第3話:由木 馨
ファイと別れてバスの車窓から町並みを眺めながら馨はため息をついた。
何故ファイは自分に近づいてくるのだろう。
ファイとのつながりといえば、亡くなった祖母が彼の家庭教師であったことぐらいで、出会ってまだ1週間ちょっとだ。馨は知らなかったが、ファイは雑誌でモデルも引き受けているくらい有名なやつらしい。そんなやつが何故―。でも思い当たる節はあった。
ミス・クレア。
彼女は魔女と呼ばれていた。彼女は苦しんでいる人たちを自らの魔法をもって救っていたらしい。馨はクレアのたくさんいる孫のひとりだった。
祖母が亡くなったのは一ヶ月前だった。そして、どこからかぎつけたのかクレアの孫だというだけで、こうして今日も見知らぬ少女に相談を持ちかけられている。
馨は一週間前、在羽ファイに助けられた。いや、正しくはポッコが助けられた。マクドナルドのハッピーセットのおもちゃに馨がこよなく愛するキャラクターのポッコがついてくるということで、馨は早速ハッピーセットを学校帰りに購入した。5つの種類を全制覇すべく、期待に胸を膨らませておもちゃを右手に歩いていたのだが、ポッコが滑り落ち、道路側へ転がってしまった。
それを助けてくれたのが在羽ファイだった。
馨は、その時助けられたポッコの指人形を握り締めた。
在羽ファイも何か欲しているのだろうか?
相談事があるのだろうか?
わたしには魔力なんかあらへんのになあ、くうちゃん…。
馨は窓から見える月に向かいそっとつぶやいた。