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ケンカなんてやめてさ
「あの時は、本当に申し訳ありませんでした……!」
イズールは一生懸命謝った。
紺の魔石が輝いている。
「いや、リーリシャリムは女にしか見えないからね。何に怒っているのか分からなくて、動揺してしまったよ」
アドルの声が穏やかで嬉しい。
リーリシャリムがすでに伝えてくれたのだろう。
定期連絡を聞いてまとめ、確認してもらうと、アドルが次の休日の予定を聞いてきた。
全ての時間を公演の特訓に割いているのだ、と答えると頑張っているんだね、とねぎらってくれる。
「辺境勤務がもうすぐ終わるんだ」
この定期連絡の時間が終わってしまうということだ。
寂しさを隠しておつかれさまでしたと言う。
こんな上の立場の人とは、もう話せなくなってしまうだろう。
アドルが何度か言いよどんで、焦ったように言った。
「その公演には俺も行くよ。公演が終わったら、一緒にどこかで食事をどうかな?」
「……嬉しいです」
声が震えているのに気づかれたら恥ずかしい。
「俺も楽しみだ」
と答えたアドルの声は少し弾んでいたようだった。