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1.

 俺、柊木大地。高校二年生。

 人よりもちょっと無欲なオタクである。


 客観的に自分を説明しろと言われれば大抵の者は自分をそう言うだろう。

 本人として物申すなら今時オタクなんて腐るほどいるので大した特徴にもならないし、無欲って言うのも語弊がある。


 話が飛躍するが、自分はこの国があまり好きではない。


 平民主導の民主主義の政策がなされてから早……何年だっけ? とにかく長く続いてしまった。

 戦後、平均寿命60歳代、まだ携帯すらない時に造った政治システムが時代遅れになっているのはまだ若輩の自分でも感じてしまうほど酷い物だ。

 とにかく政治家たちの行う行動が遅い。

 賄賂? 汚職? 問題発言?

 そんなことやっている間に世間ではどんどんルールの灰色なゾーンをつく汚い人間が増えているのに気づかないのかな?

 一般人の俺でも一目瞭然の事をなぜエリート大学での自称頭のいい連中は分からないのかね。

 これ大半の民衆は思っていて間違いないと思う。


 と、脱線した。

 何が言いたいのかというとだ。


 そんな泥沼な世界で地位や権力を持って生きる意味があるのか?


 少なくとも俺はない。

 今の夢はオタク文化を楽しみながら誰にも迷惑をかけずに死ぬ事だ、と言える。

 そんなだから延長線で金にも興味ない。

 贅沢な暮らしが嫌だって事はないけど美味しいと感じる食事に、汚いと思われない服、住み慣れた家があれば無理に贅沢する必要なんてないと思ってる。

 うん、やっぱり無欲ではないな。

 食事(300円以下)、服(中古500円)、家(実家)も欲しているもんな。


 そんな高校生の俺の最近の悩みは大人になるのが不安だ。

 大人ってあれだ。

 生活費稼ぐために仕事に追われる毎日を40年も続ける昭和の社畜根性で出来上がった社会に生きるって事だろ?

 なんでそんな無理に働かないといけないんだって思う。

 贅沢したい奴とか、仕事が好きな奴はいいと思うよ、頑張っただけ見返りがあるから。

 けどそうじゃない普通の奴にまで同じ仕事量を押し付けないで欲しい。

 一日8時間労働が基本?

 おかしくない?

 会社に入って働くのってそれその物がブラックでしょう。

 一日6時間も働いたら十分生きていける。

 自給自足で生活してのんびり過ごせると思わない?


 高校に入ってもはや企業に入って成り上がろうという想いはなくスローライフ=農家だという安直な理由で農業に興味を持った。

 でもすぐに日本は江戸時代の負の遺産で農家は儲からないシステムが出来上がっているって知って絶望した。

 どうやらこの世界ではスローライフは送れないらしい。


 それが17年の生涯で行く着いた結論だった。





「……きて……きなさい……起きなさいよっ!!」

「うおっ!? え? 何? もう放課後!?」


 耳元に大音量が鳴り響き大地はがバッと顔を上げた。

 「もう放課後」、なんて言っている事からも分かる通り居眠り常習犯の大地は目を覚ますと目の前に立っている人影に視線を向けた。

 たぶん友人や教師だろうと顔を向けた先にいたのは、


「……誰?」

「ようやく起きたわね」


 目の前にいたのは見知らぬ美少女だった。

 大地は学校の女子を全員覚えている訳ではないが、ここまで顔立ちが良ければ噂ぐらい聞きそうな程整った顔立ちの少女は大層お冠な顔を大地に向けていた。


「私は女神ヘファナ。寝ぼけている所悪いけど説明するわよ。あなたのクラスは勇者召喚の儀式によって異世界へと転移する最中です」


「ふぁっ!?」


 寝起き直後の大地は突然異世界転移中と言われて目が冴えた。

 周りは教室ではなく小さな個室のようだ。

 クラスで召喚されているというのに周りにクラスメイトの姿がない。


 普通なら「ふざけたどっきりか?」と疑いにかかる所だ。

 しかし大地はなぜかこの状況が異世界転移中であるとすんなりと納得してしまった。


 女神ヘファナは続ける。


「彼らはがいないのは現在転移一歩前の待機状態に既に入っている為、ここにいないからです。きちんとあなたの寝ている間に向こうの世界の説明をしてね」

「え? じゃあ俺に説明は?」

「寝ていたのですから聴ける訳ないでしょう」

「ええ!? なんで起こしてくれなかったんだっ!」

「一応言っておきますけど起こそうとしましたからね? 説明に入る前に何度も呼びかけましたよ」


 大地の抗議にぷんぷんといった様子で逆に文句を言うヘファナ。


「でもあなた、『あと十分寝かせて』と言って一向に起きようとしなかったんですよ。周りにいる真面目な人達を待たせるのも気が引けましたし、自業自得と起きるまで放置しました。それで結局十分どころか最後になっても起きないからこうなっているんです」

