ウルニア篇(序)
いよいよ3部後半。あの世界的に有名なあの人も登場予定です(多分)
3部(バクロン篇)の登場人物まとめ
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。
コンコン…先先代妖狐。伎芸天女の童女に憑依したり子狐に憑依したり。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。子猫にもなる。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。
パナ(パー子)…元八娘。新造人間となりアルディンと結婚。
アルディン…バクロン第5王子。14歳。パナと結婚。
ケイトー…アルディンのお付き。暗殺者出身の凄腕魔術師。
ノヅリ…バクロン第3王子。元魔法省長官。35歳。
フサイ…バクロン第1王子。50歳。国王に即位。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
3-16.ウルニア篇(序)。
「革新者万歳!」
フサイ新国王は、勲章だけでなく感謝の意を表すため、前回のパレードの際に民衆が叫んだ革新者という称号を俺に正式に授与した。これで革新者で英雄だ。
「土産に重いものではないからな」
フサイは堅物という評判だったが、結構バランスの取れた人格だった。長く宰相の地位にあり下々の事情も知り抜いていたので、きっといい国王になるだろう。彼の3人の王子と2人の姫も中々しっかりしていて、後継者不足にもならないですみそうだった。彼らもまさか成人してから王子王女になるとは思いもしなかったので、傲慢な所も見られなかった。
「いやあ本当に世話になった。ありがとう」
ノヅリ先生は、そそくさと退職の処理をしながら俺に言った。
「気になっていた事(即位問題と魔法界の危機)がいっぺんに片付いて本当に良かった。これで気兼ねなく旅に出れるよ。まあ長官なんて言っても僕はお飾りだったから居なくても大丈夫でしょう」
片付けを手伝っていた魔法省の職員が涙目で一斉にブンブン首を横に振った。身分によらず実力本位に魔術師組合を改革するなど、ノヅリ先生はバクロンの魔法界に大きな功績を残したのだ。
ケイトーはアルディンの護衛をお役ご免になり、魔法省に就職した。有能なので出世するかも知れない。人見知りが治れば。
パナが魔術師として再出発する事についても先生は全面的に協力し、元々シバヤンから与えられていたペンジクの魔術を先生が学ぶ代わりに、護衛と敵の排除に特化したバクロンの上級までの魔法をパナに伝授した。やはり弟が心配だったのだろう。俺ははなむけにジョウザで学んだあの花火の魔法と、コンコンから習った木の葉隠れを伝授した。これで生計と緊急脱出はバッチリだ。
「アルディン殿(もう殿下ではない)はこれからどちらへ?」
「王家から離れる報告とお詫びのため、まずはエルロン様の神殿にお参りし、その後は国内を廻りたいと思います」
「僕もエルロン神殿までは同行しようと思っている」
「ならば私たちもご一緒させて頂けませんか?パーサも寂しがっていますので」
そうなのだ。クローンとして分裂され、一卵性双生児よりももっと緊密に繋がっていたパー子はパナとして生まれ変わり、ずっと心が繋がっていたのが今はもう別人になった。パーサにはこれが"寂しい"という感覚とは理解できず『なんか半分心が無くなったみてゃあな変な感じ』と言っているが、パーサにとっての"パー子ロス"は結構深刻に見えた。
一方のパー子は頭の中が『アルディン大好き♡』で一杯なので、まだパーサと永遠に絆が切れる事に実感がないみたいだが、いつかはそう言う空洞感みたいなものが出てくるんだろうな。まあその頃には子育てでそれどころじゃないかも知れないが(今度のホムンクルスの体はもちろん妊娠できる)。ぼんやりとラン子を撫でているパーサの為に、もう少しパー子との時間を作ってやりたかった。
あと今回はラン子に乗らず、フサイ国王が末弟の為に用意してくれた新型馬車に便乗する旅もしてみたかった。やはり旅行家たるもの、目的地だけでなく、旅程の風景なども記しておきたい。
「神殿に行った後ですけど、一箇所是非寄りたい場所があるんです。良かったらご一緒しませんか?」
「へえ、イザン朝はバクロン一極集中で、後は田舎ばっかりだよ。どこ行くの?」
「ウルニアの廃都です」
「それはマニアックな。お宝でもあるの?」
俺は先生に見せて貰った資料を研究するうち、重大な事実に気づいた。この地に最初に出来た国家、スメルの神は今もエルロンとして信仰を集めている事。そしてエルロンはスメルではヌナムニエルと呼ばれていた事である。俺はモヘンジョでシャミラムという名の巫女の幽霊に、ヌナムニエルの神に詫びて欲しいと頼まれた経緯をノヅリ先生に話した。
「成る程ね。インディーズ川流域にスメルの民が…。興味深い。アギトの征服でスメル人がどうなったかは、ちょっとした謎なんだよ。でもね、君は一つ大きな間違いをしている」
なんですと?
「エルロンとヌナムニエルは同じ神ではない」
例えばアギトはスメル文化を継承したが、言語も違っていたし、信仰している神々も違った。でも彼らの神々がスメルの神々と同じ。とした方が色々都合が良かったんだ」
そうか、神の同一視という奴だな。例えばギリシャ神話の最高神ゼウスはローマではジュピター。美の女神はギリシャではアフロディテがローマではビーナス。という様に性格が似ている神が同一のものとされる現象だ。
「この西南レムリアの地では、大河ロムルスとレムスの間の三角洲だけが豊かで、後は砂漠のオアシスに細々と人が住んでいる。都会のウルニアに憧れてアギト族が攻め込み、スメルを滅ぼした。その後もこの肥沃な賞品目指して、ミタニだったりアッチラだったりバロニアだったりイザン朝だったり。色んな民族がこの地を征服した。その都度、言語も風習も政治も首都も変わったけど、神様だけは同じ。という事になってる。でも本当は別人(神)なんだよね。征服者が非征服民に
「お前たちの神は実は俺たちの神と同じなんだ」と言って支配したんだね。だからこの地方の神々は人格(神格)が分裂気味でボンヤリしてる。それで南レムリアの神々みたいに、人間のとこまで余り下りて来ないんだ」
前世の日本ではアマテラスと言う太陽神を信仰する大和朝廷が地方の豪族を征服する時、その豪族の信仰する神を次々と神々のピラミッドに組み入れて行った結果、八百万の神々というシステムが成立した。日本は言葉も比較的通じる中での勢力争いだからそれで納得したのだろうけど、文化から言葉からまるで違う民族の征服がくり返されるこの地では、
「お前たちの神はうちの神さんと同じなんや」
と強引に同一視する事が必要だったのだろう。
「征服した民族が"俺たちの神だけが本物。お前たちのは偽の神だから、神殿を焼き払え"とかは無かったんですか?」
「聞いた事ないねえ。だって神々の恨みって怖いじゃないか」
成る程、レムリアにキリスト教やイスラム教のカーボンコピーが広がらなかった理由はこれか。
「レムリアでは神々が近い」
「それで、皆さんもどうでしょう?ウルニア」
「新婚旅行にはちょっと陰気ですねえ」
「まあいいんじゃない?ウラナ殿達ともあと少しだからお名残惜しいよ。女の子がキャッ怖い!とか言って男が助けるのも良いんじゃないかな?」
「なんかこのメンバーの女性にそんな弱い人はいないですねえ。私やウラナ殿が助けられそう」
違ぇねえ。オコ、パナ。そこで"キャッ!"の練習はいいから。
「大勢の旅は楽しいし。たまには良いかも知れませんね。肝試しも」
肝試し?
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