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20.

色々ありまして久しぶりの投稿になります。

これから少しずつ戻していきたいと思います。



 カレンの後ろを静かについて行く。

 するとさっき聞こえた叫び声を上げたであろう人物の集団を見つけた。

 

 服装からして十中八九冒険者だと思える。

 剣士風な男と魔法使い風の女、あと軽装な女の3人パーティー。

 年齢は自分と同じか、それ以下と非常に若い。

 初心者冒険者だろうか。


 後方にはカレンの読み通り、コボルトとネズブルが三人を追っていた。


(三人とも逃げ慣れていないのかもたついているな)


 恐怖からか何度も後ろを振り返っているせいで速度が出ず、女性2人の足取りが遅い。

 あのままでは程なく追いつかれそうだ。


「マリネ!」


 男もそれが分かっていたのか魔法使いの女の手を掴んで引っ張った。

 ……そう。魔法使いの方だけ。

 どうやら男にとって魔法使いの女の方が大事な存在らしい。


 手を握られなかった軽装の女は顔を青くして必死に男の後を追うが、男は軽装の女を待つ気はないらしく徐々に距離が空く。


「まずいな」

「ああ、あの女の子は囮にされそうだな」

「そっちじゃなくて彼らの向こう側を見て」


 言われた方を見るとゴブリンの集団とは別にネズブルが三人を狙って走っていた。

 三人はこのネズブルの存在を気づいていない。

 このまま追いつかれれば完全に奇襲になる。


「向こうのゴブリンとネズブルの集団は何とかする。でもあのネズブルまで手が回らない。だからダイチが何とかして」

「はっ?」


 そう言うが否やカレンはゴブリンの集団を止めるべく走っていった。

 足場の悪いはずの森の中を障害物が何もないかのような速度で駆けていく。


「ギャアアアッ!」


 ゴブリンと激突したと同時に首を斬り捨てた。

 それだけでカレンが大丈夫だと分かる。


 ……で、


 追われていた三人、助けが来たと安心して立ち止まっているんじゃない。

 お前らの横からネズブルが走っているのに気づけっ!


 しかし三人の誰もネズブルに気づかない。


 助ける

 見捨てる


 頭の中で二択が過る。

 俺は非力な農家で、あっちは新人だろうがたぶん冒険者だ。

 ネズブルぐらい不意打ちでも勝てるだろ。


 助けない理由がどんどん出てくる。

 動きたくない、戦いたくない、死にたくない。

 けど……。


「キャアアアッ!?」

 

 不幸にもネズブルの標的認定されたのはまたしても囮にされかけた軽装の女の子だった。

 ネズブルが目と鼻の先まで近づいてようやく気がついたようで腰から倒れ込みながら悲鳴を上げた。


 本当に何しているんだ。


「はああっ!」


 俺は女の子の間に入って斧を振ってネズブルを攻撃を受け止めた。

 奇襲を防がれたネズブルは慌てた様子で距離を取る。


「おい、ぼさっとしてないでさっさと立て」

「え、え、あ、ええ?」


 女の子は状況が理解しきれていないのか混乱してしまっていた。

 守りながら戦うとかマジで無理だから早く立って。お願い。


 斧を構えてネズブルの動きを見る。

 いつもと同じだ。

 こちらから急いで攻めない。

 とにかくノーリスクでちまちまと隙が出来たら攻めていく。


 ナイフから斧に変わったとはいえ俺自身が相変わらずのゴミ攻撃力だからカレンのように一撃どころか数回当てた程度では倒せないが、確実にダメージは与えられている。


 焦らず、騒がず、ただ無心となって敵に攻撃する。


 交戦から約5分。

 全身血塗れとなったネズブルが倒れて息絶えた。


「まじかっ! いつもより格段に早い!」


 ダンカンを疑っていた訳ではないが、ナイフを斧に変えただけでここまで変わるとは思っていなかった。


「おーい、ダイチ、終わったみたいだな」


 カレンが三人と一緒にやってきた。

 カレンはとっくにゴブリンを殲滅し終えて待たせていた。


「ああ、待たせて悪い」

「いや。思ったよりも早かったよ。斧の使い心地はどう?」

「いい感じだ。これなら戦闘でも使えそうだよ」


 そう言って斧をしまう。

 あとでガランドさんの所に行って改めて礼を言おう。


「あの、ありがとうございます」


 カレンと入れ替わって囮にされた女の子からお礼を言われた。


「いや、ほとんどカレンの御蔭だから」

「そんな事ありません。本当にありがとうございます」


 こちらに来て以来こんな純粋にお礼を言われなかったので慣れない。

 お礼はここまでにして魔物を避けながら街へ帰ろうと提案する。

 当然襲われたばかりの三人も賛同してくれた。

 ただカレンだけがもう少し魔物狩りをしたそうにしていた。


 はぁ、危なかった。



「あの、ちょっといいですか?」

「ん?」


 帰ることが決まってからカレンは男と魔法使い風の、確かマイネと呼ばれていた女の二人に質問攻めにあっていた。なので一番後ろを歩いていたら軽装の……ネリアだったか?が話しかけてきた。


