小春日和のおだやかな日
食堂は昼の食事を楽しむ人の活気で満ちている。
半分に割って渡されたパオツが手の中で冷えていくのを感じながら、イズールはアドルの言葉を理解できないでいた。
「また、辺境警備に戻ることになったんだ」
アドルはもう一度言い聞かせるように繰り返す。
毎日の魔石交換から察していたとはいえ、まさかアドルがまた行くことになるなんて。
「メドジェ族の活動が活発化しているのね」
「ああ。厄介な抵抗だ」
「厄介」「抵抗」という言葉に引っ掛かってイズールは黙り込む。
毛皮をまとって魔獣に変わり、開拓地を襲うメドジェ族はメーユ国の抱える問題の一つだ。
討伐隊として竜使いの騎士たちは闘うのである。
『領土を拡大していくメーユ国が、年々メドジェ族の人や領地を削り取っているんだよ』
という父の言葉がよみがえる。
この王宮で言える雰囲気ではないし、言ったとしても誰にも理解してもらえないだろうが。
メドジェ族だけではない。
「領土拡大を止める」という王の心ひとつでなくなる戦がこの国にはいくつあるだろう。
ただの文官には関係のない話だと思っていたが、こんな日常の生活の中で、さもないことのように大事な人を奪われてしまうのか。
「定期連絡を、楽しみにするよ。小鳥も、持ってゆくから」
イズールは目を伏せて小さくうなずいた。