別れの夜
「俺が、なんでついていっちゃいけないの!」
「お前じゃないとできない国賓の対応があるからだろう」
グノンにリーリシャリムがしがみついて離れない。
第3部隊と第4部隊がそれぞれの辺境へ旅立つ前日、マリベルとルルファスの家に集まったのだ。
酒も飲まずにリーリシャリムは涙を浮かべていた。
グノンが赤くなりながら言う。
「その……身重だし」
「身重の妻を一人おいていくのかよ!」
爆弾発言に、一同びっくりする。
「……お、おめでとう?」
「ありがとう!ぜひかわいがってね!」
晴れやかな笑顔を見せたリーリシャリムが、もう一度グノンにしがみつく。
「お前は腕っぷしと人望は抜群だけど、魔力の攻撃に弱いじゃないか!俺がついていないと不安なんだよ!」
「俺はお前がついてくると不安なんだ」
グノンの手がリーリシャリムの腹をなでる。
「無事に産んでくれ、まずは食べろ」
「なんだか気持ち悪いんだ」
「そう言ってずっと食べないから不安だ」
あらあらそうだったの、と言いながらマリベルが果実水を持って来た。
「誰か一緒にいてくれる人がいた方がいいんじゃない?」
「母さんが明日来る」
ちびちび果実水を飲みながら、リーリシャリムはそれでもぶつぶつ言っている。
「うらやましいけれど、俺たちの子どもはもうちょっと先になるかな」
仕事熱心すぎたマリベルを、責めるようにルルファスが言うと
「無事に帰って来たら、すぐに産みましょう」
といつも強気のマリベルが少ししんみりと言った。
◇◇◇
騎士団が夜明け前に出発するため、少し早めに解散となった。
灯りがところどころに灯った暗い夜道は女一人では危ない。
イズールを送ってくれるアドルが、何か言いたそうにしている。
「今回は、前回と違って」
「知っているわ」
魔石交換手をしていれば嫌でもわかる、情勢が非常に悪い。
ばらばらに活動していた小さな部族がまとまって、大きな勢力ができつつあるのだ。
黙り込んだアドルに、イズールが問いかけた。
「帰りを、待っていてもいいかしら?」
のぞきこんだアドルの瞳は嬉しさと不安の間で揺れている。
「必ず、帰って来るから……!」
強く抱きしめられ、息ができなくなりそうになってアドルを見上げると、イズールの唇にアドルがきつく口づけた。
肩の向こうに見える小さな月を見ながら、
(この人を守り抜かなくては)
イズールは心に誓った。
どんな手段を使っても。