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4.

 翌朝

 職業別に指導官の呼び出しがあるまで部屋での待機を言い渡され、友人三人は早々に呼び出しを受けて大地は呼び出しが来るのを待った。

 待っている間、暇なのでステータスを開いて弄っていると農家のスキル欄が表示された。

 職業によって変わるのがステータスだけでは戦闘職以外では損だ。

 職業によって業務に有意な特典がある事は予想していたが、それをステータス欄で確認できるのは初めて知った。

 スキルの効果やヘルプ機能もあるので読んでおいた方がいい物が多い。

 大地は友人達に教えろよ、と愚痴を洩らしながら閲覧していく。


 そうして10時ぐらいだろうか、部屋に騎士がやってくると王様から呼び出しがかかったと告げられて、大地は謁見の間へと向かった。


「農業の勇者をお連れしました」


 途中で委員長と合流し、謁見の間に着く。

 謁見の間には既に王様が控えていた。

 隣には決まったように宰相の姿もある。

 隅に昨日見かけた人達以外に様々な装いの装備を身に付けた男女が10名ほど集まっていた。

 十中八九、これから仲間になってくれる者達だろう。

 冒険者風の者達が一番多く、魔法使いや武闘家、騎士、よく分からない格好の者もいるが、誰もが自分の武力に自信があると言った面持ちをしている。

 国王がしっかりとした人員を用意してくれたのだと大地は判断した。


 大地と委員長は国王に対して一礼をすると国王は口を開いた。


「お前達の仕事を手伝う為の同行する仲間を集めた。皆、この国でも指折りの実力者たちだ。必ずや勇者様の助けになるだろう」

「国王様の配慮に感謝を。それで私達はこの中から連れていきたい者を選べばいいのでしょうか?」

「いや、流石に煉獄領土へ赴くのに無理矢理ついて行かせる訳にもいかん。なので彼らについて行きたい勇者を選んでもらおうと思っている」


(ええ? こっちが選べるんじゃないの?)


 集まった中にいた冒険者風の美人を真っ先に選ぼうと思った大地は向こうが選ぶと聞いてがっかりする。


「では皆の者、好きな方の勇者の前へ」


 王に促されて10人は前へと進んでいく。


 亜里沙、10人

 大地、0


「おい、ちょっと待ってくれよ」


 並んだ結果、見事に全員が委員長の前に一列に並ぶという偏った結果になった。

 流石にそれはないだろう、と大地は声を上げる。

 大地のクレームに今までずっと厳格な表情を浮かべていた国王の態度が初めて崩れた。


「う、うむ。流石にこれは不味いな。ホールドどうにかならんか?」

「私としてもここまで人望に差があるとは思いもよらなかったので……」


 向こうも意図して行っていないという会話に大地の心が痛む。


「どうしてこうなったのか」

「陛下、発言してもよろしいでしょうか」


 予期せぬ事態に国王と宰相が悩んでいると委員長の並んでいる一番前にいる男が国王に発言を求めた。


「レオンか。いいだろう、発言を許そう」

「ありがとうございます。実は今回の勇者選びに対して私達もどちらに仕えるべきか独自に調査していました。そしてこの男は農業の勇者として不適格だと判断したのです」

「はぁ!?」

「続けよ」

「その理由ですが、勇者様方はここに召喚される前、女神ヘファナ様からこの世界についての説明を受けているそうですが、この男はこともあろうにヘファナ様の説明中に居眠りをしていたという情報を掴んだのです」


 大地の中で昨日友人と話した内容が思い浮かぶ。

 後にも先にも大地が転移中に寝ていたのを暴露したのはあれだけだ。

 つまりあの時にここにいる誰かが盗み聞きしていた可能性があった。


「更に二人の人柄を他の勇者様方に聞き込みした所、アリサ様は成績優秀で真面目な模範的なお方なのに対し、そちらのダイチという男は無真面目で不誠実、頼りがいのないという評価でした」

「っ(間違っていないから何も言えない)」

「まだある。煉獄領土は戦場と同等に危険な場所だ。しかしいくら魔物を倒しても戦場の様に功績になったりしない。国のために戦えない俺達にとって次に大事なのは守るものだ。優秀で可憐な女性と無能で怠惰な男、どちらを守って死にたいかと言われれば亜里沙様を守りたいのが当然の結論」


