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魔女になりたいの

紺色の魔石が光るのを見て憂鬱になる日が来るなんて。


「こんにちは、セネ軍曹に定期連絡をお願いできるかい?」

「アドル様、ごきげんよう。お話うかがいます」


なるべく失礼にならないように、柔らかい声を出す。


「コトリを見たよ。素晴らしい歌だったし……きれいだった」

「そうだったんですね、では定期連絡を」

「会わせてもらえなかった。残念だったよ」


声が浮かれている。

二人で甘い時間を過ごしたせいだろうか。

声が硬くなってしまう。


「定期連絡を」

「……どこかで会えないかな。明日まで王都にいるんだ」


復讐をしてやれ、と、意地悪なイズールがささやいた。


「では、お堀の橋にコトリがいるかもしれません」

「本当かい?」


遊びなんてダメだ。

思い知らせてやれ。


「定時に上がれるかい?遅れても待っているから」


なんでこんなに悲しい気持ちでこの言葉を聞かなければならないのだろう。

イズールは光の消えた紺色の魔石から目をそむけた。

その日はサリラの家で次の公演を断り、新曲を断ることになっていたから、定時で帰ることにしていた。

綿の街着に着替えると、イズールは何食わぬ顔でお堀を渡る橋を渡った。

かわいいお嬢さんたちに囲まれたアドルを横目に見ながら、小走りに通り過ぎる。



◇◇◇



サリラ家の立派な部屋から浮くのにも慣れてきた。


「懐が潤っても、あなたは変わらないのねぇ」

「急に贅沢をしだすと疑われてしまいますもの」


お茶の器を音をさせずに置くと、サリラは侍女に合図をした。


「お古で悪いのだけれど、私が若いころに使っていたものよ。良かったら我が家に来る時だけでも着てちょうだい」


ずらりと並べられた美しい服に、イズールはドキドキした。


「服が好きすぎてね、一回しか袖を通したことがないものも多いの。遠慮なくもらって」


金貨よりも嬉しい。

いや、金貨がやっぱりありがたいが、こんな良いものをいただいていいのだろうか。

街着にできそうな服を数点選び、


「若い娘がこんな地味ではだめよ」


と言われ、さらに数点追加されてしまった。

綿を着た自分が、サリラ家の正門を通って来るのは、やはり失礼だっただろう。

イズールの体に合わせて縫い直してくれるらしい。

嬉しくて思わず次の公演を承知してしまった。

魔術具の新曲も約束してしまった。

してやられた。

自分はうっかりものである、と思いながら帰る帰り道、お堀の橋に寄ってみる。

日が落ちて薄暗くなった場所に、一人だけ立っている人を見てびっくりした。

もう帰ったと思っていたのに。

衛兵を捕まえ、伝言を頼む。


「アドル様にコトリは会いたくないのです、とお伝えください」

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