「えっと、じゃあ俺はこのまま説明受けずに転移させるのを伝える為に待っていてもらった?」

「いえ、もしそうなら寝たまま転移させています。起こしたのにはきちんと理由があります。向かう世界にはステータスが存在し職業(ジャブ)という項目があります。これを決めずに転移する事はできない決まりですから仕方なく起こしたんです。女神である私でも職業を勝手には決められませんから」


 なるほど、そういう系の異世界転移か、と大地は己の知るライトノベル知識から似たような話を思い出した。


「つまり職業を決めるとその職業にあったステータスやスキルが手に入るって事ですね」

「……寝ていた割に理解が早いですね。その通りです。では早速あなたのつける職業を表示します」


 そう言うと大地の視界に半透明のディスプレイが表示された。


 まず表示されたのは戦闘職だった。

 『勇者』から始まって『聖騎士』『戦士』『盗賊』『格闘家』。

 勇者がある時点で向こうの世界に魔王もいる気がする。

 そうなると勇者召喚なのだから魔王によって窮地に陥っている世界を救ってくれというお約束展開か?


 異世界に言ってチーレム無双を目指すなら勇者が最も厚遇職である。

 しかし大地は戦闘職を一気に飛ばした。


 大地もチーレム無双異世界転移は好きだ。

 だがそれは飽くまで見るのがであって自分が戦うのは真っ平ごめんであった。

 小説の主人公達は簡単に行っているけど無双するという事はそれだけ生き物を殺すという事だ。

 手術などで血がドバっと出たり、内臓が飛び出すのを間近で何度も見続けないといけないのと同じ。

 慣れれば平気になるっていうけど大地からしたら慣れる前にトラウマになると言いたかった。


 ……それと肉は腐ってただれ落ちて、目は落ちかけてたり、骨が丸見えのゾンビや筋肉は無いはずなのに歩いてくるスケルトンとか普通に怖い。


 大地としては危険のない場所で安全安心なスローライフを送れる職業に就きたかった。


「えっと、本当にこれでいいの? あなた勇者も選べたんでしょ?」


「ああ、これで頼む」


 職業を選ぶと女神ヘファナは困った顔で大地に最終確認をした。

 女神様的には勇者を選ぶと思っていたようだ。

 まぁ、普通はそうなのだろうけどやっぱり変える気はない。


「で、では柊木大地さん職業を与え転移を始めます。……気を付けて過ごしなさいよ」


「ありがとう。危険はなるべく回避するようにするよ」


 大地の選んだ職業は『農業』


 スローライフを送るのなら生産系の職業を選ぶのが基本と言える。

 宗教に関わる『神官』や運営に優位な『会計士』といった物だと社畜にされそうだが生産職なら戦闘に駆り出される可能性は少なし、市民の職業だから組織の中に組み込まれる心配もなさそうに思えた。

 生産職の中で人気そうなものは『鍛冶』、『錬成』、『農業』。

 その中で『鍛冶』と『錬成』は武器やアイテムで戦闘に行く勇者と拘わらないといけない。

 もしかしたら武器の手入れ係として旅に同行する事があるかもしれない。

 そうなったら非戦闘員なのに戦場に送られることになる。

 戦闘職を選ぶ以上に危険だ。

 だから『農業』がスローライフを目指す上で最良だと大地は結論付けた。

 

 大地の目標は一つ。

 農業を中心に自給自足してのんびり遊び呆けながら老衰するまで一生を過ごす。


 こちらの世界ではできない、と諦めていた生活を夢見て大地は異世界への第一歩を踏み出したのだった。


1話目を読んで下さりありがとうございます。

1話目ではただの異世界転移するだけの話ですのでもう何話か読んで面白いと感じましたらブックマークをしてくれれば幸いです。

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