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6.

 城下町に戻った大地達は再び武器屋に訪れていた。

 農地を見て木を切るための道具が必要だと斧を購入するためだ。


「斧ですか」

「ああ、ここに置いていないか?」


 店主は一旦店の中に戻ると斧を持って来た。


「うちで取り扱っている斧ですと、こういった物ですね」


 持って来たのは見事な装飾を施されている戦斧だった。

 しかし今回欲しい斧は戦闘用ではなく農地に生えている木々を伐採する作業用の斧である。

 戦斧でも切れる事には切れるだろうが、刀身が無駄に広く扱いが難しい印象であった。

 そのことを伝えると困ったように色々な斧を見せてくれたが、どれもしっくりこない。


「もっと小さい斧が売っている場所はないか?」

「生活用品は雑貨店ですが、斧は置いているかどうかわかりません。お急ぎでないのなら鍛冶屋に直接発注するのがよろしいのではないでしょうか?」

「鍛冶屋か。分かったありがとう」


 店主に礼を言って大地は武器屋を後にする。


 店の外を出ると時刻は既に夕刻。

 流石に宿を探した方がいいと斧の購入は明日に持ち越しとなった。

 三人に遅くなって悪いと謝って宿探しを手伝ってもらう。


 農地に近く買い出しにも不便のない宿を探すと食事(万能豆)付きで三人部屋銀貨10枚と一人部屋銀貨5枚の部屋の宿をニキータが見つけてきた。

 この国の宿屋一泊の平均が銀貨2枚であることを考えるとなかなかの高級宿だ。

 武器で予想以上に出費しているのだからもっと安い宿に大地はしたかった。

 しかし女性であるニキータに汚い宿は嫌だと言われた事で強く言い出す事が出来ず、一泊銀貨15枚でも残り残高はまだ大銀貨150枚残るからと大地は折れた。


 荷物を部屋に置き、宿の酒場に集合する。

 夕食を取った後、今後の活動について話し合う為だ。

 夕食は当然万能豆だけである。


「今日俺達が訪れた農地はここであっているよな?」


 大地は宿探し中に購入した大雑把な王都周辺の地図を広げた。

 王都は周囲半分以上が煉獄領土と人間領の境に囲まれている場所である。

 王都と一言で言っても王城のある城下町を中心に同等規模の商店街がいくつも周囲を囲んでいて相当広い。

 東京の周りに新宿や銀座があるようなもの、と言った方がしっくりくるだろう。


「はい。この位置で間違いないです」

「地図を見る限りこの先は山に繋がっている。つまり先へ進んでも同じ光景が続くと推察したんだがどうだ?」


 地図の表示を読み解けば農地の周囲の地形が大まか分かる。

 そこに書かれているのは殆んどが森でしかもドンドン山に向かって進んでいる。

 明らかに農地に不向きな地形だった。


 三人は大地の推察を肯定した。


「農地の場所を変えることは出来ないか?」

「ここは国王様が決められた場所ですよ。勝手に変えるのは不味いかと」

「でもこっちの方が立地的に良くない?」

「そちら側はアリサ様が担当されていた筈ですよ」


 どうやらこちらでも委員長の方が優遇されていると知って大地は諦めた。


「取り敢えず明日から邪魔な木々を切っていこうと思う」

「まぁ、それしかありませんね」

「なんか面倒ね」

「で、でもやるしかないですよ」

「それじゃあ明日になったら鍛冶屋に行って斧を購入しに行く」


 鍬を振ったら対象物を土にするようなスキルでもあればよかったが、あるのは成長や品質を促進や作物の種の生成ぐらいのもので身体能力を向上する物すら持っていない。

 斧で木を切るのも元々の体力で頑張らないといけなかった。


「出来ればすぐにでも種を蒔きたい所だけど作物作りは農地が整うまで当分できそうにないな」

「あ、あの作物作りを休んで国は大丈夫なのですか」

「あんな農地を用意したのは国なんだ。すぐに農地として使えないのは分かり切っているんだから考慮ぐらいしているだろ」


 仲間も少なく、農地も荒れているのに委員長と同じ納期を求められてしまったら絶対に間に合わない。

 とにかく今必要なのは木々を切るための斧を購入する事だろう。

 ジョゼフに買い物を任せた所で話は切り上げになった。

 このまま部屋に戻る。

