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プルシャン侯爵 02

フラビアは私にとって本当に嫌な女だった。自分は誰からも愛されていると思い、人を傷つけたところで気に病むことはない。思ったままに誰かを嘲り、思ったままに甘え、媚びを売る。何より好きなのが、私を見下して蔑むことだったように思う。馬鹿げた会話に付き合うことも嫌で、もう一生会うことはないのだと考えると本当に清々しかった。惜しむらくは、私の手で復讐することだったのだが、きっとこの結末を導くことは私には難しいだろう。


ふと、顔を上げると、プルシャン侯爵がジッと私の顔を見ていることに気づいた。少し気まずい。人の不幸を嗤う醜い内面を見透かされたようで、居た堪れない気持ちになる。誤魔化さなければいけないのに、上手い言葉が浮かばない。馬鹿正直な自身を呪ってやりたいくらい焦ってしまう。


「セレスティーナ様」

「は、はい……」

「本日私が参りましたのは、この度の顛末について話す以外に、貴女様にお尋ねしたいことがあるからにございます」

「私に尋ねたいこと?」


何だろうか。『今回』、私は後ろめたいことをかなり行っているから、どれかは分からない。


母を殺そうとする王妃の手先・プラムを罠に掛け、男に貢がせて借金をさせた挙げ句に、冤罪を掛けて警吏に引き渡した。フラビアとその母親をサイアン公爵家から追い出す為に、無垢なる少女を金で囲い込み、娼婦を金で買い、愛人に仕立て上げ、実の父親にけしかけ、愛されるかどうか分からない子供を生み出した。王族に対しての不敬な気持ちは毎日考えているし、神(ニウェウス神限定)を馬鹿にすることもある。


考えれば考えるほど、私という人間は、貴族として不適格だと自覚せざるを得ない。どれが暴かれたとしても、説教だけでは済まされないだろう。良い子だと思ってくれている母や本邸の使用人達には教えてないで欲しい。


ところが、プルシャン侯爵は予想もつかないことを言い出したのだ。



「セレスティーナ様。貴女が今代の【修正者】でいらっしゃるのでしょうか?」



思いもよらない人物から、思いもよらない言葉が出てきて、驚きを隠せない。


「え?どうして……」


どうしてプルシャン侯爵は【修正者】という存在を知っているのだろうか。かつて【修正者】であっても、再び【修正者】に選ばれない限り、記憶の保持は出来ないようなことをニウェウス神は言っていたと思うのに。


「随分と驚かれていらっしゃるようですが、何かおかしなことでもありましたか?」


私が余りに驚き過ぎてしまったせいなのか、逆にプルシャン侯爵を戸惑わせてしまったらしい。


「いえ、違うの。どうして【修正者】ではない侯爵が、【修正者】という存在を知っているのか分からなくて……」


前任者であるグリフィス殿下や王妃は、多分きっと『前回』より前を覚えていない。覚えていたのなら、ニウェウス神から神勅を受けているはずだから、瓜二つの顔を持つアルヴァを見て、何らかの反応を示したはずだ。だけど彼らはその顔の造形について驚くことはあっても、神に対する畏敬は全くなかったように思う。


「そのことでしたか。いえ、私自身は恐らく【修正者】であったことは無いと思うのですが、以前の【修正者】のお手伝いをさせていただいたことがございます」

「以前の【修正者】?」

「はい。セレスティーナ様の大叔母君であらせられます、亡き王太后ロゼリア様が【修正者】の任を負っておられました」


王太后ロゼリアは、先王の正室であり、私の祖父の妹である。幼い頃は別に婚約者がいたらしいのだが、当時の王太子であった先王に求められ、王室に嫁いだのだとか。けれども、なかなか子供が出来ず、先王は男爵家の娘を召し上げ、その娘との間に産まれたのが現国王ロイということになる。王太后は私が産まれる前に亡くなったはずだ。


「この歴史修正は、グリフィス殿下とフラビアが起こす事件によってコロル王国が滅亡するのを阻止する為だと聞いているの。でも王太后様は私達が産まれる前に亡くなっているから、【修正者】になるのは不可能じゃないの?」


思った疑問をそのまま口にすると、プルシャン侯爵は少し何かを考えてから答えてくれる。


「それはセレスティーナ様が受けた任でございましょう。ロゼリア様がお受けになった修正は、『パグールスからの侵略を阻止せよ』という神勅でした」


パグールスはコロル王国の周辺にある国だが、海を隔てている為、心理的には近隣国とは言い難い。


「パグールスからの侵略なんて聞いたことが無いわ……」

「そうでしょうとも。それらは全てロゼリア様が、やり直す前の記憶を頼りに、無事に修正を成功させましたので」


侯爵の説明によれば、当時の王太子(先王)の結婚相手としてパグールスの王女が候補に挙がったのだが、その際に王太子が王女を手籠めにして揉めに揉めた上で、婚約・婚姻に至ったのだが、関税や移民など、パグールス側が有利になるような条件をつけられ、コロル王国は衰退していったのだとか。下半身の緩さでニウェウス神が消滅したとなると、『ご愁傷さまです』なんて言えるはずもかった。


「どこかで聞いた話だわ……」

「まさかクランシー王子がそのようなことを?」

「いいえ。詳しくは知らないけど、グリフィス王子が同じようなことをやって、滅ぼされたらしいわ」


そう言えば、プルシャン侯爵は苦虫を噛み潰したような顔をしてみせた。元々の王族嫌いに拍車をかけてしまったかもしれない。先王の非常識さが、まさか孫にまで遺伝しているとは思わなかった。


「王太子とパグールスの王女が婚約するのを妨げる為に、ロゼリア様は元々の婚約者との婚約を解消し、王家に嫁ぐことを決めたのです。その時、私はロゼリア様が王家存続を願うのであれば、未来永劫、そのお手伝いをしようと今日まで生きてきました」


大切な人との未来を捨ててまで、王家を存続させようとした王太后の生き方を聞かされ、背筋に冷たいものが走ったように感じたのだった。

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