罪
贖罪といっても、心の底から申し訳なく思っているわけではないことは、ニウェウス神の様子を見れば分かる。それでも形ばかりの償いを続けるのは、やはり契約というものに縛られているからなのだろうか。腑に落ちないことではあったが、とりあえず目の前には大きな問題がある。
恩寵という強大な力を与えたのだから、その責任は持つべきだとか。勝手な約束によって苦しむ人達がいたのに助けなかったことだとか。この恩寵は建国王の直系子孫にしか利益がないのだから、自分達で解決させるようにキツく諭すとか。自分の契約なのだから、プルプラ神のように訳が分からない存在に介入されないようにしろだとか。
言いたいことは山のようにある。不満が次から次へと、口から飛び出してしまいそうになるのを、私はグッと堪えた。挙動不審な私に気づいたニウェウス神は、不思議な力で椅子を出してくれて、座るように気遣ってくれたけれど、私は立ち尽くしたままで動けなかった。胸の中にあるモヤモヤが体中をグルグル回って、爆発しそうだった。
そうして飲み込んだ不満の代わりに、大きな大きなため息を吐いた。今更何を言ったところで、全ては過去のことで、歴史修正によってやり直したところで、その前に犠牲になった人達が報われるわけではないのだから。
ドサッと体ごと、作法も分からない子供のように私は椅子に座った。浅く座り、背もたれに体を預けるなんて、淑女としては落第点もいいところ。
「続けて?」
めちゃくちゃに責め立ててやりたい気持ちを抑え、私は最後まで話を聞くことにした。
「……最初の内は特に問題はありませんでした。サングィスは境遇が境遇でしたので、勤勉で従順でしたから、周囲の者達の手を借りながらも頑張って王国を運営していました。その子孫である王家の者達も大きな問題は無く、稀に他国と問題があった時たとしても、歴史修正も小さな労力で行うことが出来ました」
今の王族からは考えられない御先祖様達の話である。しかし、私は一つ気になったことがあった。
「建国王サングィスの境遇って?彼は地方の豪族の息子で、この地を開拓するように神託を受けたんでしょう?」
コロル王国の建国神話を端的に説明すると、地方の豪族の息子であったサングィスに主神が神託を与えるところから始まる。主神からの神託を伝えたのが第一の神徒であるニウェウス神で、その際、ニウェウス神はサングィスの篤実な人柄を好ましく思い、恩寵を授けたと言われている。
へぇ、という感想しか抱けなかったのだが、ニウェウス神の人となりを知ってしまった後では、空々しい話だと呆れてしまうのだけれど。
「サングィスは元は奴隷です。サングィスがいた街が戦火に巻き込まれ、混乱の中で逃げ出したのです。しかし、やはり国の祖となる人間が奴隷というのは外聞が悪いと、都合の良い歴史書を書き上げたようです」
「ど、奴隷ですって……?」
驚き過ぎて言葉もなかった。まさか自身の先祖が奴隷だなんて、予想だにしなかった。いや、千年以上昔の話で、私の先祖に成り得る人物は山のようにいて、その中に身分が低い者はいないだなんて思い上がったことは考えていない。けれども王国の誰もが崇め奉る存在が、最下層の奴隷だなんて考えたこともなかった。
「家系が既に奴隷階級だったのです。彼自身が罪を犯したわけではありません」
罪人ではないと聞いて、少し安心する。
「神託を受けたサングィスは、王国の礎となるサイアンやマジェンタを仲間に迎え、この地を開拓し、サングィスはコロル王国を建国したのです」
「その過程で、貴方は恩寵を与えたのね?」
「いいえ。私は主神から神託を伝えた時点で、サングィスに恩寵を与えています」
サングィスの人となりも見ずに、強大な力を与えたというのだろうか。それは危険なことのように思う。
「それはどうして?」
「贖罪だと言ったでしょう。せめてもの罪滅ぼしの為ですよ」
その表情は、やはり申し訳なさとかそう言ったものは見えない。誰かに命令されているのだろうか。第一の神徒であるニウェウス神に命令できる者など一人しか、いや一柱しかいないだろう。この場で指摘しても良いのだろうかと、私は頭を悩ませた。
「貴女の想像通りですよ。私はサングィスにとって大切な者を殺した罪を贖うことを主神に命じられているのです」




