大声ダイアモンド
(夕食、どこで食べるにせよ、とにかく、話を、してから)
お幸せに!と笑顔の二人に送り出されて混み合う北門の下まで来てしまった。
竜使いの騎士と入っていいようなお店をイズールは知らない。
頼りのイズールは無言である。
というか、この状態ではご飯を食べる気にならない。
どうしよう、と見上げると目が合った。
「一人で勝手に空回りしてすまない」
「……いいえ、私こそ王宮のことが何もわかってなくて」
「誘われて舞い上がっていたし、他の奴のものになる前にと焦っていたんだ」
耳の奥で頭に血が上る音がする。
(嬉しいどうしたらいいのこんな急にいや私がにぶくてじゃなくてこの人はこんなに素敵でこういう時王宮ではどんな態度でいや故郷でもこんなことは一度もそもそも人生で初めて)
黙り込んだイズールの腕をアドルがそっと離した。
「……困らせたね、ごめんよ」
えっ?
「王宮は広いから、そんなに会うこともないと思うけれど、食堂で一緒になる時は普通に接してくれると嬉しい」
のどがつまって声が出てこない。
穏やかな声で、じゃあ、今日はこれで、と言ったアドルの腕を鷲づかみにする。
無言でがっちり捉まえられてアドルが戸惑っている。
イズールは声を絞り出した。
「……さい」
アドルが耳を顔に近づけた。
イズールはすうっ、と息を吸い込む。
「あなたのピンをください!」
王都一番の人混みの中でも、イズールの声は良く通った。
振り向いた人々の視線を感じて慌てて二人は離れる。
大きな手が小さな手に金色に光るピンをそっと渡す。
「国の魔術具を大事にしてね?」
アドルの声に喜びがあふれていた。