18.
裁判の前と聞いてカレンとガランドの二人は大地が何故取りに行くのを忘れていたのかを理解したが、ダンカンは首を傾げた。
「裁判が何故小僧が受け取りに来ない理由になるのか?」
「あぁ、ダンカンも覚えてないか? 一月以上前だが勇者の裁判があっただろ」
「……あったか?」
裁判の事すら知らなかったようでガランドが事のあらましとその後大地がどういう生活を送っていたのかを説明した。
「……なる程のそんな事があったのか」
「そんな生活を送っていたから受け取りを覚えている余裕はなかったと思うぞ」
「うむ。まさかそんな事になっていたとは、小僧怒鳴って悪かったな」
「いいですよ。こっちも忘れていたんで頭を上げて下さい」
ダンカンが頭を上げると話は裁判に対してになった。
「しかしその話は本当なのか? 王家の行う裁判で冤罪なぞ大問題じゃぞ」
「裁判結果だけ見れば有罪だがこいつを見る限りそんな事やらかす奴には見えないな」
「今は毎日農地に行って真面目に作業している」
「儂のところに来た時も賭博に行くようには見えんかった」
カレンが連れてきてから半月以上も経っている。
その間の大地の働きぶりを目にしてきたカレンとガランドは既に大地を信頼していた。
それに罪人という先入観のないダンカンも大地のことを客観的に見て評価したことで王国の裁判に対して疑いを持った。
「儂が証言をすれば何か変わるか?」
「無理だろうな。裁判から時間も経っているし、証言としても弱い」
「何より王族が自分の過ちを認めるとは思えない」
「ストップっ!」
大地の経緯の話から逆転裁判でも起こそうかという話になって流石に止めた方がいいと待ったをかけた。
「裁判の話じゃなくて今したいのはダンカンさんにした依頼の話でしょ」
「なんじゃ。小僧は冤罪をそのままにしてよいのか?」
「いいよ。……いつかアイツらには俺を敵に回したことを死ぬほど後悔させてやるから」
「ほう、なるほどの。くくくっ、いい目……いや、悪い目をしておるの」
「ダンカン、そこは笑うところじゃないだろ」
「お主も目が笑っておるぞ」
おっさん達だけでなく隣でカレンも声を抑えて笑っている。
何がそんなに可笑しいのか。
「当事者の小僧がこういっておるし本題に入るとするかの」
そう言ってダンカンは小さなポーチを取り出した。
「あれは魔法の鞄シリーズのアイテムポーチです」
「もしかして見た目以上に収納できる道具入れ?」
カレンが頷くよりも早くダンカンがポーチの中から倍以上大きい斧を取り出して証明された。
魔法の鞄シリーズは過去の鍛冶か、商人の勇者が作り上げた魔道具である。
シリーズという様に種類があり、小さい物はダンカンの持つようなポーチ。
数が最も多く、多少は値が張るが、一般人でも手の届く魔法の鞄だ。
収納量が多くなるほど数がなく、一番収納量のある魔法の鞄は国宝にもなっているという。
万能豆なんて作っているんだし、同じ世界からの転移者ならアイテムボックスを作ろうと考えても可笑しくはない。
しかし過去の勇者達はどこまで自重しなかったのだろうか。
「これが注文された斧だ」
取り出されたのは綺麗な装飾を施した銀の斧だった。
長さは腕の前腕程、街で見かける戦斧と比べるとあまりに小さいが、木を切るには問題ない大きさだろう。
「こいつが武器か? 随分と小さいが」
「これは武器じゃなくて木を切る用の斧です」
「木を切る?」
ガランドには今まで農地の話をした事がなかったなと最初の頃の農地の状態と付いていた三人が魔法による伐採を教えなかったことを伝えた。
「なるほど、それでこの大きさか。これならダイチの細腕でも簡単に触れそうだな」
「まぁ、今は私がいるから必要ないがな」
いくら切れ味が良くても一本倒すのに数十分必要なのに対し、カレンの魔法なら1分で2,3本切り倒せる。
カレンと一緒に行動している以上この斧が必要になる事はないだろう。
だがそれでは終わらなかった。
「カレンもガランドも甘いな。儂がただ注文通りの武器を作ると思っておるのか」
「そうじゃないんですか?」
「小僧の注文を聞いてこのような状況になるのは想定済みよ。だからその斧は戦闘でも使えるようにしてある」
まさかの注文内容無視されていました。
でもサイズが短剣と同程度の大きさしかない斧は大きさの面でも重さの面でも頼りない。
斧って武器は重さで相手を引き裂く剛力の持ち主が使う業物だからな。
非力な俺が使う武器としてなら腰に携えているナイフの方が小回りが効く分まだ使い勝手がいいだろう。
カレンも同意見なようであまりいい顔をしていない。
とはいえ武器として使えるだけで本来の用途である木を切り倒すができるので返品する意味もない。
お金も支払っているし素直に受け取った。
斧の受け取りも終わりダンカンは鍛冶屋に帰っていった。
帰り際に戦闘で使ったら感想を教えてくれと言われたけど曖昧に頷いた。