22.
ラディッシュが出来上がり、納品する事にした大地は箱いっぱいに入ったラディッシュを持って王城まで訪れた。
そして役人にラディッシュについてを伝え納品する旨を伝えた……のだが。
「こちらの品は納品できません」
帰ってきたのは販売拒否であった。
「どうして納品できないんだ」
「どうしてと言われましても上がそう判断したとしか」
「ならその上の人間を連れてきなさい。直接抗議します」
「残念ですが面会は拒否しています。こちらの箱を持ってさっさと帰って下さい」
カレンは納得することが出来ず抗議を続けたが、対応した役人は下っ端で上役は姿を表すことはなかったのでどうにもならず、持ってきた荷物をそのまま持って帰ることとなった。
「まさか城が買取拒否するなんて」
カレンは帰り道ずっとそう言っていた。
買い取ってもらえなかったことが相当ショックだったらしい。
大地の方は逆に全然気にしていなかった。
元から城の連中の事を信用していないので買取拒否もまたかとしか思わなかった。
「しかしこの余ってるラディッシュはどうしようか」
「これ全部を食べるのは無理だし、捨てるのは勿体ないよね」
「廃棄か……」
この世界には万能豆しか作物が無いという。
だから買いたい人は五万といる筈だ。
それなのに今こうして捨てるかどうかの話をするのは少しおかしな気がする。
せっかく作ったのだし安くていいから食べてもらいたいが……。
「おう。帰ったか」
「ただいまです。ガランドさんにダンカンさん、とそちらはどなたですか?」
宿につくと店主のガランドと手斧を作ってくれた武器屋のダンカン、そして同じくらいの年齢の厳つい顔の男が三人集まっていた。
「おう。お前が犯罪者の方の農家勇者だな。俺はザギュルだよろしく」
「どうも」
軽く挨拶を返し、ダンカンの方へ視線を向ける。
ここに泊まる際に素性がバレると変な事を起こす輩が現れるかもしれないからと俺が止まっていることを一切話さないようにしてもらっていた。
なにの何故このおっさんに俺の素性を教えたのだ?
「そう睨むなダイチ。こいつは俺の昔からの友人だ。お前の心配するような事にはならねえよ」
「……気を付けて下さい」
その信頼がどれだけの保証になるのか分からないが、教えてしまった以上忘れさせる手立てもないし手遅れだ。
それより買い取ってもらえなかったラディッシュを運んでしまおう。
「待て。俺たちはダイチを待ってたんだ」
「俺を?」
「おう。こいつはお前さんが作ったもんで間違いないな?」
そう言ってザギュルが取り出したのは料理で漬け込むときに入れ替えて放置したままにしていたラディッシュであった。
「そうだけど」
「こいつを俺たちにくれないか」
話を聞くと俺達が王城までラディッシュを売りに行っている間にガランドが漬けっぱなしにしてあったラディッシュを発見し、摘み食い。
その美味しさにこれは絶対に売れると確信する。
それでザキュル(この街随一を誇る商店の店主らしい)を呼んで、ついでに丁度出会したダンカンと更にラディッシュを試食。
ガランド同様売りに出したいという結論に至り、今に至る、と。
「勝手に食べたのもどうかと思うけど、城が納品を受け入れてたらどうするつもりだったんですか」
「そん時はそん時だ」
「まぁ、十中八九納品拒否されるだろうとは思ったがな」
「ガランド何か知っているのっ!」
「詳細は不明だが犯罪者の食べ物は危険すぎて食べられないから納品は受け入れるなってお達しがあったのは知ってるぞ」
納品拒否された事を信じられないと思っていたカレンの問いかけにガランドはあっさりと答えた。
詳細不明と言うところに大地の脳裏にレオンの顔が思い浮かぶ。
奴ならそれぐらいの事はやってくるだろう。
「坊主、お前さんは納品拒否されて持ち帰ってきた物をどうしようかで悩んでおる」
「このままなら捨てる事になるな」
「そこで俺が全部買い取るから売ってくれ」
つまりザキュルがラディッシュを店に出してくれるってことか。
どうやって処分するかを考えていたので願っても無い申し出だ。
「貰ってくれるのは構わない。けどカレンから聞いた話だと食べ物を扱うのは国の管轄だと聞いたけど大丈夫なんですか?」
「なんだ、そんな事か。問題ない。俺の商店は国から運搬、販売する権利を貰ってる」
