私の彼が私の父にハアハアしている
「えっ、ボルフ様?えっ?」
やっと会えたアドルが、自分を見てくれない。
「あの名軍師の?メーユ出身の人だとは聞いていたけれど、えっ?」
「父はそんな大層なものじゃないの」
「いや、敵ながらあっぱれと騎士団の中でも評判の……えっ?」
アドルは憧れの人を前にした、恋する乙女のような表情を見せている。
ボルフは別に名軍師でも何でもない。
ほぼ全ての原住民族の歌や手仕事を求めて回った結果、辺境の地理、天候に詳しく、魔獣の民の性質を知り尽くしていただけだ。
さらに言えば原住民族に出会う前は読書に凝っていて、幼いころから戦記物語をよく読んでいた。
そこに目を付けられ、王宮の文官をしていた時は文官と騎士団の仲介役、今のリーリシャリムのような仕事をしていたらしい。
友人になった騎士と一緒に訓練もたまには受けていたという。
メーユの騎士団のこともまるっとお見通しだっただけだ。
敵を知り己を知れば千戦危うからず。
魔石交換をしながら、
(ああ、父さん全然死なないわね、アドルがんばって!)
と思っていたのである。
「大事な森や畑が荒らされて、ちょっと怒っちゃった!」
とかわいこぶっていた父なのである。
とにかくアドルの目が父から離れない。
あの戦、この戦、聞きたいことがいっぱいですと顔に書いてある。
「まあ、こんな夫を見染てくれてありがとう」
「光栄です……!」
「良かったらメドジェの僕の家に来るかい?狭いけれど」
「光栄です……!」
「その家には多分本と手仕事のものしかないのよ、アドル」
「光栄です……!」
3人の会話に自分が入っていけない。
アドルは早速外泊許可を取ってしまった。
「えっ、イズールの実家にお泊り?」
大決断だな、と仲間たちに冷やかされて照れるアドルをイズールは冷たい目で見る。
(目的は残念ながら私ではないのよ)
こういう風にいつも父は捉えられてしまうのだ。
娘は大変である。