春のときめき
秀くんが言ってた 明後日 までの時間
こんなに長く、そわそわした気持ちで過ごした事が
あっただろうか…
3月最終の土曜日。
とうとう秀くんのお父さんとお兄ちゃんが
帰って来る…
その日は朝から落ち着かなくて
一応広げた勉強も全然捗らない。
私は溜息をつきながらベッドに寝転がって
ただただ時間をやり過ごす。
…気分転換に散歩でも行こうかな?
そう思ってベッドから起き上がる。
リビングではお母さんと今日はお休みのお父さんが
一緒にソファーで映画を見ていた。
「お母さん、お父さん… お散歩してきます。」
2人に声をかけた。
「1人で大丈夫?」お母さんが立ち上がって私を
見る。
「うん。学校近くの公園と、ついでに図書館に行って
本を借りてくるね。」行き先を告げる。
「気をつけてな。」お父さんも声をかけてくれた。
玄関の扉を開けると温かな日差しを感じた。
今年はなかなか気温が上がらなくて
桜の開花も遅れ気味。
久しぶりの温暖気候を嬉しく感じながら
散歩をスタートさせた。
ちらりと隣の家の秀くんのお家を見やる。
特に騒がしくもなくいつも通りの
静かな佇まいだった。
先に図書館に行き、小説の続巻を借りる事にする。
図書館に着くと顔馴染みの図書のお姉さん、
久喜優子さん事、優ちゃん
が声をかけて来た。
「あー、美織ちゃん!この前のリクエスト本、
確か届いてたよ〜。」
ちょっと待っててね、と言いながら
取り置きの本棚を調べてくれた。
優ちゃんは頻繁にこの図書館を利用する私をすぐに
覚えてくれて、気にかけてくれる優しい
スタッフさん。
歳は28歳。本が大好きで、知識が豊富。
子供からお年寄りまで誰にでも優しくて
気さくな人柄は私の憧れ。
つい最近年上の人と婚約したんだとか!でも
「結婚しても辞めないよ〜!
私は図書館が住まいみたいなものだから〜」って
この前も優ちゃんの完全プライベートな話で
その時は私のお母さんも混じって3人で大騒ぎした。
「やっぱりあったよ~!」と言いながら
優ちゃんが本を手に戻って来た。
「電話して伝えるより、いつも図書館に来てくれてる
から渡した方が早いね(笑)」
笑いながらも手際よく貸出の手続きをしてくれる。
左手の薬指の指輪が光って見とれてしまう。
…春だなぁ!(笑) 心がほっこりする。
「ついでに奏さんのリクエスト本もあったから持って
行ってね!」
優ちゃんがにこやかに本の冊数を増やした。
「体力トレーニングだね!(笑)大丈夫?」
さほど心配していないだろう形式だけの言葉を
私にかけた。
こういう所、憎めないんだよね(笑)
それから公園に立ち寄る。
公園のベンチで気持ちの良い気候を感じながら
読書を… とウキウキしていると、
ガシャン と大きな音がした。
驚いてどこから聞こえた音なのか辺りを見回す。
それは
公園の端にあるバスケットのゴールが揺れた音。
ダンッ ダンッ
バスケットボールをつく音。
背の高い、肩幅の広い男の人がドリブルする後ろ姿が
見えた。
白のぶかぶかTシャツに短パン バッシュ
まだ少しだけ肌寒さを感じる陽気なのに
その人は汗をかいていた。
ガシャン またすごい大きな音がして
バスケットゴールが揺れた。
ダンクシュート! すごい! カッコいい!!!
目が完全に釘付けになってしまった。
大学生くらいかな?
Tシャツの袖で汗を拭いながらこっちに歩いてくる。
…
あれ… ?
なんか…見覚えがある。 デジャヴ ?
以前にも…
いや、 それよりも
この顔は…
私はさっきとは違う意味でその人に釘付けになった。
ガン見の私の視線に気がついたその人は
「? こんにちは。」 ニコッと挨拶してきた。
近づくと益々背の高さを実感する。
私は完全に天を見上げた形になった。
でも、この笑顔はまさしく
千景さん!!!!!
という事は…
私は変な汗をかきながら慌てた。
この人が… 秀くんの お兄さん !!!
「こ… こ… コンニチハ… 」
あわあわしながらカタコトの挨拶を返す
とお兄さんの方も何かに気がついた様な顔をする。
「君はもしかして… 榊さん ?」
「は…はいっ!」妙な力が入る。
「お…お兄さんは えっと 秀くんの…」
うまく喋れない 指先までモジモジしてしまう。
お兄さんはそこまで聞くともういちどにっこりとして
言った。
「はい。秀の兄の廣澤櫂
です。 久しぶりだね、美織ちゃん。」
温かな笑顔と爽やかな雰囲気は 秀くんと重なった。