そういった許可証が必要だという事も初めて知ったので本当に安心できるのか分からないが、既に準備は整っていると見ていいだろう。
そうなると後は俺次第って事になる。
「ダイチ、どうする?」
「……受けよう」
サギュルを信用するかどうか一瞬悩んだが、自分で一から探すよりガランドの紹介であるサギュルの方が信用できると結論付けた。
「では交渉に移ろうか」
◆
side.ネリア
冒険者ギルド
依頼料を払えば魔物の討伐、街道の護衛から街の掃除、工事作業まで何でも請け負う。
とはいえやはり本業は何かと言われれば魔物の討伐だろう。
特に煉獄領土に接している街の冒険者ギルドはその傾向が強い。
そういったギルドには必ず初心者冒険者を支援するための講習が開かれている。
魔物の生態などの講習から各職種に合わせた基礎訓練、模擬戦まで支援してもらえる。
「本当にいいんだな」
「はい」
「ならもう何も言わねえよ。ただ覚悟しておけよ」
今、私はその講習の受付をしていた教官の一人に再三確認を取られながら申し込みを行った。
周囲の視線が冷たい。
こんなに注目されたのも負の感情を浴びるのも初めてのことだった。
受付を済ませて会場に向かっている最中もやたらと人の視線を感じる。
「おい。聞いたかあいつ魔法使いでこの講習に参加してるんだってよ」
「はぁっ!? ここは近接戦闘の講習だぞ」
「魔法剣士じゃないのか?」
「魔法剣士なんてレア職業がこんな初心者講習に来るわけないだろ」
今日の講習の参加者たちも私が魔法使いだという情報を知って近寄ってこない。
こんな居心地の悪いのは初めての経験で参加したことを少し後悔してくる。
講師が来たので全員会話を止めて整列した。
「七人全員揃っているな。それじゃあ講習を始める。今日初めてなのは……ネリアか。今からでもやめてもいいんだぞ」
「いえ、参加させてください」
「……まぁいい。じゃあ全員広がって素振りからだ、始めろ!」
魔法の講習では最初に攻撃魔法の射撃訓練をやって実力を見ていたけどこっちは素振りでおおよその実力を図る様だ。
自分の武器が用意できていない人には支給品の武器を貸してもらえるので武器を取りに行く。
根や槌は言わずもがな通常の剣や槍ですらかなり重たくて満足に振れそうにないので短剣を選んで素振りを始めた。
素振りの出来は共産化した中で一番悪かった自覚がある。
「よーし、そろそろ体も温まってきただろう。防具を付けろ」
「「「はいっ!」」」
防具!?
これ以上重い物を持ったら絶対動けないよ。
「教官、私はディフェンスアーマーをかけるので防具は要らないです」
「そうだな。いいだろうさっさと準備しろ」
魔法による防御バフが認められたので防具を着ずに魔法を唱えた。
「よし、準備が出来たな。じゃあネリア前に出ろ」
「はい」
「これから摸擬戦を行う。一本先取で勝ち抜けだ。誰でも好きに選べ」
「じゃ、じゃあ彼で」
誰が強いかなんて分からないから適当に指名して前に出る。
相手は講習に出るくらいだから冒険者登録したての新人。
例え戦士職を付いていたとしても多少は戦える。
そう思ってたけど……、
「始めっ!!」
「うらあああああっ!」
「ヒッ」
開始の合図と同時に襲い掛かってくる相手の気迫に呑まれた。
腰が引けて何とか防ごうと振るった短剣は空を切り、相手の剣が腹を叩いた。
今までに感じた事のない激痛に襲われて痛みに耐えきれずに短剣を手放して倒れ込んだ。
「一本」
瞬殺だった。
勝利宣言された後も痛みですぐには立ち上がれないでいると教官が近づいてきた。
「何か意図があってきたんだろうが、悪い事は言わん。もう帰れ」
言葉は優しかったが、顔は場違いだからもう来るなと言っている。
周囲にいる人達も邪魔だからさっさと消えてくれといった雰囲気で私は耐えきれずにその場を離れました。
家に帰り、碌に身体を痛める事もなく怖くて逃げだしてしまった自分の覚悟のなさに嫌気が込み上がってきます。
彼は農家だと言っていた。
私以上のステータス差があったはず、死んでいても可笑しくない。
軽々しく言っていたことが実はとんでもない事だったとようやく気付いた。
(師匠、あなたに習った方法は前途多難です)




