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幕間 ― 裏切りの代償 01 ―

私の名はグリフィス・カーマイン、コロル王国ロイ王の第二王子だ。

昨日、私は母である王妃の前で、自らの婚約者であるセレスティーナ・サイアン公爵令嬢を糾弾した。義妹であるフラビア・サイアンに対する数々の虐待は、あまりにも目に余ったのだ。私の妃となるべき教育を受けたにも関わらず、そのように非道な人間であることも許せなかったし、何よりも冷たく性格の悪い女と添い遂げることなど出来るはずもない。


そう訴えたのにも関わらず、私とフラビア、側近達は別々の部屋に軟禁され、セレスティーナだけが家に帰されるという意味の分からない措置をされてしまった。母だけでなく父もまた、あの悪女に騙されているのだ。どうすれば父らを納得できるだろうかと考えていると一夜が明けた。


朝の支度をして、謁見室に向かうように指示される。父と母が改めて話を聞きたいということだった。

謁見室には私の他に、フラビアと父親のサイアン公爵と、側近達とその父親達、そしてコロル王国の重鎮達が待っていた。


「グリフィス様!」

「フラビア!」


近くには兵士がいて、近づくことは出来ない。か弱い彼女が一夜でも軟禁されたという事実が許せない。けれども健気な彼女は目元を赤くしながらも、私を慕わしそうに見つめてくれる。それが一層、彼女の愛情を感じられて、いじましく嬉しいと思ってしまうのだ。


「この度の茶番は一体どういうことですか?陛下、サイアン公爵」


まず口火を切ったのはプルシャン侯爵だった。サイアン公爵一門の人間だが、影響力はサイアン公爵以上にあるらしい。コロル王国のフィクサーとも言える人物だ。ジロリと彼の昏い目でねめつけられると、蛇に睨まれた蛙のように体が動かなくなった。


「茶番などと……言葉が過ぎるぞ、プルシャン侯爵!!」


サイアン公爵が抗弁しようとするが、怯む様子もない。


「それでは一体どのように深い事情があるのでしょうか?そして恐れ多くも第二王子殿下の名を呼んだ娘について、我々にもご説明願えますでしょうか?」

「……娘のフラビアだ。お前達も知っているだろう」

「存じております。教会の許しも得ず、本邸に入り込んだ泥棒猫の娘ですね」

「侯爵ッ!!」

「酷いッ!!!」

「プルシャン侯爵。フラビアは私の恋人だ。謂われのない誹りを私は許さない」


そう言って私は庇ったが、プルシャン侯爵は全く動じることはない。むしろそれを鼻で笑う余裕さえ感じることが出来る。


「謂われのない誹り――とは、穏やかではありませんね。私は事実を述べたまでです」


国王よりも堂々とした姿に、プルシャン侯爵の側についた貴族達もまた怯む様子はない。


「して、第二王子殿下におかれましては、婚約者であるセレスティーナ姫ではなく、その娘を恋人とは一体何があったのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「セレスティーナとの婚約は破棄した。新たにフラビアと婚約する許可を公爵からは得ている。あとは陛下の許しを得れば、晴れて私達は……」

「おぉ!それはそれは、殿下は大変な御決断をなされたのですね」

「プルシャン侯爵……」


まるで頭痛を堪えているかのような顔で父がプルシャン侯爵を黙らせる為に呼びかけるが、侯爵は意に介した様子もなく続ける。


「王族が平民になるなど前代未聞の椿事ですな。これまで殿下に関わった教師や使用人達は解雇し、王族の教育方針について今一度見直すことを提案させていただきます」

「王族が平民になる……だと?」

「はい。セレスティーナ姫と婚姻せず、その娘を娶るのならば必然でしょう」


私は十歳の時にセレスティーナと婚約し、成人した暁には臣籍降下してサイアン公爵家に婿入りすることが決まっていた。そしてゆくゆくは私が公爵になるのだ。


「そんな馬鹿な話があるか!!私が公爵家に婿入りし、爵位を継ぐことは婚約が成立した時に決まった話ではないかッ!!」

「それはセレスティーナ姫の婿となれば叶えられた話です」

「フラビアも公爵の娘だ!花嫁を挿げ替えたくらいでは、問題は無いはずだ!!」

「いいえ。サイアン公爵家の正式な跡継ぎはセレスティーナ・サイアン公爵令嬢御一人でございます。彼の姫を蔑ろにするとは、まさか王家は名門サイアン公爵家を乗っ取りを企むおつもりですかな?」


プルシャン侯爵は私ではなく、父や母を鋭い視線で見つめた。


「ち、違う!私達も昨日知ったばかりなのだ」

「そ、そうですわ!まさかグリフィスが婚約破棄などと言い出すなんて!!」


酷く取り乱した様子の父達。そのような気概の無い姿を晒すからこそ、貴族達に舐められると言うのに!!頼りない両親を止めようとしたかったが、私もまたこの言いようのない重い空気の中で息も出来ないほど緊張し、口を開くことさえままならなくなっていた。


「殿下。サイアン公爵やその娘が、年若い殿下に何を吹き込んだのかは、我々には容易に想像が出来ます」


プルシャン侯爵は穏やかな口調を崩さないというのに、底冷えするような恐ろしさが、背筋を寒くさせる。


「例えば、セレスティーナ姫は継母と義妹を無視し、公爵とは口も利かない我が儘な娘だとか」

「……そうだ。セレスティーナはフラビアを無視していた。フラビアは15歳になるというのにデビュタントもせず、茶会にすら呼ばれないのは、セレスティーナが邪魔をしていたからだろう!!」


デビュタントとは毎年春の最初に、王宮主催の舞踏会で行われる公式行事である。その年に15歳になる貴族籍の子女達が着飾り、国王陛下に謁見するのだ。


今年16歳のセレスティーナも、昨年繊細な意匠の白いドレスに、小さいながらも希少な金剛石のティアラを頭に乗せ、公爵令嬢として立派なデビュタントを飾っている。それなのにフラビアはデビュタントも出来ず、社交界にも出て来れない。性格の悪いセレスティーナが邪魔をしているのだと私は考えたのだった。


「デビュタントとは親が子の支度をするものです。いくらセレスティーナ姫が邪魔をしたからといって、公爵と娘の母親が滞りなく準備すれば良いではないですか?」

「それは……」


確かに侯爵の言う通りだ。むしろサイアン公爵が父親の威厳でセレスティーナを黙らせ、フラビアの支度をすれば良かったのではないか。そう思って私が公爵に視線をやれば、公爵はビクリと体を震わせ、目を伏せた。


「その娘がデビュタントに招待されないのは、セレスティーナ姫のせいではありません」

「ではどうして!?」

「貴族籍に無い者を、どうして王宮の人間が呼ぶことが出来るのでしょうか?」

「貴族籍に無い!?フラビアは公爵家の人間だろう!?」


侯爵の言葉の意味が分からず問いかけたが、侯爵は薄く微笑んだまま答えない。

だが、毎年更新される貴族名鑑にフラビアの名前はあっただろうかと考える。それが表情に表れていたのだろう。公爵は次の一手であり、致命的な一手を繰り出してきた。


「この娘の母親は平民ですよ」

「平民だとッ!?」


今度こそ信じられず、フラビアと公爵を見つめて叫んでいた。

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