第5話:大嫌い
「おはよう。馨ちゃん!」
金曜日の午前6時半、風灘の鋭い獅子の校章を輝かせながら、ファイはバス停で待っていた。
「お…前、よく…」
馨はファイの周りに輝くオーラを避けるかのように、1メートル程離れた地点で固まっていた。
勝ち誇ったようにファイは言った。
「ふふん。僕を誰だと思っているんだい?僕はいつも黙って馨ちゃんの帰りのバスを待っていたわけじゃない。僕なりに馨ちゃんがどこで降りるかを推理してね、毎日試していたのさ、そうしてようやく…」
馨の不気味なものを見るような青い顔を目の当たりにして、ようやくファイは言葉を止めた。そして腰に手をあてて得意げに言った。
「ふふふ。愛の大きさに驚いた?」
「あほか――!気持ち悪いわ――!」
馨の持っていたお弁当バックはファイの頭を直撃した。こんなのが「清流に吹く風の君」でいいのか。
「ん。これ、ポッチの景品じゃん。当たったの?」
ファイは馨のお弁当バックを見て言った。それは新発売したチョコレート菓子の抽選プレゼントの景品だった。ひよこに似たキャラクターが人気らしい。
「そうや!可愛いいやろう?これを当てるためにどれだけポッチを食べたことか…」
馨は少し自慢気に言った。
「馨ちゃん、これが好きなの?」
ファイは馨にお弁当バックを手渡して言った。
「すっ、好きや。悪いか?」
自分には似合わないと言われているようで、馨は急に恥ずかしくなった。
へえ、とファイは笑った。その様子にむっとしていつものとおり口を開こうとしたその時、ファイが何かを差し出した。
「これ、なーんだ?」
「…な、どうしたんやこれ」
目の前にポッコ(ポッチのキャラクター)の携帯ストラップがぶら下がっていた。
「この前のインタビューでもらったんだ。あげようか?」
思わず前のめりになった馨の前でポッコは宙を描いた後、ファイのポケットにしまわれた。
「タダでとは言わないけどね」
十センチ近く高い目線からファイが馨を見下ろした。
「なんやねん、それ」
馨が視線をそらすとファイがそっと耳打ちした。
「キスと交換でどう?」
馨が頭を上げるとファイがにやりと笑っていた。
馨は大きく息をすった。そして高らかに宣言した。
ビッと真っ直ぐに突き出された指はファイの目の前で止められた。
「ええか?あんたがどこぞのお偉いおぼっちゃんで、有名人であろうともわたしはそそのかされへんで。どうせあんたもおばあちゃんの信者やろ?残念でした!わたしには魔力なんてないねんから」
息をついで馨は続けた。
「それにや。あんたみたいな性格の悪い女こまし、魔力があってもぜーったいに助けたらへんから覚えとき!」
馨はそれだけ言うとそそくさとバスに飛び乗った。