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婚約者

私はニウェウス神に多大なる不審を抱えたまま、寄子貴族達の評議によって私とアルヴァは、めでたく?婚約の運びとなった。婚約中の男女が同じ屋根の下で暮らすと言うのは外聞が悪く、婚約が決まるのと同時にアルヴァはプルシャン侯爵家に移ったのだった。


そうしてサイアン公爵殺人未遂事件から、三年の月日が過ぎ去った。私とアルヴァ、そしてグリフィス殿下は15歳になり、次の春が来ればデビュタントを経て、正式に社交界にデビューすることになる。


サイアン公爵家の跡継ぎであるリートゥスも、幸いなことに未だ呪いが発現した様子もなく、賢く元気に暮らしている。母や使用人達も彼の成長を日々温かく見守り、公爵家には活気が溢れていた。


公爵領に半ば閉じ込められているサイアン公爵もまた、一応は元気であるらしい。臣下によって権限を全て取り上げられ、屋敷の中で軟禁されている状態ではあったが、不満を言うこともなく静かに暮らしているとか。贅沢を好み、女色に溺れていた今までが嘘のようだ。かつての愛人に殺されそうになったことで憑き物でも落ちたのだろうか。


「感傷に浸っているところ申し訳ありませんが、こちらの書類が間違っておりますよ」


別の家に住んでいるはずのアルヴァの声が頭上から降って来る。そうしてニコニコと微笑みながら、記入ミスや記載漏れの書類を私の机の上に積み上げていった。侯爵の屋敷で暮らしているにも関わらずアルヴァは毎日サイアン公爵邸にやって来ていた。


「私にばかりやらせていないで、手伝いなさいよ」

「おや。私はあくまで貴女の婚約者であって、書類仕事を手伝う義務はないのですが……貴女がどうしてもと頼むというのなら、吝かではありませんよ」

「……くッ」


とてつもなく悔しい。

公爵が隠居し、領地からプルシャン侯爵の部下を代理人として立てることは決定事項だったのだが、侯爵は私が既に公爵家の教育を修了済みだと知ると、私にも公爵家の仕事を振って来たのだった。


『使えるものは猫の手まで使うのが私の信条ですから』


それ以来、埋もれるほど多くはないが、勉強の合間にそれなりの量の仕事をしなければならなくなってしまったのである。『前回』での勉強が無駄にならなくて良かったものの、もっとゆとりある生活を送りたいと気持ちもあって、少し複雑でもある。


「冗談ですよ、愛しい人。そちらの書類についての資料をまとめて参りました。貴女が御覧になっている間に、こちらの修正をしておきましょう」


手伝いをお願いすればアルヴァは手伝ってくれるのだけれど、黙って手伝ってくれれば良いのに、一度は先程のような茶々を入れてくるから、腹が立つというかイラっとしてしまう。

まとめられた資料を確認すれば、丁寧な字できちんと見やすい報告書が記載されている。すわ神の御業かと思いきや、一からせっせと地道に資料を集めてやっているらしい。実際に仕事をしている様子を見たことがあるけれど、本当に普通だった。いや、普通というか真っ当な方法というべきか。


そういったアルヴァの仕事に対して真摯に向き合う姿もまた、母を始めとしたサイアン公爵家を筆頭に、寄子達のアルヴァに対する評価は高い。利害関係の一致で、いざとなったらアルヴァという存在を消去する時に、婚約の事実まで消去してもらうしかないほどに、外堀を埋められているような気がしてならない。


そんなことを考えていると、アルヴァはつまらなさそうに溜息を吐いた。


「どうしたのよ?」

「最近の貴女ときたら、私が『愛しい人』と呼んでも、反応の一つもしやしない。すっかりスレてしまって、面白みに欠けますね」

「失礼なことばっかり言って!貴方の軽口に、今更いちいち動揺なんかしてられやしないのよ!」


まだ正式なデビューはしていないが、私は昼の茶会を中心に他家から声が掛かることが増えた。もちろん私のパートナーはアルヴァで、アルヴァはそれはそれは彼の力を存分に発揮したエスコートを見せてくれるのだ。そんなものを三年間も繰り返されれば、免疫が出来て当然である。


アルヴァは私よりも頭一つ分も背が高いというのに、常に私の歩幅に合わせ、手を引いて歩く。とろけるような笑みを浮かべ、甲斐甲斐しく私の世話を焼こうとする姿を見て、私と同年代の令嬢達がとても羨ましがるのである。そんな彼女達にも慎ましくはにかんで見せるのだから、もう茶会の主役は誰であろうとアルヴァに成り代わってしまう。けれども卒の無いアルヴァは、勿論主役の御機嫌取りも忘れないので、引く手数多のゲストなのだ。


社交界にデビューしていなくとも私達の婚約は社交界では常識となってしまっていた。王家が介入しようとすれば、相思相愛の二人の仲を裂いたという醜聞で、ますます王家の求心力は下がっていくに違いない。まぁ、元々あるかはさておき。

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