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13.

 カレン・レッドチェスタが仲間に加わった。

 まだカレンの事を信用したわけではなかったが、大事な物を美味しく頂いてしまった責任を取る事にした。

 因みに翌朝「淫獣」「ケダモノ」といった呼び方をされていた。

 誘ってきたのは向こうなのに解せぬ……。

 とにかくカレンの事を受け入れることにしたのは確かであった。


「それじゃあ農地の方に行きましょうか」

「何を言っているんですか、カレンさん」

「そんなさん付けなんてやめてよ。もう知らない仲じゃないんだから。私もダイチって呼び捨てにするからあなたもカレンって呼び捨てにして」

「……カレン」

「よろしい」


 変わったのは関係だけでなく、カレンの口調も変わった。

 普段の男性のような喋り方は実は素ではなかったのである。

 少女時代に虐めにあっていたらしく、少しでも自分を大きく見せようとするために男口調をするようになったそうだ。

 そのため素の彼女は普通に女性らしい喋り方だったのだ。


「ダイチが外に出れないのは犯罪者に制裁を加えようとする市民が襲ってくるからなのが一番の理由でしょう? なら私が居れば万事解決じゃない」


 現在大地の直面している問題は作業に使う資金がない事、労働力がいない事、周囲から邪魔をされる事などが挙げられる。

 その中で大地が外に出れないのは暴力的な市民の偽善による虐めの所為である。

 大地への制裁は既に人目についても止められないほど悪化していた。

 とはいえ市民は所詮戦闘素人。

 戦闘の指導官を任されるカレンの敵ではない。

 カレンが一緒に居れば暴力市民が襲ってきても返り討ちにするぐらい十分だろう。

 その位大地も分かっているが……。


「女に守られるなんて格好悪くないか?」

「……何言ってるの? 非戦闘職を戦闘職が守るのに男も女も関係ないでしょう」


 大地の言葉にカレンは信じられないという目で見た。


 この世界では男女としての体格差よりも職業による能力差の方が遥かに重要な要素だ。

 どれだけ可憐な女性でも戦闘職なら非戦闘職の筋肉むきむきのおっさんを投げ飛ばす事は容易にできる。

 だから非戦闘職が戦闘職に守られるのは当たり前のこととされ、逆に男が女に守られるのは格好悪いという概念は存在しなかった。




「いいから農地に向かうわよ」


 大地は半ば強引にカレンに手を引かれて外へ出る事になった。


 宿を出てもカレンの予想通りこれまで街中で絡んできたチンピラ達は近づいてこなくなった。

 大地に近づく輩がいない訳ではないが、カレンの姿を見て驚いた表情になった後バツが悪そうに引き返している。

 やはり粛清という名の体のいい苛めだったのだろう。


 そんな訳で問題が起こることなく門を通過して大地は久しぶりに木々の生い茂る農地に訪れた。

 

「ここがダイチに与えられた農地か。……荒れてるな」


 外に出たことで元の男口調に戻ってしまったカレンが素直な感想を口にした。

 俺も同じ感想だ。

 久しぶりに訪れた農地は最後に訪れて以来放置されていたために最初に来た時と同じ景色だった。

 また雑草取りからやり直しだな、と大地は溜息を吐いた。


「まずは何から始めればいい?」


「最初は草取りかな」


 答えると同時にカレンは手をかざして魔法を発動した。


(…………)


「一回の魔法ではこんなものか」


(…………)


「大木の方はやっぱり厚いな。上級魔法で切るしかないか」


(…………)


 あれだけ苦労した雑草取り作業がカレンの魔法一回に追いつかれた。それだけでなくどうやって倒せばいいのか悩みの種であった木々もなんなく倒れていく光景に大地は驚きと同時に悲しくなってきた。


「ダイチ、どうかしたか?」


 大地の一日の作業の5倍の広さを伐採し終えたところでカレンが落ち込む大地に気づいて戻ってきた。

 数秒のタイムラグからようやく現状を認識した大地は、


「……なんだよそれっ!!?」


 もはや叫ぶしかなかった。

 

