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前準備

私の提案はサイアン公爵家の家臣団達によって、あっという間に留学使節団の派遣という形を取り、そのメンバーとして三人が選ばれると言う結果になった。元々、諸外国の技術を取り入れたいとの考えもあり、こうして容易く進めることが出来たのだろう。


直接、外国の技術者を招くことも出来なくはないのだが、いかんせん我が国の王族は何をやらかすのか未知数で、おいそれと賛同も出来なかったに違いない。


まぁ、裏側では紆余曲折があったものの、表向きは三人は、栄えある使節団のメンバーに選ばれて、意気揚々と旅路に就いたのだった。勿論、使節団に選ばれた役人や学生の中に監視役を紛れ込ませるている。問題を未然に防いだ場合は、その後の進路も約束しているから、張り切ってやり遂げてくれるだろう。三人がもし相手国に骨を埋めたいと言うのなら、願いを叶えてやろうと思っている。両者の思惑は一致しているのだから問題は無いはずだ。面白い報告を聞けることを願っている。


「さて。貴女の思うようにいくでしょうかね?」

「上手くいかないなら、行く方法を考えるしかないわね」


三人の留学について考えている間に、私が何をやっているかというと、アルヴァと一緒に私のデビュタントの為の衣装合わせの為に仕立て屋を待っているところだった。


「デザイン画を見せてもらいましたが、素敵なドレスのようですね」


デビュタントは純白のイブニングドレスに、白の長手袋の着用が決まりである。私は柔らかなレースを幾重にも重ねたボールガウンドレスを選んだ。合わせてティアラも制作中である。


「馬子にも衣装と言いたいの?」

「憎まれ口をいう、その口は可愛くありませんよ」


アルヴァは笑って流したけれど、我ながら卑屈っぽい言い方ではあった。


「もっと自信を持ってください。今の貴女なら、地上の男性の半数は貴女の前に跪くことでしょう」

「男性の半数って……随分と大袈裟な数字を出してくるわね」

「冗談ではありませんよ?」


『今回』において、私は容姿を褒められる機会が多い。本邸の使用人達も磨いてくれているし、身に付けるものも流行の物を厳選しているからだと思う。愛人母娘を排除したことによって心労も減り、愛する家族と共に暮らせる日々が私の顔色を良くしているというのもあるだろう。


「そうは思いませんか、サルビアも」

「アルヴァ様の仰る通りにございます。お嬢様の美しさは女神に等しいと思います」

「本物の女神に怒られるわよ」


アルヴァに問い掛けられたサルビアは、凄い勢いで首を振って肯定してくれる。私が知る女神はプルプラ神だけなのだが、あの人知を超えた美貌に比類しているとは思えないので、褒められると何だか居た堪れない。ただ、純粋に褒められるのは嬉しくもあるが、分不相応な気がして恥ずかしくもある。自分の中に根付いてしまった自己肯定感の低さを変えていくことは、なかなか難しい問題であった。


そうして待っていると仕立て屋が来たようで、挨拶を受ける。今回の仕立て屋は是非ともパートナーであるアルヴァの分も一緒に作りたいという逆指名もあったのだ。多分、絶世の美男子であるアルヴァは格好の広告塔となることを見越してだろう。きっと私はアルヴァのおまけに過ぎない。


サルビアや他の使用人達が仕立て屋達と共に準備を始め、やや距離を置いたタイミングでアルヴァが声を掛けてきた。


「美しいとの賛辞を素直に喜べないでいるセレスティーナの姿が、少し痛々しくも感じますよ」

「仕方ないもの。【修正者】は記憶を引き継ぐの。辛かった『前回』を簡単に忘れることなんて出来ないわ」

「そう、ですね」


私の答えに対して、自分が元凶であるのにアルヴァは悲し気な顔をした。目の前のこの男は全部お見通しで、面白がって何回も人の生を繰り返させていると分かっているのに、何だか責めにくい気持ちにさせられる。これもまた計算通りなのだろうか。


「『今回』は失敗しないようにしましょうね」

「99回も失敗する前に改心しなさいよね、全く」

「フフッ。違いありません」


悲し気な表情が、私の軽口によってパっと表情が明るいものに変わって、少し安心してしまう。騙されている、良いように使われていると分かっているのに、自分のお人好し具合がたまに嫌になる。



それから衣装制作が仮縫いを終え、本縫いに移った頃に吉報が届きだした。


「エスメラルダ侯爵家の令息が、娼婦に騙されて一切の資金を失ったですって!!」

「はい。借金もしたようですが、それら全てを持ち逃げたようです」


他にもラピス伯爵家の嫡男が、実技は得意でも座学が苦手過ぎて落第点を取りまくっている話やダブグレー男爵家の息子がコミュニケーション能力の不足により軋轢を生んでいることなどが報告に上がって来たのだった。

思った以上に無能な男達だったようだ。揃ってグリフィス殿下の側近をしている辺り、奴らの尻ぬぐいまでサイアン公爵家に押し付ける気だったのだろうか。


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