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3.

 大地の案内された来賓部屋はホテルのスイートルームのような豪華な部屋であった。

 部屋にはグループとなった人数と同じ数のベッドが置かれている。

 大地達は早速自分のベッドを決めて横になった。


「なあ、みんなは職業何選んだ?」


 暫くベッドを満喫した所で大地が同部屋になった友人達に問いかけた。

 友人でも流石に転移前の説明を居眠りしていて聞いてなかった、などと直球で聞くことは出来なかったのでまずは無難に職業の話題に出した。


「俺は鍛冶師を選んだよ」


 大地の質問に真っ先に応えたのは大金(おおがね)鉄二(てつじ)だった。


「鍛冶師か。なんか鉄二っぽいな」

「戦闘機とか、銃とか好きだもんな」

「そういうので決めた訳じゃないけど戦闘するのは嫌だったからね」

「だよな。死んだら終わりって言うし、態々死のリスクの高い職業を選びたくないよ」


 大地と鉄二の会話に日村(ひむら)治之(なおゆき)が加わる。


「そういうからには非戦闘職を選んだんだ」

「ああ、薬剤師だ」


 そういった瞬間、全員の頭の中に指導官だった婆さんが浮かぶ。


「……まぁ、職場にいけば若い子もいるだろ」

「別にちゃんと教えてくれるなら婆さんでも気にしないよ」

「でもあの婆さんはどう見ても薬剤というよりは魔女だったよな」

「言えてる」

「ふふん。俺は聖職者だからリリーランさんだぜ」


 自慢げに自分の職業を言い放ったのは新野(しんの)壇冨(だんぷ)


「リリーランさんは女性の指導官で男子は見ないんじゃね?」

「そんな事はない。同じ教会内にいるなら接点ぐらい持てるはず」

「持てたとしてもお前に惚れられる事はない」

「そもそも聖職者は処女が基本恋愛はご法度だろうから脈はないだろ」

「お前ら酷くないか。異世界だし価値観が違くてワンチャンあるかもしれないだろ」


 そう言いつつ壇冨本人も出来るなんて思っていないので軽口だ。


「で、俺は」

「大地は農家だろ。あれだけ注目されてれば覚えるよ」

「王様まで拍手贈られてたもんな」

「委員長は分かるけど大地あれ見てまだ農家を選べたんだな」

「え? やっぱり農家って不味いのか」


「「「……」」」

 

 みんなの冷たい視線が大地に向けられた。

 その反応だけで凄く不安になる。


「薄々そうかもとは思ったけど大地、お前転移中に寝てたな?」


 治之が確信を持って大地に問い質す。

 ここで誤魔化しても仕方ないと大地は観念した。


「ああ、転移中にあったって説明丸々全部聞き逃したんだ。頼む、何があったのか教えてくれ」


 治之と壇冨は飽きれ、鉄二は仕方ないなという顔になる。


「大地はなんで農家があんなに喜ばれていると思う?」

「……食糧難?」

「正解。この世界は深刻な食糧難にある」

「それも重度のな。そこのテーブルに豆が二つあるじゃん」

「うん」

「それがこの国の食事なんだよ」

「はあっ?」


 旅館の部屋に常備されているお菓子の様に置かれた緑色の大豆には気がついていたが、それが食事という意味が分からなかった。


「この豆は非常に栄養価の高い豆でこの一粒だけで一日に必要な栄養を得る事が出来る」

「それだけじゃないぞ。回復作用もあるらしくて多少の打撲や捻挫は一粒で、骨折も2、3粒食べれば治るんだって」

「この世界では食事の99,99%がこの豆で賄われているんだ」


 三人に豆の説明を受けた大地はその説明を聞いて一つの事しか思わなかった。


「それ仙〇じゃんっ!」

「おっ、やっぱり大地もそう思うよな」

「効果が少し劣化した仙〇だよな」

「生産性が高い分性能が落ちたって感じだな」


 どうやら全員が同じことを思ったようで意気投合し仙〇の話で盛り上がる。


 このままでは寄り道ばかりするので疑問を纏めて説明しよう。

 世界の領土の割合は人間領1割、魔人領2割、煉獄領土7割とされている。

 人間と魔人の領土の合計よりも未開の煉獄領土の方が広い。

 煉獄領土は特殊な土地で煉獄の魔物は最下層でも人間領の魔物の数段強く、更に開拓しても作物が全く育たない土地柄らしい。


 次に食糧事情は先程鉄二が言ったように一日に一粒食べるだけでいい仙〇が99%を占めている。

 人間領の農地は作物が育たない訳ではないが、病気や栄養不足で安定に作る事が出来ないらしい。

 その為、普通の作物では食料自給率が全然賄い切れない。

 当時は飢饉でそれはもう大変だったという。

 それを賄うために過去の勇者が万能豆を作り出した。

 御蔭で食糧難は去ったが、いつの間にか豆農家しかいなくなった。

 指導者がいなかったのも豆農家しかいなくて指導できる者がいないからだ。


 ……さて、この二つでなぜここまで農家をみんなが過剰に反応するかというと、農家の勇者は煉獄領土(・・・・)で作物を作らないといけない。


「ちょっと待って。それってつまり俺は煉獄領土で農業をしろって事か?」

「そういう解釈しかないと思うが」

「いやいやいや、だって煉獄領土って強い魔物がたくさんいる危険地帯なんだろ」

「農家しか煉獄で作物を育てられないんだから仕方ないじゃん」

「どう考えても危険しかないよな」

「だから農家は選んじゃ駄目な職業だったの」

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 大地は鉄二からもたらされた真実に耳を塞いで叫んでしまった。


「農家に戦闘スキルは?」


 それでも小説やゲームで数多の転移物を見てきた大地は希望はないのか、と問う。


「ある訳ないだろ。非戦闘職が戦闘職に勝てるとかいう矛盾現実にある訳ないじゃん」

「て、転職は?」

「それがあると思う?」

「……煉獄領土行きを辞退する事は」

「それは許されないんじゃないかなぁ」

「この街、煉獄領土に接してるしね」


 大地はそう言えばと転移前に女神が意味深に確認してきたのを思い出した。

 あれは勇者を選ばなければいいのか、と聞いたのではなく、農家を本気で選んでしまっていいのかと聞いていたのだとようやく分かったのだ。


「こうして改めて聞くと農家って戦地に行く戦闘職より危険だよな」

「ぐふっ」


 壇冨の止めともいえる現実に大地はベッドに沈んだ。

 三人からは可哀想な物を見る目で見られている。


「で、でも宰相と委員長の話だと仲間を連れていけるんだろ?」

「そうだよ。弱いなら仲間に守ってもらえばいいじゃん」

「農家は貴重だからきっと体を張って守ってもらえるよ」

「……そうだな。弱いのなら仲間に頼ればいいんだよな。たとえ戦えなくても何とかなるよな」


 三人のフォローに大地は選んでしまった物はしょうがない。

 それよりもこれからどうしていくかを考えようと気持ちを切り替えた。


 まだ魔物と戦闘しないといけないと決まった訳ではない。

 仲間といい関係を作って農業に当たれば上手くいく可能性はあるんだ。


 大地はそう思い、豆を食べた。

 ほとんど味のしない豆だ。

 これでは食を楽しむことは出来ない。

 少しだけ農家の必要性を共感できた。


 明日から異世界農業が始まるんだ。

 楽しんで生活していこう、そう前向きに考えて大地は就寝した。

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