 大地はこれまでの草取りの方法を話した。

 話を聞いてカレンは大地の反応に合点がいって呆れ顔になった。


「……手作業で抜いていたら終わらないでしょ。宛がわれた人員の中に魔法使いはいなかったのか?」

「いたよ、ユダが魔法を使っていた。でも風魔法じゃなかったし、できなかったんじゃないか?」

「風魔法じゃなくてもこの位は出来るよ。たぶんわざと使わなかったんだろうな」

「そういう魔法の使い方を知らなかったって事は」

「それはない」


 カレンはその可能性は無いと断言した。

 魔法で木や草を切るというのは魔法の鍛錬でよく行う。

 兵士なら敵に見立てた木の人形を切ったり、修練場の清掃で草刈りをさせられる。

 冒険者なら森の中での移動で道を作るのに使ったりする。

 この世界に農機具がなかった理由の一つは魔法で代用できるからと言ってしまっていい。

 そんな誰でも知っている方法を教えなかったのは初めから手伝う気はなかったからだろう。


「まぁ、魔法で出来るのは飽くまでも農業をできる環境を造るまで。ここから先に進むには農家の力が不可欠だ」

「……疑問なんだが職業農家はこの世界にもいるんだろう? その農家達はなんで煉獄領土で作物を作れないんだ」


 説明を聞いていなくても既に一月も生活すれば少しはこの世界について知る事が出来る。

 転移時に与えられた職業は勇者を除き珍しい職業ではない。

 この世界には成人になると職業が与えられ職業にあった能力とスキルを得る。

 その中には当然農家も存在した。


「確かに勇者と同じ職業の者はこの世界にもいる。でも勇者とこの世界の者とではスキルの数が違うんだ」

「特別なスキルがあるってことか?」

「そう。教会はエクストラスキルと呼んでいるな」

「エクストラスキルね。……もしかしてハイヤーか?」


 カレンは頷いた。

 どうやら合っていたようだ。

 他のスキルも農業をする上でありがたいスキルだけどチートがどれかと言われるとハイヤーが頭一つ抜けている。

 なんたって無条件で品質を一つ上げられるのだから。


「ハイヤーなしでの成功例は?」

「各国で研究はされているけど、今のところ農業の勇者以外で煉獄領土で作物が育ったと言う話は一度もない」


 そんな話をしている間もカレンは魔法を発動して瞬く間に荒れ放題だった農地を伐採していった。


「よし、今日はこの辺で止めよう」

「なんか全部任せてしまったな」

「気にするな。どうせ明日からはダイチに殆ど任せることになる」


 作業が終わって街へと戻る。

 行き同様カレンが一緒にいるからか大地を襲ってくる輩は現れず、無事に宿の前まで来る事が出来た。

 久し振りの農作業は充実したもので終われた。





「来たな。カレン」

「王城に登場しないから城はパニックだど」

「農家の勇者、お前の差し金か」


 ……人が折角いい気持ちで終われたと思ったのに。


 宿に戻ると知らない騎士が鎮座していた。

 しかも三人もいる。

 細身の長身の男とそれ以上にでかいがデブな男、小柄な男となんとも凸凹した感じの三人でチビの男が俺を睨んでくる。


 そんな大地を隠すようにカレンは前に出た。


「一体何のようだ?」

「用だも何もあんたが勝手に止めたから今城の中はパニックになってるんだよ」

「辞任は正式な手続きを踏んだんだ。何も問題はないはずだろう」

「問題あるだろ。書類整理の仕事があんなに残って……」

「ああ、そういう事、あの筋肉ダルマが仕事できないでいるのか」

「うぐっ!」


 何がそう言う事なのか聞くと、この男のいう書類仕事は本来軍部のトップである将軍がやらないといけないものらしい。のだがその将軍は頭の方はからっきしで書類仕事は丸っきり駄目で仕事を部下に押し付けるような奴なのだという。

 それだけ聞けば自ずと話は見えてくる。

 要するにその脳筋将軍はカレンに仕事を頼んでいたが、カレンが辞めた際にその将軍の仕事はやらずに残していたため、今仕事は将軍の元に戻って来て現在書類仕事に追われていると……で、この三人は頼んだ仕事をやってからやめろと将軍が寄越した使い……。

 カレン何の問題も無いよな?

 そんな仕事を部下に押し付けるような奴が将軍な方が問題な気がする。


「筋肉ダルマに自分の仕事ぐらい自分でやれと言っておけ」


 どちらに問題があるかなんて分かり切っている論争に負けて三人は「覚えてろよ」と言って去って行った。

 本当に何しに来たんだよ。


「はぁ、無駄な時間を使ったな」

「本当にな」


 三人が去ったのを見てカレンが溜息を吐いた。


「なんか最後に邪魔があったが、取り敢えず宿に入ろう」


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