ガーデンパーティー 01
結局、私はパステルブルーのドレスを作った。緻密な刺繍が施された上半身に対し、パニエでふんわりと広がらせたスカートの裾を飾る花のレースが愛らしい。私にとってのドレスは王家の色である赤いドレスだ。いつもグリフィス殿下に合わせていたから、青色のドレスは新鮮だった。
赤色のドレスは好きじゃない。それを着る羽目になったグリフィス殿下は私に対して冷たく辛く当たって来たし、何よりも赤色は私を私以上に気の強い女に見せるように仕立て上げるのだ。美しいドレスでも、どうしてか私が着ると我儘で高慢ちきな印象を与えるのだ。私はそのように振る舞ったことなど一度も無いのに。それでも王族の婚約者として赤色を纏うことを強要された。けれども、『今回』は違うと思うと一気に気持ちが楽になる。
「よくお似合いですよ。セレスティーナ」
「貴方も素敵よ、アルヴァ」
にっこり笑って私達はお互いの姿を褒め称えた。
アルヴァは無難にシルバーグレイのスーツを仕立てたらしい。無難なデザインだけれど、人外の美貌を持つ彼が着ると、とても素晴らしいのように見えるから不思議だ。本当に顔だけは良い。しかし、胸ポケットのポケットチーフは私のドレスと同色のパステルブルーなのは何故なのか。私達は婚約関係でもないのに、まるでパートナーであるかのように匂わせるのは問題ないのだろうか。
「虫除けにはピッタリでしょう?」
こっそりと私にだけ聞こえるようにアルヴァは耳元で囁く。確かにサイアン公爵家に跡取りは生まれたものの、私との婚姻で公爵家に繋がりたいという者はいるはずだ。私の未来設計は真っ白なままだが、一応は『歴史修正』の任についている以上、余計な縁談は避けた方が良いだろう。
そしてサイアン公爵に連れられ、私とアルヴァは同じ馬車に乗って、王宮へと出かけたのだった。ちなみに母は少し風邪気味だったので大事を取って欠席だ。アルヴァの両親であるラクテオルス伯爵夫妻もまた領地にいる為に欠席だ。私もあの愚か者共に会いたくないので、ちょっと羨ましい。
パーティー会場である王宮は、相変わらず荘厳であり、眩いばかりに高雅であった。唾棄すべき主人達の行いなど、まるでなかったかのように静かだ。
私とアルヴァが招かれたのは第二王子グリフィス殿下の12歳の誕生日パーティーだ。本人は勿論、同年の子女もデビュタントも済ませていないので正式な舞踏会を開けない。そうであるから、昼間のガーデンパーティーを開くのだ。『前回』は既に私はグリフィス殿下と婚約していたので、御披露目に近いものであった。今回は新たな婚約者探しと、側近の選定になるのだろう。
「セレスティーナ、あの奥に見えるのは最近輸入されたと言うココアというものではありませんか?」
「本当ね。クロプスクロではスパイスの代わりに砂糖を入れて飲むのが流行っていると聞いているけど……」
「良い匂いがします。楽しみですね」
本当に子供のように無邪気に笑うから、何だか肩の力も抜けてしまう。そんなアルヴァと一緒にいたせいで、すっかりリラックスしてしまっていた私に、予想外のことが降りかかったのだった。
貴族達の挨拶を受けるべく、上座に待機した国王陛下、王妃殿下、グリフィス殿下と第一王子のクランシー殿下に拝謁の挨拶を行った時だ。王族を誇示するかのように四人は赤い衣装を身にまとっている。まず父であるサイアン公爵が挨拶をし、娘である私と世話をしているアルヴァを紹介した。
「ウェルテクス・サイアン公爵の第一子、セレスティーナ・サイアンにございます。お目に掛かかれて光栄です」
「クラウド・ラクテオルス伯爵の第一子、アルヴァ・ラクテオルスにございます。お会い出来て光栄です」
私とアルヴァの礼は、完璧だったように思う。猫どころか獅子を被っている私達は、にこやかな顔を王族達に向けた。その時、王妃の顔が強張ったのを私は見逃さなかった。きっとアルヴァを次の婚約者だと勘違いして、サイアン公爵家に婿入りが出来なくなった事実を目の当たりにして悔しいのであろう。サイアン公爵家をメチャクチャにした連中が口惜しがっている姿を見るのは、正直に言ってかなり気分が良い。
さっさと下がって、美味しい食事でも楽しもうとしたその時、
「私の婚約者にも関わらず、今から浮気か?公爵令嬢の癖に、とんでもないはしたない女のようだなッ!!」
と、グリフィス殿下が叫んだのだ。グリフィス殿下は椅子から立ち上がり、指を差して声高に叫んだものだから、パーティー会場の誰もが私達に注目したのだった。
「第一、何だその青色のドレスは!私の婚約者であるというのなら、赤色のドレスを纏うか、私の色が入ったものを使うべきだろう!!」
グリフィス殿下の髪は赤銅色で、緑色の目をしている。今日の私はどの色も纏っていないのだが、別に婚約者でもないのだから問題は無いはずだ。何をどうして私を自分の婚約者だと勘違いしているのか分からない。
「な、何を言い出すんだ!グリフィスよ」
一応は止める言葉を国王がかけているが、息子さえ御せているとは思えない。きっと王妃の悪行も知らないのだろう。『前回』も思ったが、現在の王族は国の長として機能しているとは到底思えない。アルヴァには悪いが、修正に成功したところで同じことを繰り返すだけのような気がする。
さて、どう返事をしたものか。強気に言い返してやっても良いが、集まった貴族達には『前回』のように『驕り高ぶった鼻持ちならない女』というイメージはついていないのだから、わざわざ悪いイメージを植え付ける必要は無いだろう。
「お父様……私と第二王子殿下の婚約の御話は無くなったのではありませんの?」
寝耳に水と言わんばかりに動揺したように見せながら、サイアン公爵に話を振る。サイアン公爵も愛しのクロリスが産んだリートゥスを目に入れても痛くないとばかりに溺愛しているのだ。自身の血を分けた息子が当主になるのを邪魔をする者に対して、サイアン公爵は拒否感を持っている。そしてサイアン公爵派の総意としても、私と結婚したグリフィス殿下に継がせるよりも、リートゥスを立派な跡継ぎに育てることを望んでいた。
「グリフィス殿下。その御話は、我がサイアン公爵家はお断りしたはずです」
「は?聞いていないぞ」
「我が公爵家に跡継ぎが産まれましたので、殿下をお迎えすることが出来なくなったという旨を国王陛下にお話し、無かったことになったはずにございます」
頭の出来がよろしくない殿下にも分かりやすく、かつ明確に拒絶したという事実を周囲にも聞こえるように伝えている。愚かで馬鹿な男だが、使えないというわけではないらしい。
ここで引き下がれば良いものを、サイアン公爵よりも愚かなグリフィス殿下は勝ち誇った顔をして言ったのだ。
「それならば問題は無いだろう。所詮は愛人が産んだ息子なのだから廃嫡して、私を迎えよ」
思わず私はアルヴァを見た。アルヴァは諦念した顔をして首を振る。
とんでもない『バケモノ』を王家は生み出してしまったらしい。
ストックが無くなってしまったので、明日以降はAM6時の更新一回となります。
不甲斐なくてすみません。