 部屋に戻っても男三人部屋でむさ苦しさしかないのでさっさと寝るに限る。

 寝間着などはないからそのままベッドに横になると必要な物と己の予算を比較する。

 三人には大丈夫と言っていたが、


「……間違いなく足りないよな」


 残りの大銀貨は200枚。

 そのうち宿代(食事込み)で50枚使う予定なので150枚。

 更に農具に含まれていない物資を買っても100枚を切る程度で残らないという事はないだろう。

 しかし今の計算は飽くまで大地だけが使用した場合だ。

 このお金は大地の生活費ではなく農地運営の経営費と見る方が妥当。

 大地は仲間が三人しかいない。

 あの農地を開拓するにはどう考えても三人では人数が少ない。

 ただでさえ護衛がメインな上に一人は女性だ。

 追加人員を探す必要がある。

 そういった農業で出た問題を解決するために本来は使う金だろう。

 そうなると既に半分以上を初日で使ってしまっているのは不味いとしか言えない。

 大銀貨100枚でどうやってやりくりしてこう……。


 大地はそれ以上考えるのをやめた。

 農家は初期ほどお金が掛かるが、作物が作れるようになったら資金が少なくて済むようになる。

 そのことを伝えてどうにか前借をさせてもらえないか交渉するなどしか今は思い浮かばない。

 現状で解決できない問題を起こる前からずっと悩むのは馬鹿らしい。

 明日からの農地開拓をより効率的に行える方法を考えた方が何倍も有効な時間の使い道だ。


 明日からは体力勝負の肉体労働が始まる。

 大地は早く寝て明日に備えようと毛布にくるまった。

 



 翌日、早速鍛冶屋で斧を発注した。

 大銀貨12枚を出費。

 安くもないが高過ぎる訳でもないと言った所だろう。

 ただ受け取りは2日後になってしまうらしく木を切り倒す作業は出来なくなってしまい、代わりに鎌での草取り作業をする事となった。


 作業中の魔物の襲撃は二回。

 一度目は昨日出現したネズブルが5匹。

 今回はジョゼフだけでなくニキータも参戦して討伐した。

 ニキータもなかなかの腕前でネズブルを一刀の元殺していった。

 二度目は蛇の魔物でスネートン。

 ネズブルよりも強く、毒を持っている。

 それでもジョゼフよりも格下なので苦戦せずに討伐していた。


「……今日はこの位で終わりにしよう」


 夕日が沈む前に大地は作業終了をみんなに告げた。


「やっと終わりか」

「暇ばっかりだったわね」

「に、ニキータはもう少し頑張ってもいいんじゃない?」

「嫌よ。汗臭くなるじゃない」


 一日中作業をしてようやく20アールといった所だった。


(刈ったと言っても大雑把に切っただけで根っこは残っているし、やっぱり木が邪魔だよな)


 刈った箇所にはまだ刈ったばかりの残骸が散らばっていてとても綺麗とは言いずらい状態だ。


 それに三人、特にニキータの進行具合が遅い。

 護衛を有るので交代で行っていたと言っても三人で10アールしか刈れていないのだ。

 このペースではここら一帯を刈るだけで何週間と掛かってしまい、木々を切る作業に一向に移れない。

 それに刈った場所もずっと刈った状態のままという訳ではない。

 生きている植物を相手にしているんだ、グダグダしていたらまた生えてくる。


(……やっぱり人員を増やさないとままならないか?)


 街へと戻って来るとまだ街道には人々が行き交っている。

 その中には狼のような外見の人間を乗せて走れそうな大きさをした犬が荷台を引いている姿があった。

 モフモフしていて可愛らしいけど明らかに襲ってきた魔物よりも強そうに見える。


(もののけ〇みたいだな)


 他にも馬や牛も馬車を引いているので犬も同系統の枠組みなのだとすぐに思い浮かんだ。

 そうなるとあの犬も購入する事が可能という事だ。


(あのモフモフの上で寝たら気持ち良さそうだな)


 ジョゼフたちが大地を呼ぶ。

 金欠なのに何を考えているんだろうな、と大地を首を振って犬から視線を外した。



 この日もその後、酒場で明日の予定を話し合いを行った。

 話し合いをした成果はなく、結局明日もこの調子で頑張ろうで終わってしまった。



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