排除
そうやって二人三脚でやって来たわけだが、妨害が無いわけではなかった。
グリフィス殿下も私達の婚約を知っているだろうに、王宮で二人きりでお茶会をしようだとか、観劇の誘いが度々あるのだ。その都度断っているのだけれど、ただでさえ最悪な気分だと言うのに、更に『何故?どうして?せっかく王族である自分が声を掛けてやっているというのに?』という上から目線の手紙を送って来るから面倒で嫌だ。
かと言って機嫌を取ってやるのは絶対に嫌だ。そうして王家と波風を極力立てないようにと私が悩んでいる間に、適当な便箋を用意したアルヴァが『他の殿方に近づきますと、愛する婚約者が悋気を起こしてしまいますので』と、私の筆跡を真似て返信していたのだった。
恋に浮かれた馬鹿女みたいな手紙を私が書いたことにされたことにも憤慨したが、グリフィス殿下が返信を見た場所というのが問題だった。殿下は私に断られるなんて思っていなかったであろう。王妃や自分の取り巻きが集まる場で、従者に手紙を読ませたのだった。読み進めていく内に従者の顔は蒼褪め、聞いていた取り巻き達も口を噤むという、居た堪れない朗読会の誕生である。
既に私とアルヴァは相思相愛なことは周知の事実。その場にはサイアン公爵が刺された時もアルヴァが私を守ろうとしていた姿を見た者もいただろう。グリフィス殿下の手紙はそんな二人を裂こうとする横槍に他ならない。しかも相手は本物の王子よりも王子様然としたアルヴァ・ラクテオルスである。実家は伯爵位ではあるが、補って余りある容姿と愛情深さ(演技)に同年代の令嬢からの人気は絶大だ。
「巷ではお嬢様がアルヴァ様に夢中だと噂のようですね」
アルヴァが帰った後、情報を収集しているリヴァーが報告の他に噂話まで拾ってきた。よくよく話を聞くと、殿下の手紙のせいで私達の関係は拡散され、貴族から商人へ、商人を通じて平民達にまで噂が回るようになってしまったのだとか。
「頭が痛い……」
「お二人の仲がよろしいのは事実ですが、世間が思うような甘い恋人同士ではありませんよね」
実情を知る人間として、噂とはかけ離れた現実に苦笑するリヴァー。同じようにお友達から噂を聞いた母やジニアからも、生暖かい目で見られている。
「私達はあくまでも王家の介入を阻止する為の婚約よ。惚れた腫れたの話じゃないんだから」
「存じておりますよ」
「嘘じゃないわよ!」
私がアルヴァに心底惚れこんでいるなんて、絶対に誤解されたくないから重ねて言う。否定しているのに我が家の女性陣には照れ隠しだと思われているのが本当に納得がいない。
「それよりも首尾はどう?」
考えるだけでも面倒な気がしてきたので、とりあえず私は問題を先延ばしにすることにし、手近な問題から片づけることにしたのだった。
「順調なようです。近々、三人はそれぞれの国へ向かう予定です」
三人とは、エスメラルダ侯爵家の次男とラピス伯爵の嫡男とダブグレー男爵家令息である。『前回』はグリフィス殿下の側近であったが、『今回』は取るに足らない大衆の一人に過ぎない。何故かというと、あのガーデンパーティーにおいてサイアン公爵家が不利になるような状況を招いたと判断されたからだ。
エスメラルダ侯爵家の次男がマシコット子爵だと言わなければ、知らぬ存ぜぬを貫き通し、何事もなく終わったかもしれない。ラピス伯爵家嫡男がフラビアに同情などしなければ、父親がサイアン公爵派に睨まれることなく騎士団長になれたかもしれない。ダブグレー男爵令息も当事者が必要だと呼びに公爵を呼びに行ったことは良く判断力は良かったが、結果として公爵は刺されてしまった。
つまり何が言いたいかというと、彼らがこのままコロル王国にいて、私が立てた計画を邪魔するような真似をしたらと思うと耐えがたいのだ。だから上手く人を転がして、彼らお邪魔虫を私やニウェウス神の管轄から放り出してしまおうと考えたのだ。
「『前回』は本当に浅はかで考え足らずだったから、留学した先で一生懸命お勉強してきて欲しいわね」
彼らが応援した、グリフィス殿下とフラビアの真実の愛に一体どんな価値があったというのだろうか。
フラビアは平民だから公爵家の継承権はない。結ばれたところで爵位は得られず、持参金だって用意できない。貴族の結婚は政の一つだ。持参金も公爵が自腹を切っている訳ではなく、民から集めた税金から毎年予算を組み、積み立てているのだ。つまり『セレスティーナ・サイアンの婿の為の持参金』であって、私が死なず、婚約も解消されたなら、その持参金は新たな婿の為に使われて、彼らには一切手に入らない金なのである。
王にもなれない、独立した家を興すことも出来ない無能な第二王子に、精々妾の地位しか得られない女を祭り上げて、国内でも有数の影響力を持つ公爵家とその家臣達を敵に回し、一体何の得があるのだろうか。利益を顧みないことは美徳のようにも見えるが、領主として民を守る立場にある人間としては軽率が過ぎる。
「ちょっと可愛い子に頼られたくらいで、鼻の下が伸びちゃうなんて情けないから、女に騙されてお金を巻き上げられた挙げ句に、プライドをズタボロにされるなんて中々良いアイディアだと思わない?」
「セレスティーナ様は、お人好しな割に、意外とえげつないことを仰いますね」
「そうかしら?」
「そうですよ」