「あの、お二人はその、パーティーを組んでいるんですか?」

「パーティー? ああ、僕らは冒険者じゃないよ」

「それじゃあ貴族様でしょうか?」


 冒険者じゃないとなると今度は魔物狩りをしにきた貴族と従者と考えるのが普通か。


「ないない。俺がそんな高貴な身分に見えるか?」

「そうですね。どちらかと言えばカレンさんの方が威厳というか風格を感じます」


 それには同感だ。

 教育の賜物だろうけど彼女の立ち振る舞いは花がある。

 戦闘服であっても隠せるものではないだろう。


 それに引き換え俺は根っからの庶民だ。

 上下関係なら間違いなく俺のが下だろう。


「どんな利害関係か知りませんが、あまりにも実力に差があるなと感じました」

「そりゃあまあ」


 かたや王国の騎士団長の称号を持っていた実力者で、かたや勇者と言えど非戦闘職の農家だからな。

 基盤も基礎も経験値も違いすぎていて比較できない箇所を探すほうが難しいだろう。


「強い人に牽引してもらうのもいいですが、同じぐらいの実力同士で高め合うのが大事だと思うんです。だから……私とパーティーを組みませんか?」


 顔が近い。

 まじかでよく見るとこの娘、汚れが酷いだけでかなり美人だ。

 最近カレンで慣れたと思ったが、やっぱり女性の顔を間近で見るのは照れる。


 にしても俺を勧誘するなんて何を考えているんだ?

