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5.



「……これが俺の与えられた農地か?」


 城門を抜けて案内された場所はとても農地と言える代物ではなかった。

 作物の生えない煉獄領土に農地を作る所から始めないといけないというので草が散乱する荒地ぐらいは覚悟していた大地であったが、実物は予想をはるかに超えていた。

 普通に木が生えている。

 どう見ても支給された農具では斬り倒せない太さの木だ。

 斧か鋸が必要不可欠だろう。

 それに進むのが困難なほど雑草も伸びまくっていて、木を切りに行くのも一苦労しそうだった。

 ズバッと言ってしまえばここは農地などではなくただの森林地帯だ。


「ではダイチ様、俺達は周囲の警戒をしているんで終わったら呼んで下さい」

「え? 手伝ってくれないのか?」

「今日は下見だけって話でしょう」

「手助けが必要になったらその時に呼んで下さい」


 考えてみればまだ自分の能力すらどういうものか把握できていない現状で手伝えと言ったって何をしていいか分からないか。

 ユダのいう様に作業工程が決まってから人手が必要なら助けて欲しいと言った方が効率がいい、と大地はすんなり受け入れた。


「それじゃあ護衛よろしく」


 周囲の警戒を三人に任せて大地は農地に近づいて行った。

 近づくと背丈以上の木だけでなく腰ぐらいの高さのある茂みも生えていて、奥へと進むことも非常に困難な状況であることが分かった。


(これじゃあ作物を育てるまでにかなり準備が必要だな)


 作物を育てる上で必要なのは土地、日光、水。

 土地については最低品質だと国王からのお墨付きをもらっているが、木々が生えているので本当に作物が育たないのか疑問だ。

 これは改めて調べてみるしかないだろう。

 日光は見て分かる様に木々が生い茂っていて全体的に日陰となってしまっている。

 これでは十分に作物に光が当たらないだろう。

 最後に水。

 雨はこの地帯にも降るというが、雨が作物の欲しい時に降ってくれるとは限らない。

 水場が近くにあってくれると嬉しいのだが、ここへ来る途中に川もなければ井戸もなかった。


「取り敢えず土地を調べてみよう」


 問題を上げたらきりがない、と大地は問題を先送りにして取り敢えず調べる事を進めるべくスキルを使用する。


「『農業鑑定』」



 土

 品質:劣悪


 木々が育っているのに作物が育たないのは可笑しいのではないのかと品質を疑っていたが、煉獄領土の土の状態は劣悪という評価であった。

 品質評価は上から優良、良、可、不可、悪、劣悪という順番だ。

 可以上の評価であれば作物を育てる上で問題がない品質と言える。不可は病気や形の悪い物が出来たり、育たない作物がある。悪は殆んどの作物が育たない状態で、劣悪に至っては何も育たない。

 煉獄領土は作物が育たないという国王の言葉は間違っていなかったという事だ。


「木は育っているのに不思議だよな」


 このままでは作物が育たないのが確認できると早速大地は農家の力を試す事にした。

 手を地面に当ててスキルを発動後、もう一度鑑定を行った。

 すると、


 土

 品質:劣悪→悪


 先程よりも品質が1ランク上がっていた。

 このスキルが煉獄領土でも作物を育てられるようになる職業農家だけが持つ特別な力。


 ハイアー 品質向上スキル。


「農家としてのレベルが上がればスキルの効力も上がると書いてあったな」


 これがレベル2になれば不可まで上がるのか、それとも何回か上げないといけないかは今後の経過を見て行くしかない。

 しかし現状はスキルを使っても品質は悪。

 碌に作物が育たない品質だ。

 それにこの農地自体も作物を育てる環境にしないと種を植える事さえできない。


「勇者様、魔物が出ました」 


 周囲を警戒していたジョゼフが声を上げた。

 大地はすぐに立ち上がると青い色をしたネズミの姿が見えた。


「ユダ、あれが魔物か?」

「はい。あれはネズブルと呼ばれる魔物です。とても弱いですが、魔物である事には変わりませんので近づかないで下さい」


 ネズブルという名の魔物は姿に似合わない獰猛な声と敵意剥き出しといった凶悪な目つきでジョゼフに襲い掛かった。


 ズバッ


 ジョゼフの一閃でネズブルの胴体が引き裂かれた。


「凄い、一撃かよ」

「ジョゼフさんは重戦士Lv32です。下級の魔物が相手ならあれぐらい普通ですよ」


 ネズブルはLv1の勇者でも余裕で倒せるほど弱い魔物らしい。

 ジョゼフは大剣を納めるとネズブルの死骸を拾った。


「ジョゼフは何をしているんだ?」

「魔物は街の素材屋か冒険者ギルドに持って行くと買い取ってくれるので素材を取っているんですよ」

「へえ~、売れるのか」

「売れると言っても2匹でようやく銅貨1枚にしかならないから生活費には雀の涙程度よ」


 ジョゼフがネズブルと対峙している間ずっと周囲の警戒をしていたニキータが戻ってきた。

 今回は1匹しか出なかったが、ネズブルは集団で活動する事が多い魔物なんだそうだ。

 ニキータは伏兵を警戒していたようだ。


 魔物の数が少ないに越した事はない。

 ないのだが、ユダやニキータの実力も見ておきたかったという気持ちもあり、もう1、2匹出てきても良かったと大地は思ってしまった。

 その考えは不味いと首を振ってジョゼフの方に近寄って行った。


「ジョゼフ、そのネズブル見せてくれない?」

「はい、構いませんよ」


 ジョゼフはネズブルの残骸を大地の方に向ける。

 大地は向けられたネズブルに対して農業鑑定を行ってみた。


 ネズブルの皮という表示の後、何の魔物のどのような素材なのかの概要が表示された。

 表示を読んでいくと最後に? ? ? の素材という文章が出てきた。

 ? ? ? は大地が知らないからか、それともLvが足りないからなのか分からないが、とにかく何かを作る為の必要な材料だという事が分かった。


 大地はジョゼフにネズブルの皮を譲ってくれないか聞いてみた。


「これが必要なのですか?」

「うん。鑑定でこれが素材になるって出てるんだ」

「そう言う事でしたら大した素材でもありませんので構いませんよ」


 ジョゼフの了承を得られたのでネズブルの皮を貰った。


「下見が終わったなら今日は終了でしょ。早く帰っていい宿を探しましょうよ」

「そ、そうですね。日が暮れる前に帰った方がいいと思います」

「うーん、もう少し見て行きたいんだけど……初日から飛ばしても仕方ないか」


 暫く農地を見て回ったが、あまり成果らしい成果はなく仲間に促されて城下町へと戻ることになったのだった。




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