疑惑
ニウェウス神を信仰するコロル王国において、今の発言は刑罰に問われかねない言葉であった。神を冒涜する行為を窘めるのか、それとも新しい情報が出てくるのか。私はプルシャン侯爵の答えを待った。
「セレスティーナ様とニウェウス神様との御関係について、この目で確認していないので明言を避けたいと思っておりましたが、セレスティーナ様は少々先走っていらっしゃってはいないでしょうか?」
「どういうことかしら?」
「御話を聞く限り、セレスティーナ様へのニウェウス神様の態度は確かに無礼だと感じます。しかし、何らかの意図があるのかもしれませんし、神でいらっしゃいますから、そういった人間の思考の枠に囚われない御方なだけなのかもしれません。真実が分からぬ内に、我々の憶測だけで一方的に悪と見做してしまえば、適切な判断をすることが出来なくなってしまうかもしれません」
この場には私とプルシャン侯爵しかにいない。ニウェウス神はおらず、弁解することも出来ない。そんな状態でアレコレ考えたところで正解かどうかも分からないのだ。侯爵の言い分はもっともで、少し反省した。
「以前、セレスティーナ様はロゼリア様がニウェウス神様を慕っているのではないかと仰いましたね?」
「えぇ。確かに言ったわ」
「こういった話をするのは、少し気恥ずかしいのですが、私とロゼリア様の関係は悪いものではありませんでした。恋人というよりは幼馴染としての関係が強かったように思いますが、それでも結婚した後の未来について語り合ったこともありました」
つまり、王家への輿入れはニウェウス神を慕って、自らを犠牲にしたわけではないと言うことか。
「ロゼリア様は侯爵と結婚することを喜んでいたというのね?」
「そうであったと私は考えております。ロゼリア様は公爵家を愛していらっしゃいましたから、他家に嫁ぐことなく、公爵家の為に生きていくことを願っているようでした」
家族を愛し、使用人や領民と言った下々の者達を愛し、愛される女性。王太后が崩御された際も、王国中から身分を問わず彼女を慕う人々が集まり、彼女を偲んで花を捧げたと言う話もあるくらいだ。余談とはなるが、先王が崩御された時などは慣習通りの葬儀だけで取り立てエピソードなどは無い。
「ロゼリア様の様子が変わったのは、パグールスの王女の輿入れを阻止し、先王に宛がう娘を選ぶ最終段階の頃でした。急に口数が少なくなり、私を避けるようになりました。用がある時は、もう一人の幼馴染であるセルリアン侯爵や使用人を仲介させる始末でした」
これまで頻繁に顔を合わせ、お茶も共にしていたにも関わらず、ある日突然人が変わったように自分を避けるようになったのだ。当時のプルシャン侯爵の戸惑いは察するに余りあるだろう。
「そうして暫く様子を見ていましたら、ロゼリア様が自分が王太子に嫁ぐと言い出しました。私を含め、何も知らなかった協力者達は驚いて反対しましたが、彼女は全く聞き入れようとしませんでした」
「急な心変わりするような理由……」
「結局何も話されないまま、強引に家を出て行ってしまいましたので、理由は分かりません。しかし、私はセレスティーナ様から『前回』までのグリフィス殿下の話を聞いた時に、確信しました」
私が話したグリフィス殿下の話の中に、そんな重要な話はあっただろうかと首を傾げた。
「ロゼリア様も二回以上、歴史を繰り返したのではないでしょうか?」
「え?」
「私は【修正者】は一度きりしかなれないと思っておりました。しかし、グリフィス殿下は一度目の生で国を滅ぼし、【修正者】として二度目、三度目の人生を送りました。ロゼリア様も同じく二回以上繰り返したのでは、と」
仲間と共に歴史修正に成功したロゼリア様が、プルシャン侯爵と結婚した後に自分や王国にとって不都合な未来を視てしまった場合、再び歴史修正を行う為に、もう一度やり直した可能性もあるということか。
「貴方と結婚してしまったら、コロル王国が滅亡するような未来を視たのかしら……」
「分かりません。ただ、考えられることは先王と先代様らが結託をして、サイアン公爵家に害を成そうとしたのではないでしょうか。であれば、ロゼリア様や私と言った改革派が消えた場合、王家の専横は加速し、滅亡も近くなってしまうことでしょう」