 勧誘するならカレンの方が絶対強いし、ネズブルに苦戦しているような奴を仲間に加えたいと思わないだろ。

 まぁ、どちらにしろ答えは決まっているが。


「悪いけどパーティーは受け付けてないんだ」

「成長途中を強い人に護衛してもらうのは安全だけどいざ一人になった時の自力に差が出るっていいますよ」

「カレンが問題なんじゃなくて、俺の方の問題かな」


 といってネリアにステータスを見せた。


「えぇ! 嘘、農家!?」

「そ、農家。だから魔物と戦うのは専門外」

「戦闘職じゃない? いや、でもネズブルは倒して……」


 少し混乱している様なので落ち着くのを待つ。

 流石に農家だと分かれば諦めてくれるだろう。


「そういう訳でパーティーは受け付けてないんで」

「あ、あの! 本当に農家なんですか?」


 組むのを拒否するために非戦闘職だと嘘をついていると思われた様だ。

 しかしそれを証明するのは容易い。


「はい。これで嘘じゃないってわかったか」

「……本当に農家だ」


 ステータスを見せるとネリアは嘘でないと理解した。


「じゃあどうやって魔物を倒したんですか」

「? どうやってってさっきの見たまんま?」

「見たまんまが農家じゃあり得ないから聞いてるんです」

「大袈裟だろ。農家だってネズブルぐらいなら倒せるよ」

「倒せないですよ!」


 激しい剣幕で言われても実際にネズブルは何匹も倒している。

 しかしネリアは納得できずにいる様で、頭を押さえている。


「農家のステータスだと倒すのに何回も攻撃しないといけないし、ネズブルの体当たりだけで体力を一気に持ってかれないですか?」

「ネズブルは動きが単調だから攻撃をあたらない様に気をつけてれば問題ないし、攻撃が低くてもダメージが無いわけじゃ無いからな」

「それって攻撃全部避けろってことですよね」

「意外と簡単だぞ」


 そんな訳ない、とネリアは怒鳴り掛けて先程の戦闘中、大地が一度も攻撃を食らっていないのを思い出して口を噤んだ。


「私にもできるでしょうか?」

「出来ると思うぞ」


 ネリアの問いに大地は即答で出来ると返した。


「本当ですか!? ならぜひ教えてください」

「そんな教えるようなものじゃないんだが。ただ単に相手が何を狙っているのかを感じるだけだ」

「どういう事ですか?」


 大地の説明の意味が分からずネリアは首を傾げた。


「攻撃する時に相手からここを攻撃したいって意志というか、殺気というか、そういった感覚を感じたら避けるようにする」

「ますます分からないです」

「……う~ん、説明するの難しいな。実際にやってみようか」


 言葉にして説明しようとすると上手く言い表せない。

 感覚的な事だし、体感してもらった方が理解しやすいだろう。


「今の状況で俺の事を攻撃しようと思って」

「え? 攻撃ですか」

「うん、どこでも攻撃していいよ。反撃とかしないし、失敗しても怒らないから」

「いいんですか。……それじゃあ、「金的ってえげつないな」……えっ」


 ネリアは驚いた表情で大地を見た。

 大地は続けるよう促し、その後も自分が狙おうと思った箇所を事前に言われ続けた。


「……予知系か、直感系のスキルですか? 農家がこんな事が出来るなんて聞いた事がありません」

「これはスキルじゃないよ」

「スキルじゃないんですか」

「うん。みんなスキルがないとできないと思っているけど別にスキルとしてなくても出来るんだよね」


 この世界の人達は職業と付随するスキルがある所為か戦闘は戦闘職、商売は商人、農業は農家しかできないという考え方をする。

 確かに職業にあった仕事はスキルというアドバンテージがあるお蔭で有利だろう。

 しかしだからと言って職業に合わせる必要はない、というステータスなどない異世界人である俺には当然と思う事もこの世界では神様の決めた事に逆らっていいのか、と理解できない考えとなる。

 だから今回のような農家の俺が農家らしくない動きをすると基礎の身体能力ではなくスキルと考えてしまうようだ。


「本当に私でも覚えられるんですか?」

「大したことじゃないからな」

「なんでですか? 予知系や直感系のスキルは戦闘職では重宝されてますよ」

「事前に相手の攻撃箇所を察知する。説明すると御大層だけどネズブルみたいな攻撃の手立てが少ない相手ならいいけどゴブリンのように姑息な手も使うような相手だと攻撃が来るってわかっても何の攻撃が来るか分からないから結局見てから避けないといけないし、そもそも相手の攻撃速度がこっちの身体能力を上回っていたら何の意味も無いよ」

「……」

「やっぱりやめる?」

「いえ教えてください」


 デメリットを伝えて少し考え込んだ様子だったので諦めるかと思ったが、まだ習得したいというので自分がどうやって覚えたのかを教えた。


「……それって無理じゃないですか」

「そうでもないと思うぞ。この街の男どもは屑ばかりだからな」

「酷い言いようですね。でも分かりました。とにかく頑張ってみます」


 拳を握るネリア。

 もう伝える事はないし、あとは彼女の感性と素質次第だろう。


 そんな話をしているうちに王都に到着したので三人とは門の所で別れた。

 三人はギルドに来てお礼をしたいと言ったが、丁重に断った。

 ギルドに行ったら面倒ごとになるのは目に見えているからな。


「ダイチ、随分とあの娘に親切だったじゃない」


 三人と別れて暫くしてカレンがそう切り出した。


「そうか? 普通だっただろ」

「いつもだったらもう少し警戒してる」


 そう言われると裁判以降カレンを含め誰に話すにしても警戒をして喋っていたが、ネリアには解いていた。


「親近感があったからかな」

「彼女どこかダイチに似ていた?」

「顔や性格じゃなくて状況が」

「あれは人間関係のせいで二人も悪気はなかった。ダイチが戦っている間にちゃんと謝っていたよ」

「俺も切羽詰まっての行動だし、仕方なかったと思う」


 だからあの二人があいつらと同列だとは思っていない。

 ただ被害を受けた側は仕方なかったと簡単には割り切れないだけだ。


 話しかけてきたネリアは何処となく裁判の時の俺に似ていた。

 裏切られ窮地に立たされたことで、自分を見つめ直す。

 環境、軽率さ、力の無さ、自分がどれだけ甘えた考えでいたのかを痛快し、怒りの炎が灯る。

 その炎は弱さに抗おうと身体をとにかく動かさせる。


 彼女の状態はまさに今この状況だろう。

 挫折して必死になって這い上がろうとしている。


 しかし必ずしも立ち上がれるとは限らない。

 炎という表現の通り永遠に怒りは続かない。

 恨みの解消、結果、挫折、要因は様々にいつか燃料切れを起こして消える。

 消えるまでに立ち上がれてればいいが、立ち上がれなければ腐っていく。

 環境が復讐よりも過酷だったせいであっさりと消えて、街で死すらも受け入れた俺のように。


 ネリアの炎は消えても俺みたいに死のうとは思わないだろう。

 だがどこかが悪い方向に変わるのは間違いない。

 彼女にはそうなって欲しくないと思ったからお節介な助言をした。


 カレンの問いを言葉にしたらこんな所だろうか。


「で、何を話したんだ」

「なんか俺の避け方を教えて欲しいって言うから教えた」

「え!? あれを教えたのか」

「ああ、前にカレンが聞いてきたのと同じ」

「それで習得方法も同じように言った!?」

「うん」

「ああ……」


 俺の事柄を聞いてなぜかカレンが遠い目になった。

 まるで戦場の中に突っ込めと無茶な命令を部下に出したのを見て自分は知らないと決め込む副官のような表情だ。

 そんなに難しい事ではないだろう。




 取得条件

 ガチで殺しにかかるような敵にボロボロになるまで痛めつけられる


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