 レオンの言い分に他の男性陣もうんうん頷く。


「女性にしてもいつ襲ってくるか分からない男の元に行けば何をされるか分かった者ではないでしょう。同性の彼女の元に行くのは当然かと」

「うむ、その通りだな」


 国王がレオンの意見に共感するように頷く。

 周りもレオンの発言を聞けば聞くほどこの結果は当然の結果の様に捉えていた。

 大地自身も逆の立場であったら委員長の前に行ってたと断言する事が出来た。

 しかしである。


「国王、このままじゃあ一人で煉獄で生活になるんですが。こんなにいて一人もいないってどうするんですか」

「だが無理矢理引き剥がすのは良くないだろう」

「非戦闘の俺が煉獄で一人で生きていけると思いますか? 仲間がいなかったら簡単に死んじゃいますよ」

「とは言ってもな」


 自分の事を棚に上げて身勝手な言い分を言っている自覚はあったが、ここで仲間を得られなければ本当に死んでしまう死活問題だけに大地も引く事が出来なかった。


「委員長、これは流石に酷いと思うだろ」

「まぁ……でもせっかく私を慕って集まってくれた人達だから」


 委員長は無理矢理希望を変えさせるのに反対した。

 集まった10人も大地について行くと意見を変える者は誰もいなかった。


「仕方ありません。では私の私兵でいいのであればあげますよ」


 このままでは一向に話が進まないと困る場内にレオンが提案をした。


「レオン、いいのか?」

「彼らは王家に忠誠を誓った物ではなく、訳あって僕に仕えている者達ですので手放しても惜しくはないですし、僕の代わりに彼に仕えろと命令すれば従ってくれるでしょう」

「そうか。ダイチ殿もそれで構わないかな?」

「仲間が得られるなら構いません」


 要は要らない兵をくれてやるという事で少し不満はある。しかしこのまま駄々を捏ねても事態は好転しそうにない。だったら仲間を貰えるなら貰った方がいい、と大地も了承した。


「少々時間が掛かったが、次に資金の話をしよう」

「私どもの方で農具一式と支度金に大銀貨500枚を用意しました。生活費、整備費に充てて下さい」


 控えていた従者が大地と委員長の前に来て大きな袋を渡す。

 ジャラジャラとした音を発てる中身を見ると中身は全て大銀貨であった。

 大銀貨は一枚で日本円にして1万円に相当する。

 ホールドは500枚と言っていたので袋には500万円入っていることになる。

 いきなり500万円の大金を手渡された大地は震えていた。


「生活費ってここで住めないんですか?」


 煉獄領土で農業をしないといけないというから辺境の地に行かないと思ったが、この王都の周りが煉獄領土の境界線にあるので担当する農地も王都のすぐ近くだ。

 知らない土地の宿屋で生活するより待遇のいい王城で生活したい。


「出来ません」

「生活費は定期的に配布していく。もし足りない場合はこちらに報告すれば追加で資金を出す事もしよう」


 王城での生活はばっさり切り捨てられた。

 まぁ、500万もあれば結構豪華な宿に泊まれるだろう。

 その上まだ資金援助をしてくれるようだし。


「説明は以上です。陛下」

「各々煉獄領土に赴き作物を育ててくれ」

「「はい」」


 国王からの激励に応えると謁見は終了した。

 委員長は大地の方には一切反応せず、自分を選んでくれた人達と共に謁見の間を出ていった。




 一度部屋に戻ると程なくしTてレオンが約束した仲間になってくれる人達がやってきた。

 やってきたのは背が高くいかにも戦士風な中年男、背が低く頼りなさげな男、つり目の女が一人、の全部で3人だ。


「柊木大地だ。よろしく」

「ジョゼフだ。レオン様に頼まれたからには貴様に付き従おう」

「ユダです。その、よろしくお願いします」

「ニキータよ。魔物の討伐は任しておきなさい」


 仲間になってくれる人がいなかった勇者のお供を上司の命令で無理矢理来させられたのだ。

 嫌味ごとの一つや二つ覚悟していたが、三人は割と普通に接してくれたことで安心した。


 大地は三人に仲間になったことを後悔させない様に頑張ろうと誓う。


 自己紹介はこの位でいいだろう。

 各々の性格はこれからの生活で掴んでいけばいい。


「これからどうするのですか?」

「まずは農具を確認しよう。足りない物があったら早めに買い足さないといけないからな。それが終わったら用意してもらった土地を見に行って今日は作業はせずに宿を探そうと思う」

