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味方

感情のままに叫んで、すぐに後悔した。ジニアが堪えきれず、声を上げて泣き出したからだ。


「ごめんなさい、ジニア。烏滸がましいことを言って困らせて……」

「いいえ、いいえ!違うのです!」


謝った私に対して、ジニアは首を横に振る。


「私がお嬢様を嫌うことなんて、天地が引っくり返ったとしても有り得ないことです。例え、私がサイアン公爵家に雇われずとも、お嬢様の御人柄を知れば、すぐに好きになるでしょう」

「でも、私は全然ダメだから。女だし、愛嬌もなくて話もつまらないって。物覚えも良くなくて人望も無い、公爵家の娘のくせに何も出来ないのよ」

「そのような酷いことを言われたのですか?」


『今回』は言われていない。でも『前回』は毎日のように誰かに言われたように思う。公爵領にいる時は流石に少なかったが、大人達の間で既に落伍者と認識されていたグリフィス殿下を婿入りさせなければいけなくなった原因でもある、私の性別を言い立てる者はいた。


全部悪いのは私ではないのに。サイアン公爵が母と共に貴族としての役割を果たせば良かっただけだ。私がクロリスを用意したのように、サイアン公爵の好みの愛人を宛がうことも出来れば、王家の介入を防げたかもしれないのに、私を責めるだけで自分を納得させようとするなんて、何の解決にもならない愚かな話だ。


「物覚えが悪いなんて、御屋敷の者達はそんなことを思っていらっしゃいませんよ。領地で療養されている御当主様の代わりに、公爵家の仕事をしているのは分かっております。本来は跡取りでいらっしゃるリートゥス様が行うべきでしょうが、幼いリートゥス様では難しいからと代わってくださっているのでしょう」


王家の介入を警戒する以上、この仕事に関わる人間は少ない方が良いと判断したのだった。私と元々領地で代官をしていた者とプルシャン侯爵などの寄子貴族の当主達が、現在のサイアン公爵家の運営に携わっている。


「他にやりたいこともあったでしょうに、我がままも言わずに家族や御家の為に一生懸命頑張ってくださったことを存じております。こんなにも素晴らしい方にお仕えできる私は何と幸福なことでしょうか。奥様やローズマリー様も御立派になられたと褒めていらっしゃいましたよ」

「本当にそう思う?」

「えぇ。悔やまれるのは、お嬢様が負担を感じていることに気づけなかったことにございます」


ジニアは何度も何度も頭を下げた。心の底から後悔しているのだろう。もし、同じことを母やローズマリーに言ったとしたら、彼女達は私の為に泣いてくれるだろうか。ジニアの涙を見た今では、私の為に泣いてくれて、叱ってくれるのかもしれないと思えた。


「ジニア。私は自分がしたことが悪いことだと思ってはいるけれど、償うつもりはないの。私がしたことは絶対に間違っていなかったって思っているから」

「私も貴族の端くれでございます。権力の為に政敵の足を引っ張ろうとする者がいることは分かっております。サイアン公爵家のような名門であれば、邪魔をする機会を虎視眈々と狙っている不届き者が山のように存在するのでしょう。ですから、このことに関していえば、もう気に病む必要はございません。お嬢様は公爵家の人間として、公爵家に不利益をもたらす者を排除しただけのことでございます。奥様が先に知っていれば、きっと奥様が下す決断も同じものだった思います」


そう言い切ったジニアは、もう泣いてはいなかった。私を見つめる瞳は温かく慈愛に溢れ、とても頼もしいとさえ感じることが出来た。この人はもっと弱いと思っていた。親や男達の間を流されるに生きる人だと思っていたのだ。けれども、私が少し手を貸しただけなのに、こんなにも頼れる存在になっていた。悪事に手を染めたのと同じように、私は人を助けることが出来たのだ、身をもって教えてくれた。


「何度も言っておりますが、私はお嬢様の幸せの為に公爵家に仕えております」

「う、うん?そうね……」

「今の公爵家がお嬢様にとって幸福でないのなら、改善いたしましょう!」

「え!?」

「御当主様は不在、跡継ぎであるリートゥス様は幼児でいらっしゃいます。今なら、お嬢様が実権を握り、改革する好機にございます」

「ジ、ジニア……」

「その為に、私はもちろんのこと。夫であるリヴァーにも協力させましょう」


それは跡継ぎの乳母様が言って良い言葉なのだろうか。ジニアは更に力強く続ける。


「大恩あるお嬢様の笑顔が、私の全てでございます!」


愛されるって、意外と思ったよりも重いものなのかしら?

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