゃない!!
それも分からない訳?!」
という具合に言い合いになり、
今の今まで口をきいてない。
今思い出しても腹立たしい。 何なのよ!
なのに
クラスに戻ると 私の席に秀くんが座っている。
5年生の新クラスは秀くんと同じクラス。
先が思いやられる…
学校で口をきかない約束は
ずっと守られていくものだった筈。
この状況は何なのでしょう?
怪訝な顔で秀くんが座る自分の席に近づく
「櫂が家庭教師をするって?」
普通に話しかけられた。
櫂お兄ちゃんが私の家庭教師をする話は
春休み中に双方家族の親達により決められた事。
体力の都合で塾に行けない私。
この春からS大教育学部で教師を目指すお兄ちゃん。
お互いに良い時間になるだろうとの事で決まった。
「オレは反対!」
「…それ、今話す事?」
喋らない条約はこうしてあっさり破約された。
「今日からでしょ?オレも行く!」
「秀くんは今日、塾があるんでしょ?」
「休む!」
「何でよ〜!」
だんっ ! と自分の机を叩いた。
声とアクションが大きくなってしまったため
クラス中の目線を集めてしまった。
〜〜!! っ だから秀くんと居るのは嫌なのよ。
自分のペースが乱される。
私はその場にいることが耐えられなくなって
廊下を目指して教室のドアに向かう。
追いかけてこられないように小走りに走ると
ちょうど教室のドアの所で肩を抱かれて、
私はそのままぐいっと押されて廊下に出た。
「なに?修羅場?」肩を抱いてきた相手は
怜那ちゃんだった。
怜奈ちゃんはクールな目線で秀くんを牽制して
くれた。
「もうすぐ始業式が始まるわ…。外に行こう。」
そうして私を連れ出してくれた。
怜奈ちゃんは4年生から仲良くなった友達。
剣道を習っているせいか、いつも凛とした佇まい。
私より背が高くて、性格はクール。動きは華麗。
「なぁに?喧嘩でもしたの?
廣澤くんも、らしくないじゃない?」
きれいな顔立ち。モデルさんみたい!といつも思う。
「怜那ちゃん!助けてくれてありがとう!
うん。そんな所。」怜那ちゃんを見上げる。
「あまり学校で派手な事はされたくないわね〜。
さっきも日戸瀬さん達に
囲まれてたんでしょう?」心配そうな顔。
「…っ!怜那ちゃん!ありがとう!大丈夫だよ。」
心配してくれる人がいる って
有り難い ! 嬉しい !
「何か困ったらちゃんと言うのよ?」
「うん!心強いよ!」 感動!!!
「廣澤くんは何を焦っているのかしらね?」
「?」
「そんな事より、5年生になったよ!クラブは結局
何に入ろうか?」
私は思わず目を輝かせた。
4年生の時はほとんどクラブ活動に
参加しなかった。
家に帰ってお母さんとの散歩を優先にしていたから。
ちょっとずつ体力もついてきたし、
5年生からはクラブ活動に参加したい!
と思っていた。
それは怜那ちゃんとの約束でもあった。
目標があった方が頑張れるから…
「真面目ね(笑)」
って怜那ちゃんは笑ってたけど。
「私、料理クラブに入りたいの!」
「ああ!いいね! 美織、好きそう。」
「裁縫クラブと迷ったんだけど、やっぱり作品作り
より食べれた方が良いかな♪って(笑)」
「あはは!太らないでよ?」
「怜奈ちゃんにも差入れするね!」
少し間があって、何かを考えた様子の怜奈ちゃん。
「…今年は美織と一緒のクラブにしてみようかな?」
と言い出した。
「え、本当?嬉しいけど… ダンスクラブは?」
「私も美織に倣ってちょっとは女子力アップ
しないとね〜☆」
「嬉しい! 実は1人でクラブ活動に入っていくって
ちょっと不安だったの!」
正直に、嬉しい。
5年生の生活がとっても楽しみになった。