「それでいいですね」


 あらかじめ決めていた予定を話すとジョゼフは賛同した。

 ユダも別に問題ないと頷く。

 最後の一人、ニキータから待ったがかかった。


「勇者様、その前に私達の装備を買ってもらえませんか?」

「え? 君達自分の装備を持ってないのか」

「ええと、私達の装備は城からの支給品だったから大地様の元に行く時に城に返還してます」

「だから買ってもらわないと無防備なのよ」


 謁見の間にいた10人は自分の装備を身に付けていた。

 当然この三人も装備を持っているものだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「分かった。武器屋にも寄ろう」


 予想外な出費だが護衛が装備なしにする訳にもいかない。

 大地は農具を確認した後、道具屋に向かうことを了承した。


 金銭は大銀貨500枚もある。

 三人の装備ぐらいは余裕だろうとの判断だ。


 気を取り直して農具の確認をする。

 鍬や鎌、金槌、鋤などの農機具以前の農具が一通り揃っていた。

 大地としては魔法のある世界なので魔法式の耕運機やトラクターを期待していたが、農業が衰退してしまっている世界ではそういった物の需要は少ない。

 残念ながら開発されていないと見ていいだろう。


「必要そうな物は揃ってそうだな」

「では武器屋に向かうでいいですね?」

「そうだな。武器屋に向かうか」

「じゃあ私のお勧めの店に案内しますよ」


 農具の確認を終えると装備を買いに行く為にニキータお勧めの武器屋に大地を案内し出した。

 連れていかれた武器屋は剣と槍がクロスした看板を掲げていて一目で武器屋だと認識できる面持ちであった。

 店の中は武器屋とは思えないぐらい隅々まで掃除が行き届いている。

 まるで新店舗のようだ。

 展示されている武器も数が多いだけでなく、なかなかの品質なように思えた。


「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」


 店に入ると店主に早速話しかけられた。


「この三人の装備を揃えたい」

「武器と防具一式ですと……予算はどのぐらいになります?」

「三人で大銀貨250枚です」


 大地が答えるより先に後ろにいたニキータが値段設定を決めてしまった。

 支度金の半分の値段だ。

 一人大銀貨80枚の装備は流石に出費が多すぎる。


 抗議しようとしたが。


「これぐらいいい装備じゃないと煉獄領土の魔物には通用しないのよ」

「確かにただでさえ三人と少ないんですからせめて装備は安心したい所です」

「いい武器があればそれだけ守れる確率が上がりますよ」

「……店主、その値段で装備を見繕ってくれ」


 三人の言い分に負けた。


「大銀貨250枚ですと……」


 代金が決まったので早速店主が見繕い始める。

 そこからはもう武器の知識のない大地は蚊帳の外で三人が各々の得意な装備を選んで購入していった。


 ジョゼフが全身鎧に大剣。

 ユダがローブに宝石がついた杖。

 ニキータは皮鎧にレイピア。


 防具を見る限り前衛二人に後衛一人といった感じだろう。

 装備がしっかりしたからか三人が二割増しで逞しくなったような気がする。


「しめて大銀貨247枚になります」

「……はい」


 だが設定金額ギリギリまで使われた大地は心強くなった三人の姿を素直に喜ぶ事が出来なかった。

 かなり軽くなってしまった袋を懐に仕舞う。

 

「それじゃあそろそろ農地に行こうか」


 もうこれ以上ここに居たくない大地は装備を揃えた三人に声を掛けて店を出る。

 時間の方も思った以上に過ぎてしまっている。

 早く農地を見たい大地は早足で農地へと向かった。


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