予想外
近ごろ都で子守唄が鳴る魔石の入った小鳥のぬいぐるみが流行っている。
泣いている赤子がぴたりと泣き止むし、いらいらしている人もくよくよしている人もその声を聴けば心穏やかになる。
澄んで柔らかい不思議に伸びる歌声は、劣化版ですら高値で取引されるらしい。
「君だろう?」
と、狭い部屋の中でアドルに言われてびっくりした。
そんなことになっているとは知らなかった。
辺境にいるアドルが知っているのである。
一体どれだけ流行っているのだろうか。
王宮にばれたらどうしよう。
職を失うのは困る。
「いや、大丈夫だよ。正体不明の謎の歌姫と呼ばれているから」
ほっと胸をなでおろす。
「秘密にしていてくださいね」
と頼むと、かすかに笑う声がした。
アドルは魔獣を狩った後に竜を鎮めるために試しに買ってみて、びっくりしたのだという。
興奮していた竜が穏やかに寝てしまい、疲れていた自分もついうとうとしたとのこと。
「子守唄もいいけれど」
少し間が開く。
「恋歌が聴きたいな」
「勇猛果敢で有名な竜使いの騎士は意外とロマンチストでいらっしゃるんですね」
からかうと怒ったように、
「君の声で聞きたいんだ」
と言うから、イズールは誰も見ていない小さな部屋で真っ赤になってしまった。
その後定期連絡がきちんとできた自分をほめたい。