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隠れ蓑

「ただでさえ、この婚約は、お嬢様がアルヴァ様に縋って成立しているという設定ですからね。頻繁にサイアン公爵家に出入りしていたアルヴァ様が、突然いらっしゃらないようになれば何かあるのかと勘繰る者もいるでしょうね」

「でもまだ一ヶ月くらいじゃない。色々予定があって忙しくしていれば、一ヶ月なんてあっという間よ」


仕事や勉強、礼儀作法やダンスのレッスン、家族との団欒や外出して過ごしていたら、一ヶ月なんてすぐに過ぎ去っていくものだ。普通は婚約者に会うといっても月に2、3回会えば良いものなのに、どうしてそんな噂が立つのだろうか。


「お嬢様がたは、内情はどうあれ、とても仲睦まじい婚約者でしたから」


確かに一ヶ月前まで、我が家に入り浸っていたアルヴァとは一緒に公爵家の仕事をしたり、お茶を飲みながら世間話をしたり、チェスをやったり、リートゥスやショーの面倒を見たりと過ごしていた。


「誤解を招くような言い方をしないでよ」

「誤解も何も、客観的に見た人間の感想ですよ」


そんなことはないとリヴァーに向かってハッキリ言ってやりたかったけれど、全く説得力に欠けていることに私も気が付いていた。正直に言って、アルヴァと過ごす時間というものは楽しい。アルヴァが話してくれる昔の面白い歴史雑学や少し毒のある批評が、私は結構好きだったりする。本性も知っている相手であるし、気を遣う必要など全く無く、気楽で良かったのだ。


「え?つまり、そんな状況で、さっきみたいなやり取りがあったなんて外部に漏れたら……」

「恐らくきっと、万が一、アルヴァ様と破談になったとしても求婚者は絶対に現れなくなりましたね」


絶世の美男を侍らせるほど私は面食いだと世の中の人達には思われている。アルヴァとの婚約が解消されたとしても、私や周囲に比較されることを嫌がって、次の相手を見つけるのは苦労するに違いない。きっと、あの中の使用人達の誰かが、外部に知らせるのだろう。彼女達の手紙や外出など、調査した方が良さそうだなと頭の隅で考える。


「アルヴァ。私をハメたのね?」

「こうしておけば、ずっとセレスティーナを独り占めできるでしょう?」


何が面白いのかニコニコとアルヴァは笑って言った。狂気の沙汰としか思えないが、神様特有の考え方なのだろう。一ヶ月前までの呑気な自分に言ってやりたい。もう後戻りは出来なくなっているんだと。


私はお腹に溜まったモヤモヤを吐き出すように、年寄りの溜息よりも大きな溜息を吐いてみた。


「まぁ、どの道、私は結婚しないつもりだから、良い隠れ蓑になってよね」

「お望みのままに」


サイアン公爵家の跡継ぎであるリートゥスは幼い。リートゥスがいる以上、私が他家に嫁ぐことが普通だけれど、下手な男に公爵家を引っ掻き回されるなんて耐えられない。リートゥスを害して、公爵の座を奪おうとする者もいるかもしれないのだ。不用意に男を近づけるべきではないのだ。


その点、やはりアルヴァは都合が良い。本来の姿はニウェウス神なので、歴史改変が終わったら神の領域に戻るのだろう。リートゥスが成人して、その地位が盤石なものとなるまではいてもらうように頼むのもアリかもしれない。


「アルヴァ様の先程の行動によって、グリフィス殿下を含め、それぞれに近づきたい方々の思惑は外れてしまったことでしょう」


とりあえず、これで状況はデビュタントの前と同じに戻ったと考えて良いのだろうか。グリフィス殿下がサイアン公爵家に婿入り出来ない状況のままなのだから。


リヴァーに少し離れているように指示を出すと、彼は素直に声が届かない距離まで下がった。アルヴァとの話は歴史修正にも関わるので聞かれたくは無いけれど、未婚の身で男女が二人きりという状況は外聞が悪いので、これが最低限の譲歩だろう。


「百回目は成功させると話したでしょう?百回目の成功条件は、グリフィス殿下が国を滅亡させないようにすることで合ってるわよね?」

「はい。その通りです」

「殿下が死ぬのを待つことについては先送りにするとして、取り急ぎ問題になるのはグリフィス殿下が三回目の人生で起こした女性問題よ」

「どの女性問題についてですか?彼の女性問題を論うと一晩掛かってしまいますよ」

「そんなことは分かってるわよ。私が言ってるのは、滅亡のきっかけになる王女の話よ」

「反応が悪くて面白くありませんね……」


グリフィス殿下の下半身が非常に緩いことくらい、『前回』で知っているのだ。公爵家の居候フラビアに手を出したようだけれど、あれは数多くいる恋人の一人に過ぎない。どういった経緯で関係を持ったのかは詳しくは知らないので――生々しい報告は聞きたくないので私が聞くのを避けただけ――恋人と呼んで良いのかは分からないけれど、結構な人数の女性と関係を持っていたらしい。


普通は、婿入りするのだから気を遣うべきなのだろうけれど、我が国の王族はそのようなことを微塵も考えないらしい。元々私も殿下との子供を産む気もなかったので、他所に行ってくれた方が助かると思ったくらいだ。


「王女って、一体どこの国の王女だったの?」


とてつもなく今更な話を、公爵家を立て直すことに注力し過ぎていて、何も聞かないでココまで来てしまっていた。

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